ラフマニノフ ピアノ協奏曲第2番
2013.05.22
20世紀最初のロマンティック・コンチェルト
1897年3月に初演された交響曲第1番が大失敗に終わった後、ラフマニノフが強度の神経衰弱に襲われ、スランプに陥ったことはよく知られている。作曲への自信を失い、創作意欲も失った彼は、様々な治療法を試してみたものの、結局、何の効果も得られなかった。
転機が訪れたのは1900年。友人のすすめでニコライ・ダーリ博士の暗示療法を受けたラフマニノフは、創作意欲を取り戻し、ピアノ協奏曲第2番の作曲に着手。まずは第2楽章と第3楽章を完成させ、1901年春に全曲を書き上げた。初演日は1901年10月27日。作曲者自身のピアノ、従兄アレクサンドル・ジロティの指揮、モスクワ・フィルハーモニー管弦楽団の演奏で行われ、爆発的な成功をおさめた。作品は、感謝の意を込めて、ダーリ博士に献呈されている。
ロシアの作曲家のピアノ協奏曲といえば、まずチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番が思い浮かぶが、人気の面ではこのラフマニノフのピアノ協奏曲第2番も負けてはいない。創作意欲が途絶えていたスランプ期も、全てこの作品を書くために必要な時間だったのではないかと思えるほど、構成にも、華やかなピアノの見せ場の作り方にも、旋律の抒情的な美しさにも、「欠けたることもなし」という言葉がしっくりくるような十全さを感じる。そういう意味では、ラフマニノフ自身が「最高」と評したグリーグのピアノ協奏曲に通底するものがある。そんなに長い作品ではないのに、聴く者を丸呑みして、激しくもロマンティックな世界にどっぷり浸らせてくれるスケール感もある。ロマンティック・コンチェルトの代名詞といっても過言ではない。
第1楽章から第3楽章まで、どの楽章も魅力的で充実している。なんだかんだいっても第1楽章に力が入っていたり、終楽章に聴き所が集約されていたり、という例は少なくないが、この作品に関しては、作曲者の創作意欲の質量がどこかに偏っているということはない。最もポピュラーなのは第3楽章の少し愁いを含んだ第2主題だろうが、最もドラマティックなのは第1楽章だし、最も甘美でロマンティックなのは第2楽章である。ちなみに、私は第2楽章の148小節からのコーダが作品全体を通してのハイライトだと思っている。
人気の高い作品なので、映画やドラマに使われる回数も多い。私にとって思い出深いのはデヴィッド・リーンの『逢びき』。映画全体がラフマニノフのピアノ協奏曲第2番づくし、なのである。ピアニストはアイリーン・ジョイス。そのピアノが大人の不倫物語を彩っている。第2楽章のコーダの使い方もうまい。
録音の種類は沢山あるが、ラフマニノフ自身が演奏したものや、スヴャトスラフ・リヒテル、ヴラディーミル・アシュケナージが演奏したものが非常に有名である。比較的新しいところでは、クリスティアン・ツィマーマンが代表格。また、ラン・ランやユジャ・ワンなど中国人ピアニストの録音もそれなりに高く評価されている。
私はリヒテルのピアノでこの作品を知り、それから色々聴き漁った後、リヒテルに戻った。徹底的にロマンティックに弾くのも、気取ったフレージングで弾くのも、別に悪くないとは思うが、もう私はそういう演奏には関心が持てない。重さ、暗さ、厳格さの中から充血するようにしてこぼれ出て渦を巻くロシアン・ロマンティシズムこそ、この作品にふさわしいと思っている。リヒテルがクルト・ザンデルリンクと組んだ1959年の録音は、私のそういう要求にこたえてくれる。
【関連サイト】
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番(CD)
1897年3月に初演された交響曲第1番が大失敗に終わった後、ラフマニノフが強度の神経衰弱に襲われ、スランプに陥ったことはよく知られている。作曲への自信を失い、創作意欲も失った彼は、様々な治療法を試してみたものの、結局、何の効果も得られなかった。
転機が訪れたのは1900年。友人のすすめでニコライ・ダーリ博士の暗示療法を受けたラフマニノフは、創作意欲を取り戻し、ピアノ協奏曲第2番の作曲に着手。まずは第2楽章と第3楽章を完成させ、1901年春に全曲を書き上げた。初演日は1901年10月27日。作曲者自身のピアノ、従兄アレクサンドル・ジロティの指揮、モスクワ・フィルハーモニー管弦楽団の演奏で行われ、爆発的な成功をおさめた。作品は、感謝の意を込めて、ダーリ博士に献呈されている。
