レスピーギ 交響詩『ローマの松』
2013.12.19
オーケストラが映し出す昔日のローマ
オットリーノ・レスピーギの交響詩「ローマの松」は、師リムスキー=コルサコフ譲りの華やかな管弦楽書法に教会旋法や幻想的な雰囲気をたっぷり盛り込み、独自の作風を鮮明に打ち出した傑作である。作曲年は1924年、初演は同年12月に行われた。当時、レスピーギは45歳。ローマを愛し続けた彼は、その風景の象徴のひとつである松の木を「時代の目撃者」として扱い、栄光と悲しみの歴史を音像化してみせた。
レスピーギは1879年生まれ。ボローニャの音楽学校で学んだ後、ロシアに留学してリムスキー=コルサコフに師事し、卓越した管弦楽書法を会得した。出世作は「ローマの噴水」(1916年作曲)で、アルトゥーロ・トスカニーニの指揮により人気を博し、世界的に名を知られるようになる。この「ローマの噴水」と「ローマの松」ともうひとつ「ローマの祭り」(1928年作曲)をあわせて『ローマ三部作』と呼ばれることもある。
レスピーギの独自性はイタリアの伝統音楽を復興させようとしたところにあり、いにしえの音楽を研究し、そこで得たインスピレーションを作曲の原動力にしていた。古典から飛翔するレスピーギのイマジネーションはどこまでも美しく、大胆で、幻想的。印象主義の手法もとりいれながら、誰の目も気にせずに音楽の空中庭園を築いているかのようである。有名なのは『ローマ三部作』だが、「リュートのための古風な舞曲とアリア」、「グレゴリオ風協奏曲」、「教会のステンドグラス」、「鳥」、「シバの女王ベルギス」も傑作だ。瞑目して耳を傾けると何倍にも音楽の刺激が強まるような心地を覚える。
最もポピュラーな「ローマの松」は4部構成の作品。1部は「ボルゲーゼ庭園の松」、2部は「カタコンブ付近の松」、3部は「ジャニコロの松」、4部は「アッピア街道の松」と題されている。
「ボルゲーゼ庭園の松」は17世紀に作られた庭園で遊ぶ子供たちの姿を描いていて、絢爛たるオーケストレーションに耳を奪われる。「カタコンブ付近の松」では一転して重い雰囲気になり、キリスト教迫害時代の悲しみに満ちた聖歌が地下から響いてくる。冒頭のレントの部分は、低弦の旋律がぞくぞくするほど美しく、その濃密な響きは官能的ですらある。「ジャニコロの松」は満月に照らされた松の描写で、ナイチンゲールの歌が彩りを添える。ちなみに、鳥の啼声は本物の声の録音。ラウタヴァーラの「カントゥス・アルクティクス」の先駆けといえなくもない。「アッピア街道の松」は霧深い夜明けの雰囲気から始まり、徐々にローマの軍隊の凱旋の足音が近づいてくる。やがてファンファーレが雄々しいクライマックスを築き、20分ほどの幻想ドラマの幕が下りる。
「華やかなオーケストレーション」という言葉から私が連想する作曲家はリムスキー=コルサコフとレスピーギだが、それはおそらく色彩が噴き出すような「ボルゲーゼ庭園の松」の冒頭の印象が強く、初めて聴いた時の衝撃から逃れられないためだろう。昔、父親のオーディオを独占し、何度も聴いていたことを思い出す。
歴史的名盤とされているのは、レスピーギ作品の普及に一役買ったアルトゥーロ・トスカニーニ指揮による1953年の録音。音質は古いが、弦の歌わせ方の素晴らしさはさすがというほかない。ほかには、フリッツ・ライナー、シカゴ響の組み合わせによる1959年の録音、ユージン・オーマンディ、フィラデルフィア管の組み合わせによる1973年の録音が高い評価を得ている。中にはカラヤン、スヴェトラーノフ、ムーティの録音を推す人もいるだろう。
【関連サイト】
Ottorino Respighi(CD)
オットリーノ・レスピーギの交響詩「ローマの松」は、師リムスキー=コルサコフ譲りの華やかな管弦楽書法に教会旋法や幻想的な雰囲気をたっぷり盛り込み、独自の作風を鮮明に打ち出した傑作である。作曲年は1924年、初演は同年12月に行われた。当時、レスピーギは45歳。ローマを愛し続けた彼は、その風景の象徴のひとつである松の木を「時代の目撃者」として扱い、栄光と悲しみの歴史を音像化してみせた。
