ビゼー 交響曲
2016.08.03
埋もれていた青春のシンフォニー
ジョルジュ・ビゼーがハ長調交響曲を書き上げたのは1855年11月、まだ17歳のときのことである。当時音楽院に通っていたビゼーは、この作品で早熟ぶりを示したが、楽譜は長い間埋もれた状態にあり、ようやく1933年にパリ音楽院の図書館で発見され、2年後の1935年2月26日に初演された。
この交響曲は軽快なだけでなく優雅な美しさを持っており、「習作」「未熟」といった評価のみで片付けるには惜しい。ハイドン、モーツァルト、ロッシーニ、初期ベートーヴェンの音楽的表現を土台にした優等生の作品ではあるが、堅苦しい模範解答ではなく、また、単に明朗快活なだけの世界でもなく、青春の真っただ中にあった若きビゼーの豊かな歌心が随所に波打っている。異国情緒をほのかに漂わせるところには、後年の傑作につながる萌芽も見て取れる。1875年に36歳で世を去る前、ビゼー自身が後世に残したくないという理由で焼却したとされる多くの楽譜の中に、この交響曲が混じっていなかったのは幸いである。
第1楽章ではまず快活な第1主題が前面に押し出されるが、その勢いがあればこそ、オーボエの美しい音色で奏でられる第2主題がより際立ってくる。第2楽章でもやはり愁いをふくんだ主題がオーボエによって奏でられ、ヴィオラのピッツィカートがその美しさを引き立たせる。優美に広がっていくような弦楽器の旋律も魅力的だ。第3楽章でもイタリア風の明朗さの中に繊細な歌心が息づいており、無窮動的に動き回る第4楽章でも躍動するリズムに優雅な第2主題が絶妙に絡まり、全体的には明るいが、決して単色では終わらない。こういったバランス感覚は、モーツァルト的と言えそうだ。
ビゼーが書いた交響曲はこのほかに第2番、第3番があったとされている。ただし、楽譜は見つかっていない。実質的には「第1番」としてカウントされるべきなのに、単に「交響曲」ないし「交響曲 ハ長調」と呼ばれているのにはそうした事情がある。もう一作、交響曲として構想された「ローマ」は楽譜も現存するが、どういう理由からか、今日では「交響組曲」と呼ばれている。
録音ではトーマス・ビーチャム指揮、フランス国立放送管による演奏(1959年録音)、シャルル・ミュンシュ指揮、ロイヤル・フィルによる演奏(1963年録音)が有名で、入門盤のようにも言われるが、私にこの交響曲の素晴らしさを教えてくれた指揮者は、ジョルジュ・プレートルだ。それまではどちらかというと苦手な曲だったのに、その印象が変わり、魅力の詰まった曲に思えたのである。オーケストラはバンベルク響(1986年録音)。いかにもドイツ的な響きがするこのオーケストラが、安定したアンサンブルの美点はそのままに、みずみずしいフランス音楽を聴かせている。プレートルの楽譜の読みは深く、なおかつ的確で、木管のみならず低弦の扱いにも卓越した手腕をみせる。これを聴いてから、私は作品自体に興味を持つようになり、オトマール・スウィトナー指揮、シュターツカペレ・ドレスデンの美演(1972年録音)にも魅せられ、その後でようやくビーチャム盤やミュンシュ盤の良さに気付いた次第である。
ジョルジュ・ビゼーがハ長調交響曲を書き上げたのは1855年11月、まだ17歳のときのことである。当時音楽院に通っていたビゼーは、この作品で早熟ぶりを示したが、楽譜は長い間埋もれた状態にあり、ようやく1933年にパリ音楽院の図書館で発見され、2年後の1935年2月26日に初演された。
この交響曲は軽快なだけでなく優雅な美しさを持っており、「習作」「未熟」といった評価のみで片付けるには惜しい。ハイドン、モーツァルト、ロッシーニ、初期ベートーヴェンの音楽的表現を土台にした優等生の作品ではあるが、堅苦しい模範解答ではなく、また、単に明朗快活なだけの世界でもなく、青春の真っただ中にあった若きビゼーの豊かな歌心が随所に波打っている。異国情緒をほのかに漂わせるところには、後年の傑作につながる萌芽も見て取れる。1875年に36歳で世を去る前、ビゼー自身が後世に残したくないという理由で焼却したとされる多くの楽譜の中に、この交響曲が混じっていなかったのは幸いである。
第1楽章ではまず快活な第1主題が前面に押し出されるが、その勢いがあればこそ、オーボエの美しい音色で奏でられる第2主題がより際立ってくる。第2楽章でもやはり愁いをふくんだ主題がオーボエによって奏でられ、ヴィオラのピッツィカートがその美しさを引き立たせる。優美に広がっていくような弦楽器の旋律も魅力的だ。第3楽章でもイタリア風の明朗さの中に繊細な歌心が息づいており、無窮動的に動き回る第4楽章でも躍動するリズムに優雅な第2主題が絶妙に絡まり、全体的には明るいが、決して単色では終わらない。こういったバランス感覚は、モーツァルト的と言えそうだ。
ビゼーが書いた交響曲はこのほかに第2番、第3番があったとされている。ただし、楽譜は見つかっていない。実質的には「第1番」としてカウントされるべきなのに、単に「交響曲」ないし「交響曲 ハ長調」と呼ばれているのにはそうした事情がある。もう一作、交響曲として構想された「ローマ」は楽譜も現存するが、どういう理由からか、今日では「交響組曲」と呼ばれている。
録音ではトーマス・ビーチャム指揮、フランス国立放送管による演奏(1959年録音)、シャルル・ミュンシュ指揮、ロイヤル・フィルによる演奏(1963年録音)が有名で、入門盤のようにも言われるが、私にこの交響曲の素晴らしさを教えてくれた指揮者は、ジョルジュ・プレートルだ。それまではどちらかというと苦手な曲だったのに、その印象が変わり、魅力の詰まった曲に思えたのである。オーケストラはバンベルク響(1986年録音)。いかにもドイツ的な響きがするこのオーケストラが、安定したアンサンブルの美点はそのままに、みずみずしいフランス音楽を聴かせている。プレートルの楽譜の読みは深く、なおかつ的確で、木管のみならず低弦の扱いにも卓越した手腕をみせる。これを聴いてから、私は作品自体に興味を持つようになり、オトマール・スウィトナー指揮、シュターツカペレ・ドレスデンの美演(1972年録音)にも魅せられ、その後でようやくビーチャム盤やミュンシュ盤の良さに気付いた次第である。
(阿部十三)
ジョルジュ・ビゼー
[1838.10.25-1875.6.3]
交響曲 ハ長調
【お薦めの録音】(掲載ジャケット:上から)
ジョルジュ・プレートル指揮
バンベルク交響楽団
録音:1986年
サー・トーマス・ビーチャム指揮
フランス国立放送管弦楽団
録音:1959年
[1838.10.25-1875.6.3]
交響曲 ハ長調
【お薦めの録音】(掲載ジャケット:上から)
ジョルジュ・プレートル指揮
バンベルク交響楽団
録音:1986年
サー・トーマス・ビーチャム指揮
フランス国立放送管弦楽団
録音:1959年
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