ロシアの作曲家のピアノ協奏曲といえば、まずチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番が思い浮かぶが、人気の面ではこのラフマニノフのピアノ協奏曲第2番も負けてはいない。創作意欲が途絶えていたスランプ期も、全てこの作品を書くために必要な時間だったのではないかと思えるほど、構成にも、華やかなピアノの見せ場の作り方にも、旋律の抒情的な美しさにも、「欠けたることもなし」という言葉がしっくりくるような十全さを感じる。そういう意味では、ラフマニノフ自身が「最高」と評したグリーグのピアノ協奏曲に通底するものがある。そんなに長い作品ではないのに、聴く者を丸呑みして、激しくもロマンティックな世界にどっぷり浸らせてくれるスケール感もある。ロマンティック・コンチェルトの代名詞といっても過言ではない。
第1楽章から第3楽章まで、どの楽章も魅力的で充実している。なんだかんだいっても第1楽章に力が入っていたり、終楽章に聴き所が集約されていたり、という例は少なくないが、この作品に関しては、作曲者の創作意欲の質量がどこかに偏っているということはない。最もポピュラーなのは第3楽章の少し愁いを含んだ第2主題だろうが、最もドラマティックなのは第1楽章だし、最も甘美でロマンティックなのは第2楽章である。ちなみに、私は第2楽章の148小節からのコーダが作品全体を通してのハイライトだと思っている。
人気の高い作品なので、映画やドラマに使われる回数も多い。私にとって思い出深いのはデヴィッド・リーンの『逢びき』。映画全体がラフマニノフのピアノ協奏曲第2番づくし、なのである。ピアニストはアイリーン・ジョイス。そのピアノが大人の不倫物語を彩っている。第2楽章のコーダの使い方もうまい。
録音の種類は沢山あるが、ラフマニノフ自身が演奏したものや、スヴャトスラフ・リヒテル、ヴラディーミル・アシュケナージが演奏したものが非常に有名である。比較的新しいところでは、クリスティアン・ツィマーマンが代表格。また、ラン・ランやユジャ・ワンなど中国人ピアニストの録音もそれなりに高く評価されている。
私はリヒテルのピアノでこの作品を知り、それから色々聴き漁った後、リヒテルに戻った。徹底的にロマンティックに弾くのも、気取ったフレージングで弾くのも、別に悪くないとは思うが、もう私はそういう演奏には関心が持てない。重さ、暗さ、厳格さの中から充血するようにしてこぼれ出て渦を巻くロシアン・ロマンティシズムこそ、この作品にふさわしいと思っている。リヒテルがクルト・ザンデルリンクと組んだ1959年の録音は、私のそういう要求にこたえてくれる。
ホルヘ・ルイス・プラッツのピアノ、エンリケ・バティスの指揮による録音も、一度は聴くべきだろう。ダイナミクスを掘り下げるところは思いきり掘り下げているが、基本姿勢は質実剛健で、(バティス指揮とはいえ)いわゆる爆演と一線を画している。第2楽章でのオーケストラの歌わせ方もメキシコのオケらしい味わいがあって良い。底から突き上げてくるような高揚感と確かな造型感が同居した名演奏である。
(阿部十三)
【関連サイト】
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番(CD)
セルゲイ・ラフマニノフ
[1873.4.1-1943.3.28]
ピアノ協奏曲第2番 ハ短調 作品18
【お薦めディスク】(掲載CDジャケット:上から)
スヴャトスラフ・リヒテル(p)
クルト・ザンデルリンク指揮
レニングラード・フィルハーモニー交響楽団
録音:1959年
ホルヘ・ルイス・プラッツ(p)
エンリケ・バティス指揮
メキシコ・シティ・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1982年
[1873.4.1-1943.3.28]
ピアノ協奏曲第2番 ハ短調 作品18
【お薦めディスク】(掲載CDジャケット:上から)
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レニングラード・フィルハーモニー交響楽団
録音:1959年
ホルヘ・ルイス・プラッツ(p)
エンリケ・バティス指揮
メキシコ・シティ・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1982年
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