モーニング娘。の高橋愛と新垣里沙 主に演技について
2011.08.13
モーニング娘。の魅力とは何か。答えは様々あると思う。その中で大きな割合を占めそうなのは、メンバーの豊かな個性と未知数の才能、パフォーマンスに対する向上心、コンサートの楽しさ、メンバーの変動から生まれるドラマ、といったところだろうか。私はモーニング娘。のことをかなり後追いでチェックしてきたが、「もうこの辺でいいかな」という感情は一向に湧いてこない。それどころか、知れば知るほど知りたいことが増えてくる。歌やダンス以外の面でも、個々のメンバーの魅力に奥深さを感じ、興味が尽きない。
歌やダンスのほかに魅力を感じたのは、彼女たちの演技である。率直に言うと、モーニング娘。には「女優」というイメージが全くなかった。その見方が変わったのは、『リボンの騎士 ザ・ミュージカル』や『シンデレラ The ミュージカル』のDVDを観てからである。その後しばらくして、高橋愛が出演する舞台が始まった。『喜劇「ハムレット」&悲劇?「ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ」』という長いタイトルの作品である。オフィーリア役の高橋は声色を使い分けてその心理状態をデフォルメしつつも、器用な表現に偏ることなく、この役に欠かせない透明な儚さ、純真さ、仄かな色気を体現していた。演出には納得のいかない部分もあったが、高橋に関しては1人の舞台女優としての確かな力量を客席で感じることが出来た。
ただ、個人的に最も驚かされたのは、『リボンの騎士』でも『シンデレラ』でも『ハムレット』でもない。それらとは毛色の異なる作品ーー『リアルエチュード 高橋さん家と新垣さん家』である。ファン以外で知っている人はほとんどいないだろう。これは昨年10月に青山円形劇場で行われた即興劇で、高橋愛と新垣里沙が各々の日常に起こったエピソードを披露し、演出家の助言とゲストのサポートを得ながら、その場で劇にしてしまう、というものだ。
と解説している私自身、数ヶ月まで内容を知らなかった。アットホームな雰囲気のタイトルを見ただけで、一種のファンイベントだろう、と思い込んでいたほどである。とんでもない誤解だった。
DVDをどうにか入手して観たが、予想を超えるスキルの高さに終始瞠目させられっぱなしだった。高橋愛も新垣里沙もアイドルの殻を破り、徹底して自らをさらし、大した舞台装置もない中、集中力と演技力のみで舞台上に強い磁場を作り出していたのである。高橋は瞬発力と感情表現の純度の高さで観る者を引き込み、新垣はナチュラルな表現力とエロキューションの巧さで魅了する。演技のアプローチは異なるが、どちらも才能に溢れていることに違いはない。
いつの時代でもアイドルが女優をやると「アイドル女優」と軽んじられる傾向にあるが、この2人はアイドルという枠をはみ出た表現力を備えている。コンサートで歌う時や踊る時の表情を見ても、そういう素養があることは感じ取れる。とくに高橋愛は2006年の『リボンの騎士』の頃から「女優」だった。ファンの人には今さらなことでも、一般に知られているとは言い難いことなので、ここに明記しておきたい。
高橋愛がある本の中で語っているところによると、プロデューサーのつんく♂は、「厳しい時期にこそクオリティを上げなきゃいけない。休みの時は何かをするとか、自分を磨くために費やしてもいいと思う」と言っていたらしい。それを実践した結果として今があるのだろう。もっとも、厳しい時期はまだ終わっていないが。
新垣里沙については、シングル曲などのフォーメーションで目立つポジションにいるわけではなく、いわゆる「歌割り」も多くないので、はじめのうちはその魅力がよく見えてこなかった。が、不思議なことに、このグループに関する知識が増えれば増えるほど、彼女に曰く言いがたい魅力を感じるようになった。歌も、表情も、ダンスの振りも、話し方も、一度心に引っかかると、延々気になって仕方なくなるような磁力があるのだ。先日行ったハロー!プロジェクトのコンサートでも、改めてそういう印象を抱いた。過去の映像などと比較しても、彼女の磁力は衰えるどころか、少しずつ増しているように私には感じられる。
歌に関しては、発声が綺麗で、声量もある。人肌のあたたみのある個性的な声質で、響きが深く、無理に作り声をしなくても『シンデレラ』の王子役のようなパートを歌うことが出来る。その時々のコンディションで音域が異様に広がったり、狭まったりするようだが、調子の良い時は高音も低音も心地よいほど安定している。それだけでなく、歌声が深い色合いを帯び、巧まざる表現で歌詞の世界を伝える。悪い時は喉が重くなったようになり、音域も極端に狭まってしまう。
