文化 CULTURE

モーニング娘。の道重さゆみ 毒にも薬にもなるアイドル

2011.10.08
 夏に会社を移ってから生活サイクルが変わった。始業時間がこれまでより2時間早くなり、家から会社の距離も遠くなったので、7時には起きなければならない。一般的には、7時なんて早いうちに入らないのだろうが、20年近く夜型生活を送ってきた身には馴染みのない時間帯である。それでも、今のところは緊張感のおかげで起きている。夜も遅いので、体力がもつかどうか不安だ。

 ある日、騒音のせいで予定より1時間も早く目が覚めた。二度寝も出来ず、朝食を食べながら、普段は見ないテレビ番組をぼんやり見ていると、シングルのランキング速報が始まった。モーニング娘。の「この地球の平和を本気で願ってるんだよ!」が出た次の週である。私はチャンネルをそのままにしておいた。が、紹介されたのは1位、3位、4位だけ。2位のモーニング娘。は出てこなかった。なぜ省略されたのかは分からない。ただ不自然な印象が残った。

 数ヶ月前にも、あるニュース番組が東日本大震災の被災地を訪れたモーニング娘。の元メンバーのことを取り上げ、「子供たちには馴染みのない......」と紹介し、一部で話題になっていた。まあ、はっきり言って、このグループに興味のない人にはどうでもいい話だし、メディアにフェアな報道姿勢を求めても無駄だと言われればそれまでだが、ここまで印象操作が露骨だと、彼女たちが頑張っていると何かよほど困ることでもあるのだろうかと勘繰りたくなってしまう。同時に、モーニング娘。が何やらカウンター的な存在にすら見えてくる。もっとも、メンバーたちはそんな存在になることを望んでいないと思うけど。

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 そういう状況の中、テレビ、ラジオへの露出が「比較的」多いのが道重さゆみである。彼女は自分のことを可愛いと自画自賛し、毒舌を吐きながら、それを嫌味のみに終わらせず、ありがちな天然キャラにも走らず、笑いへと昇華させる力を持つ。トーク力があるというより、トークの性質が変わっている。そこを買われているのか、バラエティ番組にしばしば起用されている。自分からガツガツ割り込んでいくタイプではない。ただ、なあなあで終わらせようとしている現場の雰囲気の中でも、彼女はそれが見ている人に物足りないのではないかと判断すると、「一言多い」人になる。「そんな毒にも薬にもならない話は聞きたくない」と誰か(もう一人の自分、と言ってもいいだろう)が思っているところを想像し、そこに自分自身で応えようしているかに見える。2011年になってからは、以前よりも可愛いと自己主張することが減ったようだが、ほかのタレントがしないような異質なトークをする点は変わらない。

 元々は警戒心が強い人なのではないかと思う。空気はかなり読んでいるようだが、計算して話しているようで、その計算がどこか狂っているため、周囲の空気とも自分自身の意図ともズレが生じる。結果、何とも言えない「おかしみ」が浮き上がってくる。これが計算通り行きすぎると、先回り感が出て、面白さが半減する。相手に耳を傾けさせる絶妙な間合いと奇妙な言語感覚も、彼女の武器である。また、声質に特徴があり、ほかの出演者の声に紛れにくいのも強みだ。
 道重のトークを分析するのは難しい。彼女の毒舌は、そのまま活字にすると嫌味な内容になるが、実際に話すと、声と間合いと微妙に遠慮しているような表情のせいか、嫌な後味を残さない(むろん、常にうまくいくとは限らない)。活字では伝わりにくい個性である。

 ただ、モーニング娘。について話す時は、ファン心理にしっかりと響く発言をする。自身のDVDでは、「モーニング娘。の名前を知ってる方はたくさんいるけど、今はほとんど中身を知られていない」という意味のことを語っていた。事実を言っているだけなのだが、自分からは対外的に言いにくいことである。かといって、第三者から言われるのも複雑だろう。道重はそこを誠実に言語化する。その一言一言が、真摯なプレゼンテーションのように響く。
 彼女はラジオでレギュラー番組を持っているが、そちらではよりストレートに本音を吐露している。私は動画サイトで数回分聞いただけだが、いかに話すべきかという理性とたくさん話したいという感情が微妙に噛み合っていない感じがして面白かった。その時々に感じた喜び、感謝、寂しさ、焦り、嫉妬、闘争心も率直に語る。見た目の印象とは異なり、熱い人なのだろう。自己中心的に話しているようで、ちょっとした話題の中にほかのメンバーのエピソードを織り交ぜることも忘れない。ブログでは、モーニング娘。に限らずハロー!プロジェクトのメンバーの画像を多数掲載し、普通なら会社の広報がやりそうなことを自ら発信して紹介に努めているようだ。新しいファンの中には、彼女の発信力のおかげでハロー!プロジェクトのメンバーを知った、という人も多いのではないか。

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 パフォーマンス面では、歌はともかく、ダンスは見せどころがうまく、表情も豊かで、しっかりと歌詞の世界に入り込んで表現している。アグレッシヴに見せるタイプではないが、髪や腰のちょっとした動きで視覚効果を高める術を心得ている。少なくとも、コンサートで「大きい瞳」のステージングを目の当たりにしてから、私はそういう見方をするようになった。世間的には、道重さゆみは「変わった子」「何も出来なさそうな子」といったイメージで捉えられているようで、それはそれでキャラクターとしては分かりやすいのだろうが、なんといってもCDデビューから8年以上活動しているメンバーなのだ。ダンスや表情でも魅せる才能があることは、先入観を抜きにしてコンサートやミュージックビデオを観れば分かる。ただ、体力はあまり無さそうである。膝が弱いのか、屈伸動作の入った振りが得意でないようにも見える。
 歌に関しては主に「吐息担当」ということになっているが、今年になって歌声から不自然な力みがかなりなくなった気がする。自分に合ったフラットな歌い方を見つけつつあるのではないだろうか。たまたま私が聴いたのが比較的調子の良い時だったのか、その辺は何とも言えない。

 道重さゆみと同期のメンバーで、すでに卒業している亀井絵里が、あるDVDの中で2010年の抱負をきかれた時、「LOVEマシーン」でのモーニング娘。を引き合いに出してこんなことを語っていた。「モーニング娘。としては、『面白いことも出来るんだね』と言われたいなって最近はずっと思っていて......。『可愛い』は出来たし、『カッコいい』もみんな頑張って出来るようになったし」ーー高橋愛卒業後、パフォーマンスの質を維持するだけでも大変なことに違いないのに、なおかつ面白さを明確にアピールするのは容易ではないと思う。また、メディアへの露出が限られている中、モーニング娘。のプロフィールが見えにくくなっているのも事実である。ただ、「この地球の平和を本気で願ってるんだよ!」でも「未来は渡さない」と歌われているように、このグループには諦めるという言葉は似合わない。

 面白いだけでパフォーマンスが劣化したら何にもならないが、「可愛さ」「カッコよさ」にプラスして「面白さ」を見せられれば言うことはない。「彼と一緒にお店がしたい!」で道重をセンターに据えたのはそういうモーニング娘。の未来を探るトライアルだったのではないか、と私は思っている。面白いものをそのまま面白いものとして外に見せるのは、簡単なようで難しい。そこで重要なスポークスマン的役割を果たすメンバーがいるとすれば、それは道重さゆみ以外にいない。モーニング娘。が10期のメンバーを迎え、次の章へ進んだ今、道重の才能と個性と発信力がどのように発揮されるのか、楽しみである。
(阿部十三)


【関連サイト】
モーニング娘。OFFICIAL WEBSITE
モーニング娘。Official Channel

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