プッチーニ 歌劇『ラ・ボエーム』
2011.03.22
青春が輝きだすその一瞬
1830年頃のパリ。クリスマス・イヴの午後、学生街ラテン区の屋根裏部屋で、詩人ロドルフォと画家マルチェッロが寒さに震え、軽口を叩きながら仕事をしている。そこへ哲学者コルリーネ、音楽家ショナールが加わり、陽気なやりとりが繰り広げられる。家賃を取り立てに来た家主を体よく追い出した4人は、食事に行くことにするが、ロドルフォは書きかけの原稿を片付けるため、3人に先に出てもらう。それからややあってノックの音。隣に住んでいるお針子ミミが、ロウソクの明かりをもらいに来たのである。ミミの美しさに心奪われるロドルフォ。彼らは自己紹介をする。愛の予感は、すぐに確信へとかわる。2人は惹かれ合い、共に愛を謳う。ここまでが第1幕。
第2幕は、みんなで食事をしに来た〈カフェ・モミュス〉が舞台。そこでマルチェッロと仲違いした元恋人ムゼッタが、すったもんだの末、よりを戻すまでを描いている。
第3幕は、それから2ヶ月経った2月下旬。ロドルフォとミミは心ならずも傷つけ合うだけの関係になっている。おまけに彼女は重い病気で、このまま貧乏暮らしをしていては長生きできない。2人は別れる決意をする。それと同時進行でムゼッタとマルチェッロもつまらないことで喧嘩し、罵り合って別れる。
第4幕では、再び屋根裏部屋へ。数ヶ月後、ミミとムゼッタは金持ちの愛人になっていた。それを知って意気消沈する男たち。しかしコルリーネ、ショナールがやってくると、いつのまにか馬鹿騒ぎに。そこへムゼッタがミミを連れてやってくる。容態の悪化したミミが、愛するロドルフォのそばに戻りたいと切望したのだ。ミミのためになんとかしてやろうとする仲間たち。しかし、その甲斐なく彼女は思い出に浸りながら死んでゆく。
見せ場はなんといっても第1幕の後半、ロドルフォとミミが出会い、ミミが落とした鍵を暗闇の中で探し、自己紹介し合い、急速に愛がふくらむまでの畳み掛けるような展開である(「まあ、うっかりしたわ」→「冷たい手を」→「私の名はミミ」→「おお、うるわしい乙女よ」)。プッチーニならではの甘美なメロディーと光彩に満ちた管弦楽のアンサンブルが矢継ぎ早に押し寄せてきて、耳がとろけそうになる。また、第1、2幕で印象的に使われたテーマを、第3、4幕でうまく回想させることで切なさを掻き立てるあたり、メロドラマの達人プッチーニの真骨頂というほかない。
こういう音楽を聴いていると、アンドレ・ジイドの言葉を思い浮かべずにいられない。「ああ青春、人は一生にいっときしかそれを所有しない。残りの年月はただそれを思い出すのみ」
『ラ・ボエーム』ほど「甘く切ない」という表現がぴったりくる青春オペラはほかにない。貧しさの中無茶をしたり、たわいもないことで大騒ぎしたり、一瞬で異性に心奪われたり、といった若者たちのエピソードは、きっと私たちの青春の記憶を刺激し、胸を締めつけることだろう。今青春真っ盛りの人が聴けば、おそらく自分の分身をこの作品の中に見出すのではないか。
1830年頃のパリ。クリスマス・イヴの午後、学生街ラテン区の屋根裏部屋で、詩人ロドルフォと画家マルチェッロが寒さに震え、軽口を叩きながら仕事をしている。そこへ哲学者コルリーネ、音楽家ショナールが加わり、陽気なやりとりが繰り広げられる。家賃を取り立てに来た家主を体よく追い出した4人は、食事に行くことにするが、ロドルフォは書きかけの原稿を片付けるため、3人に先に出てもらう。それからややあってノックの音。隣に住んでいるお針子ミミが、ロウソクの明かりをもらいに来たのである。ミミの美しさに心奪われるロドルフォ。彼らは自己紹介をする。愛の予感は、すぐに確信へとかわる。2人は惹かれ合い、共に愛を謳う。ここまでが第1幕。
第2幕は、みんなで食事をしに来た〈カフェ・モミュス〉が舞台。そこでマルチェッロと仲違いした元恋人ムゼッタが、すったもんだの末、よりを戻すまでを描いている。
第3幕は、それから2ヶ月経った2月下旬。ロドルフォとミミは心ならずも傷つけ合うだけの関係になっている。おまけに彼女は重い病気で、このまま貧乏暮らしをしていては長生きできない。2人は別れる決意をする。それと同時進行でムゼッタとマルチェッロもつまらないことで喧嘩し、罵り合って別れる。
