NUKEY PIKES ライヴハウスに居たヒーロー
2011.10.29
大学時代の僕の遊び場と言えばライヴハウスであった。知らない人が沢山集まるコンパは苦手で、テニスやスキーの浮ついたムードにも馴染めず......という、我ながらキャンパスライフに不向きの性質の持ち主であった当時の僕にとって、唯一居心地の良さを感じられる空間がライヴハウスだったのだ。初めて行ったライヴハウスは、まだ小滝橋通り沿いにあった頃の新宿ロフト。そこは大好きなRCサクセションがブレイクへの礎を築き、他にも様々なバンドが伝説のライヴを重ねてきた聖地。中高生の頃から名前は知っていて、憧れで胸を膨らませていたその場所に初めて足を踏み入れたのは1993年の夏のことだ。
『ROCK is LOFT』という新宿ロフトの歴史をまとめた書籍に97年迄の公演スケジュールが全て掲載されているので、今調べてみたところ、僕が初めて新宿ロフトの薄暗い階段を下ったのは93年8月18日だったらしい。その日、僕が目当てとしていたのは、一風変わったギタリストとして興味を持っていた會田茂一、通称アイゴン率いる、そして今となって思えばLOW IQ 01が所属していたアクロバットバンチであった。『MORE LOUD AND HIT』というタイトルのこの日のライヴに出演したのは、その他にキミドリ、コールタール、そしてNUKEY PIKESであった。名前を知らなかったバンドであったが、NUKEY PIKESは特に衝撃であった。ハードなサウンドと対象的に何処か飄々とした風貌を揺らし、無邪気な少年のような声質でシャウトするヴォーカリスト、アグレッシヴな爆音を連射するハードコアパンクでありながらも、様々な音楽のエッセンスを自由自在に織り込み、時折驚く程牧歌的であるサウンド......NUKEY PIKESがその日奏でた音楽は、僕にとって全く未知の領域のものであった。
NUKEY PIKESが活動していたのは89年〜97年。彼らの作品はライヴ盤、コンピレーション盤、企画編集盤、シングル、収録曲が異なる同タイトルのアルバムなども含めると実に様々だが、オリジナルアルバムは全部で3作。1stアルバム『NUKEY PIKES』(オリジナルは91年のLP盤だが、収録曲が若干異なるCDが92年に出た)、『NO POINT』(94年)、『CONSUME』(96年)がリリースされた。
1stアルバム『NUKEY PIKES』の時点で、彼らのオリジナリティは抜群に発揮されている。まるでハイキングにでも出かけるかのような軽快なビートと開放的なサウンドが広がる「LET'S GET ANOTHER PLACE」、ブルージーなギターリフを主軸とした「NUKED UP BLUES」。抒情的なメロディが満載の「EASY LOVE BABY」、パーカッションとベースのスラッピングを効果的に盛り込み、ファンキーな風味を濃厚に醸し出す「DIFFERENT CULTURE」......などなど。国内の音楽シーンで「ミクスチャーロック」が成熟する前のこの頃に、驚く程伸び伸びとしていて自由、ジャンルレスな曲を彼らは演奏している。そして、全英詞で歌われている内容も目を惹く。環境破壊、自由とは一体何なのか?、消費社会への疑問、マネーゲームへの違和感などが歌われている。どれも身近な題材だが、どうにもこうにも明確な答えを出し得ないことばかりだ。利便性/危険性という原子力の矛盾に想いを巡らせる「NUKED UP BLUES」は、リリースから20年経った今、改めて鋭く突き刺さってくる。
