ももいろクローバーZ 分析するほどに加速する錯乱
2011.12.24
だいぶ前の話にはなるが、2010年の5月30日に放送された音楽番組『MUSIC JAPAN』は、女性アイドルグループ特集であった。独特なコンセプトを打ち出しているグループが多く、「女性アイドルシーンは面白いことになっているのだな」と感心しつつ、僕はのんびりと過ごしていた。しかし......彼女たちが現れた瞬間に「すげえ!」と、一気に背筋が伸びたのだ。「彼女たち」とは、他でもないももいろクローバー。受けた衝撃は、斬新なエンタテインメントに出会った時に感じる純粋な感動だった。
自己紹介のラップからスタートし、虎視眈々と、しかし生き急ぐかのようなスピード感で駆け抜ける歌メロへ突入。サビでは明るくキャピキャピしたメロディが大爆発! 性質の異なる音楽を強引に繋ぎ合わせたようなプログレッシヴなサウンド、そしてパフォーマンスが抜群に刺激的だった。何処かのネジが外れてしまったかのような異様なテンションを積極的にアピールしている未曾有のスタイルに仰天! あのモノノケじみた様子のダンスは「ビートに乗っている」というよりも「ビートが憑依している」と表現した方が正確ではないか?
僕はももいろクローバー、現ももいろクローバーZの曲をこまめにチェックするようになり、アルバム『バトル アンド ロマンス』や様々なシングルも愛聴している。「行くぜっ!怪盗少女」の作詞・作曲・編曲を手掛けたヒャダインこと前山田健一の曲、「Z伝説〜終わりなき革命〜」「ココ☆ナツ」「ワニとシャンプー」などは特にお気に入りだ。多数いる参加作家陣の中で、僕にとって嬉しかったのがNARASAKI。彼は「ピンキージョーンズ」「天手力男」の作曲・編曲、「ミライボウル」の編曲を手掛けている。僕はNARASAKIのバンド、COALTAR OF THE DEEPERSを学生の頃から追いかけている。彼の名前を、こんなところで見つけるとは!
それにしても、ももいろクローバーZの魅力とは何なのか? 考えれば考えるほど頭がプスプスとショートする。答えを求めて彼女たちに関する記事をいろいろ読んでみたが、今一つスッキリしない。仕方がないので、僕なりに考えてみた。そもそも、何故にももいろクローバーZの魅力を分析しようとすると、こんなにも僕は混乱してしまうのか? それは彼女たちの曲にはポップスであることを保証する命綱であるはずの「保守」の要素が見つからないからだと思う。アイドルソングはたくさんの人を魅了するためのエンタテインメントである性質上、「分かり易い」「共感し易い」といった広い門戸を、何処かしらに必ず設けている。ももいろクローバーZはどうか? 趣きが何か異なる。いや、たしかに彼女たちの曲はキャッチーではある。しかし、これを所謂「キャッチー」と同種のものとして捉えて良いのか? 曲のキャッチーさを生み出す主要素であるメロディは一般的には「サビ」だが、それが普通ではない。和テイストを積極的に採り入れていた初期の曲は「サビ」が明快に飛び出す構造であるものの、ももいろクローバーZの最近の代表作となっているものは、「サビ」と呼び得る印象的なメロディが次々と出血大サービスで大盤振る舞いされる。言うなれば「サビ」の分身の術だ。ときめきつつも、クラクラした眩暈を覚えてしまう。
歌詞に関しても「保守」の要素があまり見当たらない。勿論彼女たちのレパートリーの中にはアイドルソングの王道である恋や愛、友情をテーマにした、所謂「共感出来る!」という路線の曲もいっぱいあるが、そういう作風からかけ離れた曲もかなり多い。ももいろクローバーZの歌詞の独自スタイルとなりつつあると感じるのは、「アイドルとしての心意気の主張」とでも言うべき路線だ。例えば「行くぜっ!怪盗少女」は平日は学校へ行き、週末はアイドル活動をしている彼女たちの不敵な犯行声明。「Z伝説〜終わりなき革命〜」は6人組から5人組となった彼女たちのドキュメンタリーであり、新装開店を告げる雄々しい突撃ラッパ。「D'の純情」は逆境にもめげずに突き進む逞しさに溢れたハードボイルドソング。「ピンキージョーンズ」は夢を叶えるために旅を続けることを告げる熱い冒険宣言。「彼女たちも頑張っているから自分も頑張ろう!」と思える点では広義の「共感」なのかもしれないが、リスナーと同じ地平に立った「日常生活」ではなく、「アイドルのお仕事」という限定された世界での七転八倒を積極的に表現している点で、かなり特殊であるように思う。しかも、今ふと気づいたが、挙げた曲はここ1年くらいのシングル曲ばかり。グループのイメージを形成するシングル曲で、この路線を連発しているのは普通ではない。
