プロコフィエフ ピアノ協奏曲第3番
2013.10.31
ロマンティックでモダニスティック
プロコフィエフのピアノ協奏曲第3番は、とびきり美しい旋律を持っているばかりでなく、攻撃性や先進性も兼ね備えた傑作である。ロマンティックでモダニスティック。プロコフィエフらしい異能の才気が迸り、かつて存在しなかったようなサウンドフォルムを形成している。
作曲時期は1917年から1921年。ロシア革命の年に着手され、日本を経由してアメリカに亡命した頃に書かれた。完成したのはフランス滞在時のことである。初演は1921年12月16日。作品の評判については自伝でもふれられているが、「シカゴでは理解されるよりも支持され、ニューヨークでは理解されなかったが支持もされなかった」という。
第1楽章はアンダンテ〜アレグロ。クラリネットが序奏を受け持ち、穏やかな雰囲気が醸し出された後、アレグロに変わり、生命の発露のようにピアノが登場して第1主題を弾く。極めて鮮烈な印象を与える部分である。以降、巧みに緩急をつけながら管楽器、弦楽器、ピアノのやりとりが繰り広げられ、最後は疾走するようにして終わる。第2楽章はアンダンティーノ。変奏曲形式で、プロコフィエフの抒情性と革新性の両面が遺憾なく発揮されている。白眉は第4変奏で、霊妙な音の配合によって瞑想的な世界を出現させている。第3楽章はアレグロ・マ・ノン・トロッポ。ロンド形式で、冒頭の主題は日本滞在中に接した「連獅子」がヒントになっているといわれているが確証はない。エネルギッシュな掛け合いが一段落すると、木管が美しい主題を奏で、ロマンティックな起伏をみせる。その後、余韻に浸る間もなくアレグロに戻り、高速かつ絢爛たるフィナーレへ。難易度の高いピアノのグリッサンドも聴きどころ。個人的には、第1楽章のピアノ登場部分、演奏家のセンスがはっきりあらわれる第2楽章の第4変奏、第3楽章のメロディアスな緩徐部分、天に広がる星の動きを見るようなコーダが肝だと思っている。
1980年の映画『コンペティション』では、エイミー・アーヴィングが弾く決勝曲として登場する。共演のリチャード・ドレイファスが弾くのはベートーヴェンの「皇帝」。結果を考えると、普通なら勝者に「皇帝」を弾かせる、という選択をしそうである。そこをプロコフィエフにした選曲センスが良い。ピアノ協奏曲第3番をばりばり弾く女性ピアニスト、というとマルタ・アルゲリッチを思い浮かべてしまうが、脚本のインスピレーションのもとになっているかどうかは分からない。
音源で有名なのは、そのマルタ・アルゲリッチとクラウディオ・アバドが組んだ演奏。1967年に録られたものだが古さは少しもない。それどころか、これ以上のスピードとリズムと光彩溢れる音色の快楽で聴き手を支配する録音は、今も存在しないといっていい。ほかに私が聴いた中では、ウラディミール・クライネフ、オラシオ・グティエレスの演奏が深く印象に残っている。前者の歯切れの良いピアノなどインパクト大である。フランティシェク・マキシアーンの演奏も、第3楽章が実に表情豊か(マキシアーンは作曲者の指揮でソリストを務めたことがある)。自由度の高いサンソン・フランソワも、第2楽章の第4変奏で常人離れしたセンスを解放している。21世紀以降だと、ニコライ・ルガンスキーやユジャ・ワンがアルゲリッチに迫るような華麗な演奏を披露している。若い頃のアルゲリッチの演奏を「決定盤」にすると快速路線に一極化してしまいそうなので、作品自体の魅力を堪能する上でも、あれこれ聴いてみるのが良い。
【関連サイト】
プロコフィエフ:ピアノ協奏曲第3番(CD)
プロコフィエフのピアノ協奏曲第3番は、とびきり美しい旋律を持っているばかりでなく、攻撃性や先進性も兼ね備えた傑作である。ロマンティックでモダニスティック。プロコフィエフらしい異能の才気が迸り、かつて存在しなかったようなサウンドフォルムを形成している。
作曲時期は1917年から1921年。ロシア革命の年に着手され、日本を経由してアメリカに亡命した頃に書かれた。完成したのはフランス滞在時のことである。初演は1921年12月16日。作品の評判については自伝でもふれられているが、「シカゴでは理解されるよりも支持され、ニューヨークでは理解されなかったが支持もされなかった」という。