ただ、これが2人で歌う曲になると、ぐっと安定感を増すから面白い。バレエで言えばパ・ド・ドゥの男性役のように相手を支えつつ、自身も大いに美質を発揮するのだ。相手によるのかもしれないが、少なくとも高橋愛や亀井絵里と過去に歌った曲(一部は動画で確認)には、新垣のそういう特性がよく出ている。例えば、『シンデレラ』で披露される高橋愛との二重唱。ここでも高橋にひけをとらない歌を聴くことが出来る。
演技の方はどうなのか。『シンデレラ』での王子役の演技も悪くないし、健闘しているが、いかんせん男役ということもあり、女優としての判断材料にはしにくい。それよりは2010年6月に行われた舞台『ファッショナブル』の方が分かりやすい。示唆に富んだこの劇で、新垣はシニカルでプライドの高いショップ店員を繊細な抑揚を含んだ台詞廻しを駆使して演じ、脇役ながらも存在感を放っている。
公演順では、『ファッショナブル』の後に『高橋さん家と新垣さん家』が来る。この劇中で見せた演技(とは思わせない演技)は本当にすばらしい。スイッチの入った高橋愛が遠慮なくぶつかってきても、新垣はその勢いに流されず、食われず、高橋の「母」や「妹」としてそこに「存在」している。松崎しげる、金剛地武志、パパイヤ鈴木といったゲストと組んだ演技でも、その場で形成される世界観に当たり前のように順応している。女優としての作品数は少ないので、その才能は必ずしも経験によって培われてきたものとは言えない。これからが楽しみな人である。
今年3月に行われた『みんなの家』は観ていないので、そちらがどうだったのかは分からないが、『高橋さん家と新垣さん家』(つくづく気が抜けるタイトルだ)は2人の美点が出た舞台と言っていい。こういう作品が一部の人以外に知られることなく、DVDもすでに入手不可能になっているのは惜しい。この組み合わせでもっとこういう試みを続ければ良いのに、と思う。しかし、高橋愛がモーニング娘。のメンバーとして何か出来る時間はもうあまりない。
現在モーニング娘。は、光井愛佳、鞘師里保という2人のメンバーが怪我をしてドクターストップがかかっている状態にある。そんなこともあってか、高橋愛の卒業を目前に控えた現在でも、「卒業」の文字がいまひとつ現実味を帯びてこない。去る者、残る者の不安がどれほどのものかは想像に余りある。が、まずは卒業する高橋愛と新リーダーになる新垣里沙が前進し、それぞれの立場で自分を磨き、表現者としてさらなる成長を遂げることを私は期待したい。それだけの才能がある人たちだから。
【関連サイト】
モーニング娘。OFFICIAL WEBSITE
モーニング娘。Official Channel
歌やダンスのほかに魅力を感じたのは、彼女たちの演技である。率直に言うと、モーニング娘。には「女優」というイメージが全くなかった。その見方が変わったのは、『リボンの騎士 ザ・ミュージカル』や『シンデレラ The ミュージカル』のDVDを観てからである。その後しばらくして、高橋愛が出演する舞台が始まった。『喜劇「ハムレット」&悲劇?「ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ」』という長いタイトルの作品である。オフィーリア役の高橋は声色を使い分けてその心理状態をデフォルメしつつも、器用な表現に偏ることなく、この役に欠かせない透明な儚さ、純真さ、仄かな色気を体現していた。演出には納得のいかない部分もあったが、高橋に関しては1人の舞台女優としての確かな力量を客席で感じることが出来た。
ただ、個人的に最も驚かされたのは、『リボンの騎士』でも『シンデレラ』でも『ハムレット』でもない。それらとは毛色の異なる作品ーー『リアルエチュード 高橋さん家と新垣さん家』である。ファン以外で知っている人はほとんどいないだろう。これは昨年10月に青山円形劇場で行われた即興劇で、高橋愛と新垣里沙が各々の日常に起こったエピソードを披露し、演出家の助言とゲストのサポートを得ながら、その場で劇にしてしまう、というものだ。
と解説している私自身、数ヶ月まで内容を知らなかった。アットホームな雰囲気のタイトルを見ただけで、一種のファンイベントだろう、と思い込んでいたほどである。とんでもない誤解だった。
DVDをどうにか入手して観たが、予想を超えるスキルの高さに終始瞠目させられっぱなしだった。高橋愛も新垣里沙もアイドルの殻を破り、徹底して自らをさらし、大した舞台装置もない中、集中力と演技力のみで舞台上に強い磁場を作り出していたのである。高橋は瞬発力と感情表現の純度の高さで観る者を引き込み、新垣はナチュラルな表現力とエロキューションの巧さで魅了する。演技のアプローチは異なるが、どちらも才能に溢れていることに違いはない。