そして参加作家陣、提供されている曲に関しても、ももいろクローバーZは何か様子が違うように思うのだ。多彩なクリエイターが集っているが、「ロック」「エレクトロ」「ハウス」「テクノ」「R&B」「ヒップホップ」など、オルタナティヴな音楽として一定の評価が確立されているものの、エッセンスを採り入れることを目的として作家陣を起用している印象が全くしない。むしろ、何とも形容し難い、明確なジャンル分けを示す言葉を誰も持たない奇天烈な曲を作ることを期待して、オファーしているムードが窺われるのだ。例えば前山田健一やNARASAKIが提供した曲は、「〜風だね」といった表現を寄せ付けないアヴァンギャルドソングだし、「労働讃歌」がTHE GO! TEAMのイアン・パートンの提供曲だという、未だに意味がよく分からないインターナショナルな人選も、そういうことなのだろう。THE GO! TEAMは有名だが、日本では洋楽ファンくらいしか知らない。「えっ、あの人が曲提供!?」というプロモーション効果を期待出来るとは思えない。「とんでもないことを期待したから」という理由による起用と解釈するのが一番収まりが良い。「労働讃歌」の作詞が大槻ケンヂであるのも同様の理由ではないだろうか。彼のアイドルへの造詣の深さや、自身のバンド特撮(ギタリストはNARASAKI)での活動からすると起用されてもおかしくはないのだが、ハッキリした意図は読み取れない。
アンダーグラウンドなアイドルを指向しているのならば、このようなももいろクローバーZの姿は、驚くようなものではないのかもしれない。しかし、彼女たちは今やさいたまスーパーアリーナのワンマン公演のチケットを一瞬でソールドアウトしてしまうような存在だ。この特異さに対する説明として、僕が今のところ一番しっくりきているものは、前山田健一の「アイドル戦国時代でももクロのマネをするユニットが出てくるでしょうけど、まずムリですよ。スタッフが本当に壊れてないとダメですから(笑)」(クイック・ジャパンVol.95)という言葉だ。「壊れている」......なるほど。論理性を求めても仕方がないということか。しかし、単に壊れているものが世間の主流へと躍り出られるほど、日本人はブッ飛んでいない。それなのに彼女たちがたくさんの人々を惹き付けている理由とは?
ももいろクローバーZの普通でなさは、例えばミュージックビデオを観れば誰もが感じずにはいられない。そして、最初は呆れるだろう。しかし、ふとした瞬間に気づくはずなのだ。一般的には「悪ふざけ」としか思われないはずのコンセプトを躊躇せず、むしろ積極的に楽しみながら歌い、踊り、表現しているももいろクローバーZの姿は、実に王道に愛らしいということを。奇妙奇天烈なものに取り組みつつ彼女たちが浮かべている活き活きした表情は、お菓子を食べながらはしゃいだり、動物と戯れて笑顔を浮かべたり、お姫様のような格好をして大喜びしたりといった正統派のアイドル像と、質においては何ら変わらない気がする。曲、ヴィジュアル、振付といった、周囲のスタッフ、クリエイターの手による領域ではなく、「仕事への取り組み姿勢」という、大人のプロデュースだけではどうにも出来ない本人たちの主体性によって、劇的なキャッチーさを実現している点が、ももいろクローバーZの新しさ、とんでもなさなのかもしれない。
【関連サイト】
ももいろクローバーZ
ももいろクローバーZ(CD、DVD)
スタデジch.
自己紹介のラップからスタートし、虎視眈々と、しかし生き急ぐかのようなスピード感で駆け抜ける歌メロへ突入。サビでは明るくキャピキャピしたメロディが大爆発! 性質の異なる音楽を強引に繋ぎ合わせたようなプログレッシヴなサウンド、そしてパフォーマンスが抜群に刺激的だった。何処かのネジが外れてしまったかのような異様なテンションを積極的にアピールしている未曾有のスタイルに仰天! あのモノノケじみた様子のダンスは「ビートに乗っている」というよりも「ビートが憑依している」と表現した方が正確ではないか?
僕はももいろクローバー、現ももいろクローバーZの曲をこまめにチェックするようになり、アルバム『バトル アンド ロマンス』や様々なシングルも愛聴している。「行くぜっ!怪盗少女」の作詞・作曲・編曲を手掛けたヒャダインこと前山田健一の曲、「Z伝説〜終わりなき革命〜」「ココ☆ナツ」「ワニとシャンプー」などは特にお気に入りだ。多数いる参加作家陣の中で、僕にとって嬉しかったのがNARASAKI。彼は「ピンキージョーンズ」「天手力男」の作曲・編曲、「ミライボウル」の編曲を手掛けている。僕はNARASAKIのバンド、COALTAR OF THE DEEPERSを学生の頃から追いかけている。彼の名前を、こんなところで見つけるとは!
