音楽 CLASSIC

ベートーヴェン ピアノ協奏曲第2番

2021.03.03
二十代のたくましい表現力

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 ベートーヴェンの交響曲とピアノ協奏曲は、第1番と第2番が古典派らしい優美さと明るさを持つ点で共通している。両作品ではこの作曲家の独創性はまだ表面化しておらず、第3番以降の作品よりも影が薄い。作風もアイディアも穏健で、激しい叫びも胸を潰すような重さもない。しかし、これらは旋律とリズムの力のみで勝負していた青春時代のたくましい表現力の結晶として、軽視することはできない。

 ピアノ協奏曲第2番は1793年から1795年にかけて作曲され、1795年3月29日に作曲者自身の独奏により初演された。作曲されたのは第1番よりも早いが、出版が遅れたために第2番になったという経緯がある。オーケストラの編成は小さく、フルート、オーボエ、ファゴット、ホルン、弦5部という簡素さである。クラリネットもティンパニもない。にもかかわらず、それを感じさせないほど音楽に生気や彩りがあり、明暗の対比も鮮やかで、しっかりと緊張感がある。

 第1楽章はアレグロ・コン・ブリオ。変ロ長調。冒頭の第1主題は歯切れよく、力強い。第2主題は優しく語りかけるような性格を持っている。美しい旋律がちりばめられていて、長調と短調の波間を漂うような展開部に魅せられる。第1主題はよく聴くとモーツァルトの「ジュノム」協奏曲の冒頭を換骨奪胎したようなもので、先人の影響がうかがえる。

 第2楽章はアダージョ。変ホ長調。ベートーヴェンのアダージョはどれも魅力的で、聴き手を詩的な気分へと誘うが、これも例外ではない。甘くロマンティックな旋律が、変奏曲風の形式の中で様々な表情を見せる。安らぎの音楽というよりは、過去の懐かしい思い出を回想させるような心地よさ、切なさを伴う音楽だ。

 第3楽章はロンド、アレグロ・モルト。変ロ長調。カッコーの鳴き声のような主題が躍り、軽快で愛らしい雰囲気に包まれている。途中、短調の副主題が繰り返され、翳りを見せることもある。その転調の仕方は、20代の作曲家が書いたものとは思えないほど実に巧みだ。ピアノのフレーズも変化に富んでいて、演奏家にとっては表現力が試されるところだ。

 昔は、第2番を聴いても何が良いのか分からなかったが、年月を経て楽しめるようになった。こういった初期の作品は、作曲家が覚醒する前のものという印象が強く、なかなか積極的に聴こうとは思えなかったのだ。しかし、ある演奏を聴いてからは考えを改めた。ここには気高い青春と希望の息吹がある。30歳を超えた悩み多きベートーヴェンには、第2番のような作品は、書こうと思っても書けなかっただろう。

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 ある演奏とは、グレン・グールド、レナード・バーンスタイン、コロンビア響によるもの(1957年録音)である。グールドのピアノは軽快さ、繊細さの面で文句のつけようがないし、バーンスタインの指揮も活力に満ちていて、個性的な独奏を完璧にサポートしている。最後の一音まで生き生きしていて素晴らしい。両者が組んだ録音はほかにもあるが、これがベストではないだろうか。ルドルフ・ゼルキン独奏、ラファエル・クーベリック指揮、バイエルン放送響による演奏(1977年ライヴ録音)も名演だ。ゼルキンのピアノは上品で清潔そのもの。オーケストラの演奏共々ロマンティックな香りに溢れていて、深い余韻を残す。
(阿部十三)


【関連サイト】
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン
[1770.12.16-1827.3.26]
ピアノ協奏曲第2番 変ロ長調 作品19

【お薦めディスク】(掲載ジャケット:上から)
グレン・グールド(p)
レナード・バーンスタイン指揮
コロンビア交響楽団
録音:1957年

ルドルフ・ゼルキン(p)
ラファエル・クーベリック指揮
バイエルン放送交響楽団
録音:1977年10月5日(ライヴ)

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