第1楽章はアンダンテ〜アレグロ。クラリネットが序奏を受け持ち、穏やかな雰囲気が醸し出された後、アレグロに変わり、生命の発露のようにピアノが登場して第1主題を弾く。極めて鮮烈な印象を与える部分である。以降、巧みに緩急をつけながら管楽器、弦楽器、ピアノのやりとりが繰り広げられ、最後は疾走するようにして終わる。第2楽章はアンダンティーノ。変奏曲形式で、プロコフィエフの抒情性と革新性の両面が遺憾なく発揮されている。白眉は第4変奏で、霊妙な音の配合によって瞑想的な世界を出現させている。第3楽章はアレグロ・マ・ノン・トロッポ。ロンド形式で、冒頭の主題は日本滞在中に接した「連獅子」がヒントになっているといわれているが確証はない。エネルギッシュな掛け合いが一段落すると、木管が美しい主題を奏で、ロマンティックな起伏をみせる。その後、余韻に浸る間もなくアレグロに戻り、高速かつ絢爛たるフィナーレへ。難易度の高いピアノのグリッサンドも聴きどころ。個人的には、第1楽章のピアノ登場部分、演奏家のセンスがはっきりあらわれる第2楽章の第4変奏、第3楽章のメロディアスな緩徐部分、天に広がる星の動きを見るようなコーダが肝だと思っている。
1980年の映画『コンペティション』では、エイミー・アーヴィングが弾く決勝曲として登場する。共演のリチャード・ドレイファスが弾くのはベートーヴェンの「皇帝」。結果を考えると、普通なら勝者に「皇帝」を弾かせる、という選択をしそうである。そこをプロコフィエフにした選曲センスが良い。ピアノ協奏曲第3番をばりばり弾く女性ピアニスト、というとマルタ・アルゲリッチを思い浮かべてしまうが、脚本のインスピレーションのもとになっているかどうかは分からない。
音源で有名なのは、そのマルタ・アルゲリッチとクラウディオ・アバドが組んだ演奏。1967年に録られたものだが古さは少しもない。それどころか、これ以上のスピードとリズムと光彩溢れる音色の快楽で聴き手を支配する録音は、今も存在しないといっていい。ほかに私が聴いた中では、ウラディミール・クライネフ、オラシオ・グティエレスの演奏が深く印象に残っている。前者の歯切れの良いピアノなどインパクト大である。フランティシェク・マキシアーンの演奏も、第3楽章が実に表情豊か(マキシアーンは作曲者の指揮でソリストを務めたことがある)。自由度の高いサンソン・フランソワも、第2楽章の第4変奏で常人離れしたセンスを解放している。21世紀以降だと、ニコライ・ルガンスキーやユジャ・ワンがアルゲリッチに迫るような華麗な演奏を披露している。若い頃のアルゲリッチの演奏を「決定盤」にすると快速路線に一極化してしまいそうなので、作品自体の魅力を堪能する上でも、あれこれ聴いてみるのが良い。
(阿部十三)
【関連サイト】
プロコフィエフ:ピアノ協奏曲第3番(CD)
セルゲイ・プロコフィエフ
[1891.4.23-1953.3.5]
ピアノ協奏曲第3番 ハ長調 作品26
【お薦めディスク】(掲載ジャケット:上から)
マルタ・アルゲリッチ(p)
クラウディオ・アバド指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1967年
サンソン・フランソワ(p)
アンドレ・クリュイタンス指揮
パリ音楽院管弦楽団
録音:1953年3月
[1891.4.23-1953.3.5]
ピアノ協奏曲第3番 ハ長調 作品26
【お薦めディスク】(掲載ジャケット:上から)
マルタ・アルゲリッチ(p)
クラウディオ・アバド指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1967年
サンソン・フランソワ(p)
アンドレ・クリュイタンス指揮
パリ音楽院管弦楽団
録音:1953年3月
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