COALTAR OF THE DEEPERS ハードコアへと誘われた僕
2011.11.05
1993年の6月頃、洋楽から邦楽まで、雑多なジャンルが適当に詰め込まれたカセットテープを友人から貰った。その中で特に僕に衝撃を喰らわしたのは、COALTAR OF THE DEEPERS(以下、ディーパーズとする)という何やら得体のしれない名前のバンドの「My Speedy Sarah」だった。第一印象は「マイ・ブラッディ・ヴァレンタインがスラッシュメタルをやっているみたいな感じだな」というものだった......というような冷静な分析をしたはずもない。とにかく問答無用の興奮が圧倒的に先立ったのを覚えている。スリリングにカッティングされるギター、危ない香りがプンプン漂う幻想的な残響音、心臓破裂を目指しているかのような血走ったスピード感、演奏のパワーとは対照的に、何処か頼りなさ気な声質のヴォーカル......僕はこの曲に完全に殺られてしまい、「何処で見つけたの?」と、カセットテープをくれた友人に訊ねた。「『DANCE2NOISE』っていうコンピ盤に入っていたんだよ。そのバンドは多分まだインディー。『DANCE2NOISE』はBUCK-TICKの今井寿とかも参加しているメジャー盤なんだけど......」とのことだった。僕は早速買いに走ったが、このコンピシリーズは既に何作も出ているようで、ディーパーズが参加している盤は見つからなかった。「ならば!」と、僕が足を伸ばしたのは、当時、新宿のサブナードにあった帝都無線のインディーズ専門店。彼らのインディーズの作品を手に入れることにしたのだ。とはいえ僕は彼らのことは何も知らず、作品を出しているという確証もない。「そんな変な名前のバンドのCDなんて置いてあるのか? そもそもあの音のジャンルは?」ーー何を手掛かりとしたら良いのか皆目見当がつかないまま、あらゆるジャンルの「C」のコーナーを探した。どのジャンルに置いてあったのかは覚えていないが、ついに見つけたのは4曲入りの『QUEENS PARK ALL YOU CHANGE』。パッケージ背面に記されたバンド名が「COALTAR OF THE DEEPERS」ではなく「COALTER OF THE DEEPERS」、1文字異なっているのが若干気になったが、僕はそのCDを購入した。
帰宅して『QUEENS PARK ALL YOU CHANGE』を再生した時、僕は不安になった。1曲目「Queens Park all u change」は、僕が「My Speedy Sarah」で抱いたディーパーズのイメージと正反対だったからだ。タンバリン、ウクレレ、パーカッションを奏で、口笛を交えながらのんびりと歌い上げるその曲は、民族音楽のようであった。そういえばCDジャケットは南アジア辺り風な顔立ちの女の子2人の写真。いかにも民族音楽っぽい。「ショック! やっぱり別のバンドのCDだ!!」。しかし、2曲目「thrash up disturbance #4」が始まり、僕は一気に蘇った。野蛮な雄叫びが跋扈する冒頭は相変わらず民族音楽風だったが、17秒を過ぎたところで、急にとんでもない爆音とデス声が左右のスピーカーから飛び出したのだ。スラッシュメタルの要素がかなり強いが、曲に籠っている熱量は僕が「My Speedy Sarah」で感じたディーパーズに通じるものがあった。そして、3曲目「Sarah's living4moment」を聴いて、僕は正しいCDを買ったことを確信した。ザクザク刻まれるギター、やたらと手数の多いドラム、猛烈なスピード感、か細い声質のヴォーカルは、僕の抱いていたディーパーズ像と完全に一致した。そして、4曲目「Charming Sister, Kiss Me Dead!!」に辿り着いた時、僕は完全にディーパーズの虜となっていた。
ディーパーズとの出会いが、丁度僕がライヴハウスの楽しさを知った時期と重なることもあり、僕はディーパーズのライヴに熱心に足を運ぶようになった。学生の頃、僕が最もライヴを観た回数が多いのは、間違いなくディーパーズだ。彼らは対バン形式でライヴに出演することが多かった。そのお陰で様々な他のバンドと出会えたことにも、僕はとても感謝している。COCOBAT、WRENCH、Hi-STANDARD、BEYONDS、HELLCHILD、BRUTISH BULLDOGS、COKE HEAD HIPSTERS、DEF.MASTER、BATTiES BOYS、HOT TOASTERS、CRAW FISHなどなど......そういえばGUITAR WOLFとの出会いもディーパーズを通じてであった。たしか94年の冬辺りに渋谷のラママで催された『EMISSIONAL FRONT』というイヴェントだったと思う。オープニングSEが流れる中、ステージと客席の間を仕切っている柵の上に仁王立ちし、サングラス越しに我々観客を睨みつけたセイジ。ヒラリと飛び降りた彼が「オールナイトでぶっとばせ!!」と叫んでスタートしたのは「オールナイトでぶっとばせ!!」。この曲が収録されているアルバム『狼惑星』でGUITAR WOLFがメジャーデビューするのは、それから約3年後のことだ。
大学を卒業してからは、ディーパーズのライヴに毎回通うというわけにはいかなくなったが、彼らの作品はこまめにチェックし続けている。91年から07年にリリースしたシングルを集めたBOXセットも買った。その内の1枚『QUEENS PARK ALL YOU CHANGE』のパッケージのバンド表記は全て「COALTAR OF THE DEEPERS」になっていた。僕が昔買った盤のあの表記は、やはり単に誤字だったのだろう......。