第4幕では、再び屋根裏部屋へ。数ヶ月後、ミミとムゼッタは金持ちの愛人になっていた。それを知って意気消沈する男たち。しかしコルリーネ、ショナールがやってくると、いつのまにか馬鹿騒ぎに。そこへムゼッタがミミを連れてやってくる。容態の悪化したミミが、愛するロドルフォのそばに戻りたいと切望したのだ。ミミのためになんとかしてやろうとする仲間たち。しかし、その甲斐なく彼女は思い出に浸りながら死んでゆく。
原作はフランスの作家アンリ・ミュルジェールの『ボヘミアンたちの生活情景』という23章の短編からなる小説。出版年は1851年。ここから題材を得て、ルイージ・イルリカとジュゼッペ・ジャコーザが台本を書いた。オペラが完成したのは1895年12月10日。初演は1896年2月1日に行われた。日本で初演されたのは1921年のこと。我が国でも比較的早いうちから親しまれている作品なのである。
見せ場はなんといっても第1幕の後半、ロドルフォとミミが出会い、ミミが落とした鍵を暗闇の中で探し、自己紹介し合い、急速に愛がふくらむまでの畳み掛けるような展開である(「まあ、うっかりしたわ」→「冷たい手を」→「私の名はミミ」→「おお、うるわしい乙女よ」)。プッチーニならではの甘美なメロディーと光彩に満ちた管弦楽のアンサンブルが矢継ぎ早に押し寄せてきて、耳がとろけそうになる。また、第1、2幕で印象的に使われたテーマを、第3、4幕でうまく回想させることで切なさを掻き立てるあたり、メロドラマの達人プッチーニの真骨頂というほかない。
こういう音楽を聴いていると、アンドレ・ジイドの言葉を思い浮かべずにいられない。「ああ青春、人は一生にいっときしかそれを所有しない。残りの年月はただそれを思い出すのみ」
映像は、ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮、フランコ・ゼフィレッリ演出による作品がおすすめである。ミミ役は若きミレッラ・フレーニが歌っている。演出はオーソドックスだが、このオペラにいたずらに斬新さを求めても仕方ないだろう。CDは、イタリア・オペラ黄金期の名歌手が勢揃いした1959年録音のセラフィン盤と、フレーニ以前の〈理想のミミ〉だったヴィクトリア・デ・ロス・アンヘレスが歌った1956年録音のビーチャム盤の2種類があれば不足はない。
(阿部十三)
ジャコモ・プッチーニ
[1858.12.22-1924.11.29]
歌劇『ラ・ボエーム』
【お薦めディスク】(掲載ジャケット:上から)
ミレッラ・フレーニ、ジャンニ・ライモンディ、
ロランド・パネライ、アドリアーナ・マルティーノ
ミラノ・スカラ座管弦楽団&合唱団
フランコ・ゼッフィレッリ演出
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮
録音:1965年
レナータ・テバルディ、カルロ・ベルゴンツィ、
エットーレ・バスティアニーニ、ジャンナ・ダンジェロ
サンタ・チェチーリア国立アカデミー管弦楽団&合唱団
トゥリオ・セラフィン指揮
録音:1959年
ヴィクトリア・デ・ロス・アンヘレス、ユッシ・ビョルリング、
ロバート・メリル、ルシーネ・アマラ
RCAビクター管弦楽団&合唱団
サー・トーマス・ビーチャム指揮
録音:1956年
[1858.12.22-1924.11.29]
歌劇『ラ・ボエーム』
【お薦めディスク】(掲載ジャケット:上から)
ミレッラ・フレーニ、ジャンニ・ライモンディ、
ロランド・パネライ、アドリアーナ・マルティーノ
ミラノ・スカラ座管弦楽団&合唱団
フランコ・ゼッフィレッリ演出
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮
録音:1965年
レナータ・テバルディ、カルロ・ベルゴンツィ、
エットーレ・バスティアニーニ、ジャンナ・ダンジェロ
サンタ・チェチーリア国立アカデミー管弦楽団&合唱団
トゥリオ・セラフィン指揮
録音:1959年
ヴィクトリア・デ・ロス・アンヘレス、ユッシ・ビョルリング、
ロバート・メリル、ルシーネ・アマラ
RCAビクター管弦楽団&合唱団
サー・トーマス・ビーチャム指揮
録音:1956年
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