リムスキー=コルサコフ 交響組曲『シェヘラザード』
2011.06.12
音楽で愉しむアラビアン・ナイト
『千一夜物語』ーーアラビアン・ナイトの呼び名で知られる物語集のいくつかのエピソードは童話に出てくるし、映画化もされている。子供の頃、シンドバッドやアリババの活躍に胸躍らせた方はきっと多いと思う。その魅惑に満ちた世界を華麗な音楽で表現したのが、交響組曲『シェヘラザード』である。
作曲したのはリムスキー=コルサコフ。バラキレフ、キュイ、ムソルグスキー、ボロディンと共に、ロシア国民楽派〈五人組〉に名を連ねる人物だ。作曲家としてはもちろんのこと、教育者としても高名で、彼の門下からグラズノフ、ストラヴィンスキー、レスピーギといった天才が世に出ている。
『シェヘラザード』は1888年初演作品。4つの楽章に分かれており、それぞれに標題がついている。第1楽章は「海とシンドバッドの船」、第2楽章は「カランダール王子の物語」、第3楽章は「若き王子と若き王女」、そして第4楽章が「バグダットの祭り、海、船は青銅の騎士のある岩で難破、終曲」。どの楽章も描写力に富んでおり、リムスキー=コルサコフならではの色彩感あふれるオーケストレーションをたっぷりと堪能できる。また、威圧的な〈シャハリアールの主題〉と、ヴァイオリン・ソロによる〈シェヘラザードの主題〉が形を変えて何度か登場し、あたかもシェヘラザードが王様に語りかけているような雰囲気を出している。なんとも心憎い演出だ。
第1楽章での、荒波がうねりまくる海の上を進む船の様子など、まるで目に見えるかのようで興奮せずにいられない。リムスキー=コルサコフは若い頃、海軍士官候補生として数年間遠洋航海に出ていたことがあった。波のリアルな描写は、その航海の体験あってのものだろう。第2楽章は、異国趣味的なメロディーを巧みに織り交ぜながら、時にユーモラスに、時にドラマティックに展開する。かと思えば、第3楽章では、ドヴォルザークも顔負けの甘くロマンティックなメロディーが登場し、半音階的走句と交錯して幻想的な愛の世界を描き出す。第4楽章では、これまでの楽章で出てきた主題を再現しつつ、力強いクライマックスを築き上げ、最後は〈シェヘラザードの主題〉と〈シャハリアールの主題〉を絡ませて静かに終わる。
ひとことで言えば、聴覚だけでなく視覚にも訴えるような音の絵巻物。これを「通俗的作品」と批判する人もいるが、オーケストラ音楽の楽しさを味わう上で絶対外せない作品である。
別の指揮者で押さえておきたいのは、カラヤン指揮、ベルリン・フィルによる1967年の録音。綺麗にまとまりがちなレコーディングでのカラヤンらしからぬ、燃えるような荒々しさにまず圧倒される。そして、コンサート・マスターのミシェル・シュヴァルベが奏でる魅力的なヴァイオリン・ソロ。その艶のある美音に魅せられたが最後、ほかのソロでは物足りなくなるに違いない。
【関連サイト】
交響組曲『シェヘラザード』(CD)
昔々、ペルシアの王様シャハリアールは、妃の浮気がもとで女性不信に陥ってしまいました。王様は妃を殺してしまうと、それ以来、毎日のように城下から娘を連れてこさせました。一晩だけ過ごして、殺すためです。ある日、大臣の娘シェヘラザードが差し出されることになりました。しかし、彼女はほかの娘とは違いました。知性に富んだ彼女は、王様の寝室で好奇心をそそるような物語を聞かせると、いいところで話を打ち切りました。続きが気になる王様は、シェヘラザードの処刑を延ばしました。そんなことが千と一晩繰り返されたあと、王様は残酷な考えを捨ててシェヘラザードを正式な妃として迎えたのでした。
『千一夜物語』ーーアラビアン・ナイトの呼び名で知られる物語集のいくつかのエピソードは童話に出てくるし、映画化もされている。子供の頃、シンドバッドやアリババの活躍に胸躍らせた方はきっと多いと思う。その魅惑に満ちた世界を華麗な音楽で表現したのが、交響組曲『シェヘラザード』である。
