シューマン 交響曲第4番
2023.10.04
情熱に満ちた交響的幻想曲
シューマンの交響曲第4番は1841年に作曲され、同年9月13日、妻クララの誕生日に贈られた。初演は同年12月6日、ライプツィヒのゲヴァントハウスで行われたが、期待していたような評価を得られず、楽譜の出版も見送られた。その後、1851年に改訂を開始。1853年12月30日に改訂稿の初演がデュッセルドルフで行われ、成功を収めた。
異名は「交響的幻想曲」。各楽章はメンデルスゾーンの「スコットランド」のようにアタッカで切れ目なく演奏され、緊張感を保ちながら、暗い情熱に満ちたロマンティックな世界観を示す。特に第3楽章と第4楽章をつなげるブリッジ(構成上は第4楽章の序奏にあたる)は幻想的で、大地がうごめくような雰囲気を漂わせている。このように劇的転換を経て終楽章に突入する構成には、ベートーヴェンの交響曲第5番からの影響が見て取れる。
シューマンの管弦楽書法は個性的で、何かというと楽器を重ねがちである。そのまま演奏したら、各パートの音が激しくぶつかり合い、打ち消し合うのではないかと思われる箇所も少なくない。そこで、大抵の場合、演奏時には修正が施される。第4番の改訂稿はこの問題が比較的少ない。また、初稿に比べると全体の流れが自然で、まとまりがあり、なおかつ緊迫感がある。ただし、ブラームスのように初稿の方を高く評価する人も少なくない。
第1楽章はニ短調。暗く重たい響きと共に序奏が始まる。シューベルトの「悲劇的」を彷彿とさせる始まり方だ。緩やかなテンポの中、暗く幻想的な音形が示される。この音形が強奏された後、別の音形が現れて第1主題を予告し、速度を上げて主部になだれ込む。第1主題は活力に満ちたもので、様々な形で反復される。型通りの第2主題は存在しない。その代わり、展開部に新たな主題(第4楽章の第1主題になる)が現れ、第1主題と力強く結合する。さらにのびやかで美しい旋律が登場し、第1主題、新たな主題と入れ替わりながら熱気を増し、コーダに達する。
第2楽章はイ短調。ベートーヴェンの交響曲第7番の第2楽章を思わせる冒頭の和音の後、物憂げな主題が奏でられ、第1楽章序奏の音形が再現される。ここで主題はいったん影を潜め、中間部(ニ長調)へ。ヴァイオリンのあたたかみのある旋律が優しく揺らめくが、やがて主題が戻り、寂しげな響きに包まれる。
第3楽章はニ短調。第1楽章の第1主題に基づく主題が提示される。中間部は変ロ長調。ここに登場するのは、第2楽章の中間部に出てきた旋律である。その後、再び主題が戻ってきて、スケルツォらしい3部形式で終わると思いきや、中間部が繰り返され、最後に変化をつけ、第4楽章へと続く。
第4楽章はニ短調。第1楽章序奏に出てきた音形が繰り返され、激しく高揚し、静から動へと転換する。主部はニ長調。第1主題は第1楽章展開部に現れたものの再現である。第2主題は経過句を挟んで登場、これはイ長調で明るい。展開部では第1主題がフガート的に扱われ、その後、先ほどの経過句が何度も繰り返され、第2主題が再現される。ここからが再現部の始まりで、第1主題は姿を見せない。コーダは展開部と同じように始まり、新たな旋律を加えて速度を上げ、情熱的に締め括られる。
前の楽章で登場した主題や音形が、後の楽章で再現され、密接な結びつきをみせるのは、交響曲ではよくある構成である。しかし、第1楽章展開部の主題を第4楽章の第1主題にしたり、第1楽章序奏と第4楽章序奏に同じ音形を持ち込んだり、第2楽章中間部の旋律を第3楽章中間部に転用したりと、シューマンはそれぞれの楽章を極端なほど符合させている。アタッカ(切れ目なし)にこだわり、曲全体が一つの流れになり、統制感を損なわないように計算し、配慮したのだろう。
録音では、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮、ベルリン・フィルによる演奏(1953年録音)が有名。感情がそのまま音になったかのようにうねり、深淵を這い、天空に轟き、強烈な熱気を放つ。おざなりに鳴らされる音はひとつもない。第4楽章序奏の盛り上がり方も尋常ではない。まさに規格外の大演奏だ。フルトヴェングラーにはルツェルン祝祭管を指揮したもの(1953年ライヴ録音)もあり、緩急自在の白熱した演奏を聴かせるが、音質は良くない。
オットー・クレンペラー指揮、フィルハーモニア管による演奏(1960年録音)は、アンサンブルが堅固で、しかも躍動感があり、時に凄まじい突進力をみせる。小細工のない正攻法のアプローチで迫力満点。陰影の表現も格調高い。第4楽章序奏の高揚感も申し分なし。ヴォルフガング・サヴァリッシュ指揮、シュターツカペレ・ドレスデンによる演奏(1972年録音)も素晴らしい。明るい音で、テンポは弾むようだが、響きに重みがある。管弦楽全体の音を引き締めるティンパニも絶品だ。
私自身はこの作品に重みのある響きを求めている。巨大なエネルギーが激しく躍動している演奏の方が好ましい。そういう点では、フリッツ・ブッシュ指揮、北ドイツ放送響の演奏(1951年ライヴ録音)にも惹かれる。徹頭徹尾狂熱的で、マグマのようなものが不穏にうごめき、強奏部で爆発している。ヘルマン・アーベントロート指揮、ライプツィヒ放送響の演奏(1956年録音)も情熱的で、速めのテンポでありながら、重厚でがっちりとした響きを堪能させる。両端楽章での豪快なアッチェレランドには鬼気迫るものがある。
(阿部十三)
【関連サイト】
ロベルト・シューマン
[1810.6.8-1856.7.29]
交響曲第4番 ニ短調 作品20
【お薦めディスク】(掲載ジャケット:上から)
ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1953年5月14日
オットー・クレンペラー指揮
フィルハーモニア管弦楽団
録音:1960年5月
ヴォルフガング・サヴァリッシュ指揮
シュターツカペレ・ドレスデン
録音:1972年
[1810.6.8-1856.7.29]
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【お薦めディスク】(掲載ジャケット:上から)
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録音:1953年5月14日
オットー・クレンペラー指揮
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