2ndアルバム『NO POINT』で、彼らはさらなる進化を遂げる。これはリアルタイムで手にした最初のアルバムでもあるので、個人的にも非常に思い出深い。メロディックハードコア的な爽快感がある「NOTHING TO PROVE」、レゲエとハードコアパンクが摩訶不思議に融合した「IT'S ALL OVER」、日本語詞で白昼夢のような風景を映し出す「夏のにげ水」は、特にお気に入りであった。3rdアルバム『CONSUME』は、とにかく鬼気迫る1枚。渋谷のライヴハウス、ラママでレコーディングされたというサウンドは、音から血が滴るような気がする位に生々しい。鈍くうねる重低音と共に何処かサイケデリックなメロディが迫る「A SLICE OF VISION」、研ぎ澄まされ抜いたビートがグサグサ全身に突き刺さってくる「右廻り」、地鳴りのような轟音、物憂げな残響、喉が張り裂けそうな叫びが不穏に渦巻く「CAPITALISM」など、どす黒いエネルギーに満ちている作品だ。そして、このアルバムをリリースした翌年、97年12月27日の千葉LOOKでのライヴをもってNUKEY PIKESは解散した。
どういう事情なのかは知らないが、今年になって突然NUKEY PIKESの様々な作品が一気に再発された。1stアルバム『NUKEY PIKES』の再発盤は、特に凄い。入手困難であったライヴビデオ『NUKEY IDEA』のDVDが付属しているのだ。また、長らく流通していたタイプの盤には収録されていなかったカバー曲を聴けるのも嬉しい。トゥーツ・アンド・ザ・メイタルズ「PRESSURE DROP」(ザ・クラッシュによるカバーも有名)、アバ「DANCING QUEEN」がNUKEY PIKES流に料理されている。初期の彼らはその他にザ・フー「THE KIDS ARE ALRIGHT」、ザ・ビートルズ「DAY TRIPPER」、ジミ・ヘンドリックス「PURPLE HAZE」などもカバーしていた。彼らの柔軟性を、これらのカバー曲から感じ取ることが出来る。
メジャーデビューしたことはなく、ヒット曲があるわけでもない。しかし、彼らが偉大なバンドであったことは、作品群を聴けば誰でも分かるだろう。後のAIR JAMなどに象徴されるパンクムーヴメントの源流も、感じ取ることが出来るはずだ。『NUKEY PIKES』の再発盤の帯にBRAHMANのTOSHI-LOWが「ガラガラのライブハウスのステージ上でNUKEY PIKESの存在が心の支えだった」という言葉を寄せているが、NUKEY PIKESのフォロワーは数知れない。よく使用されるフレーズではあるが......「彼らがいなければ、今日のロックシーンは全く違ったものになっていただろう」。まさしくそう表現するのがふさわしいバンドだ。
【関連サイト】
NUKEY PIKES(CD)
『ROCK is LOFT』という新宿ロフトの歴史をまとめた書籍に97年迄の公演スケジュールが全て掲載されているので、今調べてみたところ、僕が初めて新宿ロフトの薄暗い階段を下ったのは93年8月18日だったらしい。その日、僕が目当てとしていたのは、一風変わったギタリストとして興味を持っていた會田茂一、通称アイゴン率いる、そして今となって思えばLOW IQ 01が所属していたアクロバットバンチであった。『MORE LOUD AND HIT』というタイトルのこの日のライヴに出演したのは、その他にキミドリ、コールタール、そしてNUKEY PIKESであった。名前を知らなかったバンドであったが、NUKEY PIKESは特に衝撃であった。ハードなサウンドと対象的に何処か飄々とした風貌を揺らし、無邪気な少年のような声質でシャウトするヴォーカリスト、アグレッシヴな爆音を連射するハードコアパンクでありながらも、様々な音楽のエッセンスを自由自在に織り込み、時折驚く程牧歌的であるサウンド......NUKEY PIKESがその日奏でた音楽は、僕にとって全く未知の領域のものであった。
NUKEY PIKESが活動していたのは89年〜97年。彼らの作品はライヴ盤、コンピレーション盤、企画編集盤、シングル、収録曲が異なる同タイトルのアルバムなども含めると実に様々だが、オリジナルアルバムは全部で3作。1stアルバム『NUKEY PIKES』(オリジナルは91年のLP盤だが、収録曲が若干異なるCDが92年に出た)、『NO POINT』(94年)、『CONSUME』(96年)がリリースされた。