レスピーギは1879年生まれ。ボローニャの音楽学校で学んだ後、ロシアに留学してリムスキー=コルサコフに師事し、卓越した管弦楽書法を会得した。出世作は「ローマの噴水」(1916年作曲)で、アルトゥーロ・トスカニーニの指揮により人気を博し、世界的に名を知られるようになる。この「ローマの噴水」と「ローマの松」ともうひとつ「ローマの祭り」(1928年作曲)をあわせて『ローマ三部作』と呼ばれることもある。
レスピーギの独自性はイタリアの伝統音楽を復興させようとしたところにあり、いにしえの音楽を研究し、そこで得たインスピレーションを作曲の原動力にしていた。古典から飛翔するレスピーギのイマジネーションはどこまでも美しく、大胆で、幻想的。印象主義の手法もとりいれながら、誰の目も気にせずに音楽の空中庭園を築いているかのようである。有名なのは『ローマ三部作』だが、「リュートのための古風な舞曲とアリア」、「グレゴリオ風協奏曲」、「教会のステンドグラス」、「鳥」、「シバの女王ベルギス」も傑作だ。瞑目して耳を傾けると何倍にも音楽の刺激が強まるような心地を覚える。
最もポピュラーな「ローマの松」は4部構成の作品。1部は「ボルゲーゼ庭園の松」、2部は「カタコンブ付近の松」、3部は「ジャニコロの松」、4部は「アッピア街道の松」と題されている。
「ボルゲーゼ庭園の松」は17世紀に作られた庭園で遊ぶ子供たちの姿を描いていて、絢爛たるオーケストレーションに耳を奪われる。「カタコンブ付近の松」では一転して重い雰囲気になり、キリスト教迫害時代の悲しみに満ちた聖歌が地下から響いてくる。冒頭のレントの部分は、低弦の旋律がぞくぞくするほど美しく、その濃密な響きは官能的ですらある。「ジャニコロの松」は満月に照らされた松の描写で、ナイチンゲールの歌が彩りを添える。ちなみに、鳥の啼声は本物の声の録音。ラウタヴァーラの「カントゥス・アルクティクス」の先駆けといえなくもない。「アッピア街道の松」は霧深い夜明けの雰囲気から始まり、徐々にローマの軍隊の凱旋の足音が近づいてくる。やがてファンファーレが雄々しいクライマックスを築き、20分ほどの幻想ドラマの幕が下りる。
「華やかなオーケストレーション」という言葉から私が連想する作曲家はリムスキー=コルサコフとレスピーギだが、それはおそらく色彩が噴き出すような「ボルゲーゼ庭園の松」の冒頭の印象が強く、初めて聴いた時の衝撃から逃れられないためだろう。昔、父親のオーディオを独占し、何度も聴いていたことを思い出す。
歴史的名盤とされているのは、レスピーギ作品の普及に一役買ったアルトゥーロ・トスカニーニ指揮による1953年の録音。音質は古いが、弦の歌わせ方の素晴らしさはさすがというほかない。ほかには、フリッツ・ライナー、シカゴ響の組み合わせによる1959年の録音、ユージン・オーマンディ、フィラデルフィア管の組み合わせによる1973年の録音が高い評価を得ている。中にはカラヤン、スヴェトラーノフ、ムーティの録音を推す人もいるだろう。
私が愛聴しているのは、ロリン・マゼールが指揮した「ローマの松」である。彼はこの作品を何度か録音しているが、1958年にベルリン・フィルと組んだ演奏が本当に絶品で、その颯爽たる棒さばきは、度を超えた天才が放つ一閃の光のように聴く者を虜にする。色彩感にも、巧みなアゴーギクにも、各パートの音色のバランスにも、鋭敏な感性が息づいている。後年クリーヴランド管と録音したものの方が演奏の完成度は高いが、マゼールらしいアクも強くなってきているので、好みは分かれるだろう。
(阿部十三)
【関連サイト】
Ottorino Respighi(CD)
オットリーノ・レスピーギ
[1879.7.9-1936.4.18]
交響詩『ローマの松』
【お薦めディスク】(掲載ディスク:上から)
ロリン・マゼール指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1958年12月
ユージン・オーマンディ指揮
フィラデルフィア管弦楽団
録音:1973年4月
[1879.7.9-1936.4.18]
交響詩『ローマの松』
【お薦めディスク】(掲載ディスク:上から)
ロリン・マゼール指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1958年12月
ユージン・オーマンディ指揮
フィラデルフィア管弦楽団
録音:1973年4月
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