マーラー 交響曲第2番「復活」
2020.06.04
そして最後の審判が始まる
マーラーの交響曲第2番「復活」は、1888年から1894年にかけて作曲され、1895年12月13日、作曲者自身の指揮により初演された。全5楽章の長大な交響曲で、第1楽章は20分以上、第5楽章は30分以上の演奏時間を要する。全体で80分を超える演奏は珍しくない。それでも人気が高く、この作品を聴いてマーラーに夢中になったという人は非常に多い。
第5楽章はベートーヴェンの第九のように合唱を伴う。スケールは仰ぎ見るほど大きく、美しい旋律が豊かな響きを持ち、外に向かって膨らむだけ膨らみ、聴き手を高揚させる。第1楽章から第4楽章までの長い道のりも、この感動を味わうためのものだったのかと誰もが理解するだろう。
その音楽は創造的というよりは情緒的である。アドルノは「長い器楽の部分が声楽の部分を語りすぎている」と指摘したが、説明過多と批判されるのはマーラーも承知の上だったろう。そこには独自性を盛り込みながらも、噛んで含めるような書法を用いて、最終的には多くの聴衆を熱狂へと巻き込もうとする意図が感じられる。
最初に完成したのは第1楽章で、これは交響詩『葬礼』として発表されるはずだった。しかし、先輩指揮者ハンス・フォン・ビューローの前で『葬礼』を(ピアノで)演奏したところ、「これに比べれば、『トリスタンとイゾルデ』もハイドンの交響曲のように聞こえる」と批判されてしまう。その後、計画を変更して、『葬礼』を第1楽章に据えた交響曲を書くことにし、1893年までに第2楽章から第4楽章までを作曲したが、本当の意味できちんと構想がまとまったのは、1894年2月12日、ハンス・フォン・ビューローが亡くなった時のことである。
聖ミヒャエル教会に行き、葬儀に参列した時のこと、あるコラールが歌われていた。「復活する。そうだ、お前は復活するだろう」ーーこれを聴いたマーラーは終楽章で使うことに決めた。
「クロプシュトックの『復活』というコラールだ! 僕はまるで稲妻に打たれたような気がした。そして僕の前に、突然、作品全体がはっきりと姿を現した。創作者とはまさにこういう稲妻を待ち受けているものです」(1897年2月、アルトゥール・ザイドル宛書簡)
歌詞の中で感動的なのは、次の部分である。
アルト「おお、信じるがいい! お前は無駄に生まれたのではない、無駄に生きたのではない、無駄に悩んだのでもない!」
合唱「この世に生まれたものは滅びていかなければならない! 滅びたものはよみがえらなければならない! おののくのをやめよ! 生きるための用意をせよ!」そして、ソプラノとアルトの二重唱の後、このように続く。全員で歌うところは、高揚感が最大に達した時である。
合唱「私は死ぬであろう、生きるために!」
全員「お前は復活する わが心よ、またたく間に! お前が今打ち終えた鼓動が、お前を神のもとへ運ぶであろう!」
音楽も歌詞も強く胸を打つので、以前の私は涙なしに聴くことができなかった。人生の最後を飾る音楽はこれ以外にないと思ったものである。
第1楽章はアレグロ・マエストーソ。冒頭の第1主題から厳かで緊張感に満ちている。第2主題は美しいが心休まる時間は少ない。全体的に起伏が激しく、とりわけ展開部でイングリッシュホルンが静かに「表情豊かに(ausdrucksvoll)」旋律を奏で始めてから、強音へと達するまでの流れにはハラハラさせられる。ちなみに、マーラーはこの楽章について、「私の交響曲第1番の英雄を墓に横たえて......」と書いている。これは「巨人」の葬送音楽なのだ。
マーラーは第1楽章の後、「少なくとも5分間の時間を空けるように」と記している。ここで区切りをつけた後、第2楽章から回想シーンが始まる。つまり、死者が生前味わった至福の瞬間、失われた青春への追憶である。アンダンテ・モデラートで奏でられる主題は優雅で、いかにもウィーン的な香りが漂う。トリオ(中間部)が2回あらわれるABABA形式だが、2回目のトリオは非常に劇的な性格を持っている。型にはまらないその楽想はシューベルトの影響をうかがわせる。
第3楽章は真摯な響きと諧謔味が共存したスケルツォ。回想の続きである。マーラー自身が記した標題には、「彼は子供のような清い心と愛の支えを失い、自分自身と神に絶望する」とある。この楽章に印象的にあらわれる旋律は、自身が書いた歌曲集『子供の不思議な角笛』の「魚に説教するパドヴァの聖アントニウス」に基づくものだ。トリオの旋律は、ハンス・ロットの交響曲第1番の第3楽章に似ているが、これは意図的に亡き友を回顧したものと思われる。
第4楽章は「原光」と題された歌で、歌曲集『子供の不思議な角笛』から取られたものだが、後にこの歌曲集からは削除された。アルトが「ああ、赤い小さなバラよ!」と厳かに歌い出し、美しい音の微光に包まれながら、歌は徐々に高揚し、最後は「私は神から来て、神へ帰らねばならぬ。愛の神は私に光を与えてくれるだろう。永遠の幸福な生命を得るまで照らし続けてくれるだろう」と締めくくられる。
第5楽章は激越な強奏で始まる。マーラーによると、ここで聴き手は「第1楽章の終わりの気分」に戻る。最後の審判の開始が告げられ、最も恐るべき日が始まるのだ。