1stアルバム『NUKEY PIKES』の時点で、彼らのオリジナリティは抜群に発揮されている。まるでハイキングにでも出かけるかのような軽快なビートと開放的なサウンドが広がる「LET'S GET ANOTHER PLACE」、ブルージーなギターリフを主軸とした「NUKED UP BLUES」。抒情的なメロディが満載の「EASY LOVE BABY」、パーカッションとベースのスラッピングを効果的に盛り込み、ファンキーな風味を濃厚に醸し出す「DIFFERENT CULTURE」......などなど。国内の音楽シーンで「ミクスチャーロック」が成熟する前のこの頃に、驚く程伸び伸びとしていて自由、ジャンルレスな曲を彼らは演奏している。そして、全英詞で歌われている内容も目を惹く。環境破壊、自由とは一体何なのか?、消費社会への疑問、マネーゲームへの違和感などが歌われている。どれも身近な題材だが、どうにもこうにも明確な答えを出し得ないことばかりだ。利便性/危険性という原子力の矛盾に想いを巡らせる「NUKED UP BLUES」は、リリースから20年経った今、改めて鋭く突き刺さってくる。
2ndアルバム『NO POINT』で、彼らはさらなる進化を遂げる。これはリアルタイムで手にした最初のアルバムでもあるので、個人的にも非常に思い出深い。メロディックハードコア的な爽快感がある「NOTHING TO PROVE」、レゲエとハードコアパンクが摩訶不思議に融合した「IT'S ALL OVER」、日本語詞で白昼夢のような風景を映し出す「夏のにげ水」は、特にお気に入りであった。3rdアルバム『CONSUME』は、とにかく鬼気迫る1枚。渋谷のライヴハウス、ラママでレコーディングされたというサウンドは、音から血が滴るような気がする位に生々しい。鈍くうねる重低音と共に何処かサイケデリックなメロディが迫る「A SLICE OF VISION」、研ぎ澄まされ抜いたビートがグサグサ全身に突き刺さってくる「右廻り」、地鳴りのような轟音、物憂げな残響、喉が張り裂けそうな叫びが不穏に渦巻く「CAPITALISM」など、どす黒いエネルギーに満ちている作品だ。そして、このアルバムをリリースした翌年、97年12月27日の千葉LOOKでのライヴをもってNUKEY PIKESは解散した。
どういう事情なのかは知らないが、今年になって突然NUKEY PIKESの様々な作品が一気に再発された。1stアルバム『NUKEY PIKES』の再発盤は、特に凄い。入手困難であったライヴビデオ『NUKEY IDEA』のDVDが付属しているのだ。また、長らく流通していたタイプの盤には収録されていなかったカバー曲を聴けるのも嬉しい。トゥーツ・アンド・ザ・メイタルズ「PRESSURE DROP」(ザ・クラッシュによるカバーも有名)、アバ「DANCING QUEEN」がNUKEY PIKES流に料理されている。初期の彼らはその他にザ・フー「THE KIDS ARE ALRIGHT」、ザ・ビートルズ「DAY TRIPPER」、ジミ・ヘンドリックス「PURPLE HAZE」などもカバーしていた。彼らの柔軟性を、これらのカバー曲から感じ取ることが出来る。
メジャーデビューしたことはなく、ヒット曲があるわけでもない。しかし、彼らが偉大なバンドであったことは、作品群を聴けば誰でも分かるだろう。後のAIR JAMなどに象徴されるパンクムーヴメントの源流も、感じ取ることが出来るはずだ。『NUKEY PIKES』の再発盤の帯にBRAHMANのTOSHI-LOWが「ガラガラのライブハウスのステージ上でNUKEY PIKESの存在が心の支えだった」という言葉を寄せているが、NUKEY PIKESのフォロワーは数知れない。よく使用されるフレーズではあるが......「彼らがいなければ、今日のロックシーンは全く違ったものになっていただろう」。まさしくそう表現するのがふさわしいバンドだ。
(田中大)
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NUKEY PIKES(CD)
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