ディーパーズの中心人物であるNARASAKIの活躍を様々な場所で目にするようになったのが嬉しい。ファンの図々しい幻想であることは百も承知だが、NARASAKIが世間から評価されることによって、「僕の見る目は正しかった!」と、昔の自分を肯定されるような気持になるのだ。昨年、ももいろクローバーの「ピンキージョーンズ」の作曲を手掛けたのがNARASAKIだと知った時の僕の喜びようは、特に尋常ではなかった。どういうわけかももいろクローバーに心惹かれ始め、「いい歳をして!」と、自分に戸惑いを覚えていたのだが、「迷わず進んで良いのだ!」というお墨付きを貰ったような気がした。人を喰ったビート、開放的なメロディがダイナミックに展開する「ピンキージョーンズ」。サウンドのスタイルは全く異なるが、アヴァンギャルドでありながらも何処かユーモアを感じさせるこの曲のトーンは、紛れもなくディーパーズ節であった。そんなサウンドで歌って踊るももいろクローバーに興味を持ったのは、僕にとってごく自然なことだったのだと思う。僕はロリコンではないのだ......多分。今後も僕は様々な刺激をディーパーズ、NARASAKIから受けるのであろう。
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帰宅して『QUEENS PARK ALL YOU CHANGE』を再生した時、僕は不安になった。1曲目「Queens Park all u change」は、僕が「My Speedy Sarah」で抱いたディーパーズのイメージと正反対だったからだ。タンバリン、ウクレレ、パーカッションを奏で、口笛を交えながらのんびりと歌い上げるその曲は、民族音楽のようであった。そういえばCDジャケットは南アジア辺り風な顔立ちの女の子2人の写真。いかにも民族音楽っぽい。「ショック! やっぱり別のバンドのCDだ!!」。しかし、2曲目「thrash up disturbance #4」が始まり、僕は一気に蘇った。野蛮な雄叫びが跋扈する冒頭は相変わらず民族音楽風だったが、17秒を過ぎたところで、急にとんでもない爆音とデス声が左右のスピーカーから飛び出したのだ。スラッシュメタルの要素がかなり強いが、曲に籠っている熱量は僕が「My Speedy Sarah」で感じたディーパーズに通じるものがあった。そして、3曲目「Sarah's living4moment」を聴いて、僕は正しいCDを買ったことを確信した。ザクザク刻まれるギター、やたらと手数の多いドラム、猛烈なスピード感、か細い声質のヴォーカルは、僕の抱いていたディーパーズ像と完全に一致した。そして、4曲目「Charming Sister, Kiss Me Dead!!」に辿り着いた時、僕は完全にディーパーズの虜となっていた。
ディーパーズとの出会いが、丁度僕がライヴハウスの楽しさを知った時期と重なることもあり、僕はディーパーズのライヴに熱心に足を運ぶようになった。学生の頃、僕が最もライヴを観た回数が多いのは、間違いなくディーパーズだ。彼らは対バン形式でライヴに出演することが多かった。そのお陰で様々な他のバンドと出会えたことにも、僕はとても感謝している。COCOBAT、WRENCH、Hi-STANDARD、BEYONDS、HELLCHILD、BRUTISH BULLDOGS、COKE HEAD HIPSTERS、DEF.MASTER、BATTiES BOYS、HOT TOASTERS、CRAW FISHなどなど......そういえばGUITAR WOLFとの出会いもディーパーズを通じてであった。たしか94年の冬辺りに渋谷のラママで催された『EMISSIONAL FRONT』というイヴェントだったと思う。オープニングSEが流れる中、ステージと客席の間を仕切っている柵の上に仁王立ちし、サングラス越しに我々観客を睨みつけたセイジ。ヒラリと飛び降りた彼が「オールナイトでぶっとばせ!!」と叫んでスタートしたのは「オールナイトでぶっとばせ!!」。この曲が収録されているアルバム『狼惑星』でGUITAR WOLFがメジャーデビューするのは、それから約3年後のことだ。
大学を卒業してからは、ディーパーズのライヴに毎回通うというわけにはいかなくなったが、彼らの作品はこまめにチェックし続けている。91年から07年にリリースしたシングルを集めたBOXセットも買った。その内の1枚『QUEENS PARK ALL YOU CHANGE』のパッケージのバンド表記は全て「COALTAR OF THE DEEPERS」になっていた。僕が昔買った盤のあの表記は、やはり単に誤字だったのだろう......。
ディーパーズの中心人物であるNARASAKIの活躍を様々な場所で目にするようになったのが嬉しい。ファンの図々しい幻想であることは百も承知だが、NARASAKIが世間から評価されることによって、「僕の見る目は正しかった!」と、昔の自分を肯定されるような気持になるのだ。昨年、ももいろクローバーの「ピンキージョーンズ」の作曲を手掛けたのがNARASAKIだと知った時の僕の喜びようは、特に尋常ではなかった。どういうわけかももいろクローバーに心惹かれ始め、「いい歳をして!」と、自分に戸惑いを覚えていたのだが、「迷わず進んで良いのだ!」というお墨付きを貰ったような気がした。人を喰ったビート、開放的なメロディがダイナミックに展開する「ピンキージョーンズ」。サウンドのスタイルは全く異なるが、アヴァンギャルドでありながらも何処かユーモアを感じさせるこの曲のトーンは、紛れもなくディーパーズ節であった。そんなサウンドで歌って踊るももいろクローバーに興味を持ったのは、僕にとってごく自然なことだったのだと思う。僕はロリコンではないのだ......多分。今後も僕は様々な刺激をディーパーズ、NARASAKIから受けるのであろう。
(田中大)
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