作曲したのはリムスキー=コルサコフ。バラキレフ、キュイ、ムソルグスキー、ボロディンと共に、ロシア国民楽派〈五人組〉に名を連ねる人物だ。作曲家としてはもちろんのこと、教育者としても高名で、彼の門下からグラズノフ、ストラヴィンスキー、レスピーギといった天才が世に出ている。
『シェヘラザード』は1888年初演作品。4つの楽章に分かれており、それぞれに標題がついている。第1楽章は「海とシンドバッドの船」、第2楽章は「カランダール王子の物語」、第3楽章は「若き王子と若き王女」、そして第4楽章が「バグダットの祭り、海、船は青銅の騎士のある岩で難破、終曲」。どの楽章も描写力に富んでおり、リムスキー=コルサコフならではの色彩感あふれるオーケストレーションをたっぷりと堪能できる。また、威圧的な〈シャハリアールの主題〉と、ヴァイオリン・ソロによる〈シェヘラザードの主題〉が形を変えて何度か登場し、あたかもシェヘラザードが王様に語りかけているような雰囲気を出している。なんとも心憎い演出だ。
第1楽章での、荒波がうねりまくる海の上を進む船の様子など、まるで目に見えるかのようで興奮せずにいられない。リムスキー=コルサコフは若い頃、海軍士官候補生として数年間遠洋航海に出ていたことがあった。波のリアルな描写は、その航海の体験あってのものだろう。第2楽章は、異国趣味的なメロディーを巧みに織り交ぜながら、時にユーモラスに、時にドラマティックに展開する。かと思えば、第3楽章では、ドヴォルザークも顔負けの甘くロマンティックなメロディーが登場し、半音階的走句と交錯して幻想的な愛の世界を描き出す。第4楽章では、これまでの楽章で出てきた主題を再現しつつ、力強いクライマックスを築き上げ、最後は〈シェヘラザードの主題〉と〈シャハリアールの主題〉を絡ませて静かに終わる。
ひとことで言えば、聴覚だけでなく視覚にも訴えるような音の絵巻物。これを「通俗的作品」と批判する人もいるが、オーケストラ音楽の楽しさを味わう上で絶対外せない作品である。
録音では、チェリビダッケが指揮したライヴ盤が良い。一音一音のニュアンスを大切にしており、それでいてスケールが大きい。ミュンヘン・フィルを指揮したものと、シュトゥットガルト放送響を指揮したものがあり、どちらも緻密な演奏だが、前者は大河のような悠久不変のスケール感をたたえ、後者はメリハリが利いていて勇壮感がある。私は後者を聴いて『シェヘラザード』の世界に溺れた。
別の指揮者で押さえておきたいのは、カラヤン指揮、ベルリン・フィルによる1967年の録音。綺麗にまとまりがちなレコーディングでのカラヤンらしからぬ、燃えるような荒々しさにまず圧倒される。そして、コンサート・マスターのミシェル・シュヴァルベが奏でる魅力的なヴァイオリン・ソロ。その艶のある美音に魅せられたが最後、ほかのソロでは物足りなくなるに違いない。
(阿部十三)
交響組曲『シェヘラザード』(CD)
ニコライ・リムスキー=コルサコフ
[1844.3.18-1908.6.21]
交響組曲『シェヘラザード』作品35
【お薦めディスク】(掲載CDジャケット:上から)
シュトゥットガルト放送交響楽団
セルジウ・チェリビダッケ指揮
録音:1982年2月18日(ライヴ)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮
録音:1967年1月
[1844.3.18-1908.6.21]
交響組曲『シェヘラザード』作品35
【お薦めディスク】(掲載CDジャケット:上から)
シュトゥットガルト放送交響楽団
セルジウ・チェリビダッケ指揮
録音:1982年2月18日(ライヴ)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮
録音:1967年1月
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