強奏は間もなく終わり、静けさが訪れる。ここで登場するホルンの旋律は、その後も崇高さを増して印象的に繰り返される。ホルンやトランペットの一部(「荒野に呼ぶ者」)を遠くに配置し、音響を立体的にする工夫も効果的だ。圧倒的なのは打楽器のクレッシェンドで始まる展開部であり、凄絶な行進曲という様相を帯び、容赦のない嵐の中を突き進む。それも静まり、「荒野に呼ぶ者」があらわれた後、ようやく合唱が始まる。マーラーが「偉大なる呼び声」と名付けた部分である。そして合唱、ソプラノ、アルトによって先述した歌詞が感動的に歌われ、管弦楽と一体となって猛烈に高揚する。それが「復活の賛歌」でこれ以上ないほどの高みに達した後、壮麗で崇高な響きが広がり、最後は審判の終わりを告げる強靭な一音によって閉じられる。
ストーリーとして見るなら、葬礼の場面(第1楽章)があり、回想(第2、第3楽章)があり、死の直前の心境(第4楽章)があり、そして葬礼の場面の後(第5楽章)という流れになる。ただ、作曲者のメッセージのみが全てではない。絶対音楽として聴いても十分感動的だし、満足感を得られる。
私はオットー・クレンペラーの指揮に導かれ、「復活」に開眼した。マーラーと縁が深かったこの大指揮者は、ライヴを含めて(少なくとも)8種類の音源を遺している。私が最初に聴いたのは、1951年のオランダ音楽祭でのライヴ音源だ。「復活の賛歌」の短い前奏に入る時、ぐっと渾身の力を込めると(録音に声が入っている)、オーケストラの音が異様な熱気と崇高さを帯びてくる。その神秘的な反応に惹かれたのである。
その後、1965年にバイエルン放送響を指揮した音源を聴き、心から圧倒された。激しい音を響かせながらも、美しさと冷徹さは失われない。テンポは速めだが、スケールは大きい。管楽器も豊かな表情を持っている。最後の一音はこの大曲を閉じるにふさわしく、巨大な槌を打つかのごとき決然とした響きである。
ほかにも、クラウス・テンシュテット指揮、北ドイツ交響楽団による焦熱の演奏(1980年9月ライヴ録音)、レナード・バーンスタイン指揮、ニューヨーク・フィルによる熱烈な信仰告白のような演奏(1987年4月ライヴ録音)は、多くの人の支持を得ている。あまり評価されていないが、クラウディオ・アバド指揮、ウィーン・フィルによる演奏(1992年11月ライヴ録音)も、フィナーレが放つ光彩と熱量は尋常ではない。ハイテンションの演奏ではなく、アンサンブルの魅力、弦の美しさを堪能したい人には、ラファエル・クーベリック指揮、バイエルン放送響の演奏(1982年10月ライヴ録音)がおすすめだ。
私がライヴで聴いた中では、ピエール・ブーレーズ指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団による「復活」が最も感動的であった。2005年5月28日、ムジークフェラインでの演奏だ。豊麗かつ覇気に満ちた響きを波打たせるウィーン・フィル。オーケストラを完璧に統率しながらも、鮮やかな手際で手綱を緩めるブーレーズ。堅苦しさや鼻につく小利口さとは全く無縁の、恐ろしく巨大な音楽がそこにあった。
その音源がグラモフォンからリリースされた時は即購入した。またあの演奏を聴けると思ったのだ。しかし、どうも違う。覇気と荒々しさ、打音のパンチ力が減退している。私が聴いたのは初日なので、別日の演奏なのか。もしくは「お化粧」が施されているのかもしれない。むろん、演奏内容は素晴らしいし、テンポも速めで聴きやすい。これだけ聴いていたら、それなりに満足していたかもしれないが、コンサートで聴いた時の記憶が鮮明なので、どうしても比較してしまう。
(阿部十三)
【関連サイト】
グスタフ・マーラー
[1860.7.7-1911.5.18]
交響曲第2番 ハ短調 「復活」
【お薦めディスク】(掲載ジャケット:上から)
ヘザー・ハーパー(ソプラノ)
ジャネット・ベイカー(メゾ・ソプラノ)
オットー・クレンペラー指揮
バイエルン放送交響楽団&合唱団
録音:1965年1月(ライヴ)
エディット・マティス(ソプラノ)
ブリギッテ・ファスベンダー(アルト)
バイエルン放送合唱団
ラファエル・クーベリック指揮
バイエルン放送交響楽団
録音:1982年10月(ライヴ)
クリスティーネ・シェーファー(ソプラノ)
ミシェル・デ・ヤング(メゾ・ソプラノ)
ウィーン楽友協会合唱団
ピエール・ブーレーズ指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:2005年5月〜6月(ライヴ)
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録音:1982年10月(ライヴ)
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ウィーン楽友協会合唱団
ピエール・ブーレーズ指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:2005年5月〜6月(ライヴ)
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