いつの時代でもアイドルが女優をやると「アイドル女優」と軽んじられる傾向にあるが、この2人はアイドルという枠をはみ出た表現力を備えている。コンサートで歌う時や踊る時の表情を見ても、そういう素養があることは感じ取れる。とくに高橋愛は2006年の『リボンの騎士』の頃から「女優」だった。ファンの人には今さらなことでも、一般に知られているとは言い難いことなので、ここに明記しておきたい。
高橋愛がある本の中で語っているところによると、プロデューサーのつんく♂は、「厳しい時期にこそクオリティを上げなきゃいけない。休みの時は何かをするとか、自分を磨くために費やしてもいいと思う」と言っていたらしい。それを実践した結果として今があるのだろう。もっとも、厳しい時期はまだ終わっていないが。
新垣里沙については、シングル曲などのフォーメーションで目立つポジションにいるわけではなく、いわゆる「歌割り」も多くないので、はじめのうちはその魅力がよく見えてこなかった。が、不思議なことに、このグループに関する知識が増えれば増えるほど、彼女に曰く言いがたい魅力を感じるようになった。歌も、表情も、ダンスの振りも、話し方も、一度心に引っかかると、延々気になって仕方なくなるような磁力があるのだ。先日行ったハロー!プロジェクトのコンサートでも、改めてそういう印象を抱いた。過去の映像などと比較しても、彼女の磁力は衰えるどころか、少しずつ増しているように私には感じられる。
歌に関しては、発声が綺麗で、声量もある。人肌のあたたみのある個性的な声質で、響きが深く、無理に作り声をしなくても『シンデレラ』の王子役のようなパートを歌うことが出来る。その時々のコンディションで音域が異様に広がったり、狭まったりするようだが、調子の良い時は高音も低音も心地よいほど安定している。それだけでなく、歌声が深い色合いを帯び、巧まざる表現で歌詞の世界を伝える。悪い時は喉が重くなったようになり、音域も極端に狭まってしまう。
ただ、これが2人で歌う曲になると、ぐっと安定感を増すから面白い。バレエで言えばパ・ド・ドゥの男性役のように相手を支えつつ、自身も大いに美質を発揮するのだ。相手によるのかもしれないが、少なくとも高橋愛や亀井絵里と過去に歌った曲(一部は動画で確認)には、新垣のそういう特性がよく出ている。例えば、『シンデレラ』で披露される高橋愛との二重唱。ここでも高橋にひけをとらない歌を聴くことが出来る。
演技の方はどうなのか。『シンデレラ』での王子役の演技も悪くないし、健闘しているが、いかんせん男役ということもあり、女優としての判断材料にはしにくい。それよりは2010年6月に行われた舞台『ファッショナブル』の方が分かりやすい。示唆に富んだこの劇で、新垣はシニカルでプライドの高いショップ店員を繊細な抑揚を含んだ台詞廻しを駆使して演じ、脇役ながらも存在感を放っている。
公演順では、『ファッショナブル』の後に『高橋さん家と新垣さん家』が来る。この劇中で見せた演技(とは思わせない演技)は本当にすばらしい。スイッチの入った高橋愛が遠慮なくぶつかってきても、新垣はその勢いに流されず、食われず、高橋の「母」や「妹」としてそこに「存在」している。松崎しげる、金剛地武志、パパイヤ鈴木といったゲストと組んだ演技でも、その場で形成される世界観に当たり前のように順応している。女優としての作品数は少ないので、その才能は必ずしも経験によって培われてきたものとは言えない。これからが楽しみな人である。
今年3月に行われた『みんなの家』は観ていないので、そちらがどうだったのかは分からないが、『高橋さん家と新垣さん家』(つくづく気が抜けるタイトルだ)は2人の美点が出た舞台と言っていい。こういう作品が一部の人以外に知られることなく、DVDもすでに入手不可能になっているのは惜しい。この組み合わせでもっとこういう試みを続ければ良いのに、と思う。しかし、高橋愛がモーニング娘。のメンバーとして何か出来る時間はもうあまりない。
現在モーニング娘。は、光井愛佳、鞘師里保という2人のメンバーが怪我をしてドクターストップがかかっている状態にある。そんなこともあってか、高橋愛の卒業を目前に控えた現在でも、「卒業」の文字がいまひとつ現実味を帯びてこない。去る者、残る者の不安がどれほどのものかは想像に余りある。が、まずは卒業する高橋愛と新リーダーになる新垣里沙が前進し、それぞれの立場で自分を磨き、表現者としてさらなる成長を遂げることを私は期待したい。それだけの才能がある人たちだから。
(阿部十三)
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