それにしても、ももいろクローバーZの魅力とは何なのか? 考えれば考えるほど頭がプスプスとショートする。答えを求めて彼女たちに関する記事をいろいろ読んでみたが、今一つスッキリしない。仕方がないので、僕なりに考えてみた。そもそも、何故にももいろクローバーZの魅力を分析しようとすると、こんなにも僕は混乱してしまうのか? それは彼女たちの曲にはポップスであることを保証する命綱であるはずの「保守」の要素が見つからないからだと思う。アイドルソングはたくさんの人を魅了するためのエンタテインメントである性質上、「分かり易い」「共感し易い」といった広い門戸を、何処かしらに必ず設けている。ももいろクローバーZはどうか? 趣きが何か異なる。いや、たしかに彼女たちの曲はキャッチーではある。しかし、これを所謂「キャッチー」と同種のものとして捉えて良いのか? 曲のキャッチーさを生み出す主要素であるメロディは一般的には「サビ」だが、それが普通ではない。和テイストを積極的に採り入れていた初期の曲は「サビ」が明快に飛び出す構造であるものの、ももいろクローバーZの最近の代表作となっているものは、「サビ」と呼び得る印象的なメロディが次々と出血大サービスで大盤振る舞いされる。言うなれば「サビ」の分身の術だ。ときめきつつも、クラクラした眩暈を覚えてしまう。
歌詞に関しても「保守」の要素があまり見当たらない。勿論彼女たちのレパートリーの中にはアイドルソングの王道である恋や愛、友情をテーマにした、所謂「共感出来る!」という路線の曲もいっぱいあるが、そういう作風からかけ離れた曲もかなり多い。ももいろクローバーZの歌詞の独自スタイルとなりつつあると感じるのは、「アイドルとしての心意気の主張」とでも言うべき路線だ。例えば「行くぜっ!怪盗少女」は平日は学校へ行き、週末はアイドル活動をしている彼女たちの不敵な犯行声明。「Z伝説〜終わりなき革命〜」は6人組から5人組となった彼女たちのドキュメンタリーであり、新装開店を告げる雄々しい突撃ラッパ。「D'の純情」は逆境にもめげずに突き進む逞しさに溢れたハードボイルドソング。「ピンキージョーンズ」は夢を叶えるために旅を続けることを告げる熱い冒険宣言。「彼女たちも頑張っているから自分も頑張ろう!」と思える点では広義の「共感」なのかもしれないが、リスナーと同じ地平に立った「日常生活」ではなく、「アイドルのお仕事」という限定された世界での七転八倒を積極的に表現している点で、かなり特殊であるように思う。しかも、今ふと気づいたが、挙げた曲はここ1年くらいのシングル曲ばかり。グループのイメージを形成するシングル曲で、この路線を連発しているのは普通ではない。
そして参加作家陣、提供されている曲に関しても、ももいろクローバーZは何か様子が違うように思うのだ。多彩なクリエイターが集っているが、「ロック」「エレクトロ」「ハウス」「テクノ」「R&B」「ヒップホップ」など、オルタナティヴな音楽として一定の評価が確立されているものの、エッセンスを採り入れることを目的として作家陣を起用している印象が全くしない。むしろ、何とも形容し難い、明確なジャンル分けを示す言葉を誰も持たない奇天烈な曲を作ることを期待して、オファーしているムードが窺われるのだ。例えば前山田健一やNARASAKIが提供した曲は、「〜風だね」といった表現を寄せ付けないアヴァンギャルドソングだし、「労働讃歌」がTHE GO! TEAMのイアン・パートンの提供曲だという、未だに意味がよく分からないインターナショナルな人選も、そういうことなのだろう。THE GO! TEAMは有名だが、日本では洋楽ファンくらいしか知らない。「えっ、あの人が曲提供!?」というプロモーション効果を期待出来るとは思えない。「とんでもないことを期待したから」という理由による起用と解釈するのが一番収まりが良い。「労働讃歌」の作詞が大槻ケンヂであるのも同様の理由ではないだろうか。彼のアイドルへの造詣の深さや、自身のバンド特撮(ギタリストはNARASAKI)での活動からすると起用されてもおかしくはないのだが、ハッキリした意図は読み取れない。
アンダーグラウンドなアイドルを指向しているのならば、このようなももいろクローバーZの姿は、驚くようなものではないのかもしれない。しかし、彼女たちは今やさいたまスーパーアリーナのワンマン公演のチケットを一瞬でソールドアウトしてしまうような存在だ。この特異さに対する説明として、僕が今のところ一番しっくりきているものは、前山田健一の「アイドル戦国時代でももクロのマネをするユニットが出てくるでしょうけど、まずムリですよ。スタッフが本当に壊れてないとダメですから(笑)」(クイック・ジャパンVol.95)という言葉だ。「壊れている」......なるほど。論理性を求めても仕方がないということか。しかし、単に壊れているものが世間の主流へと躍り出られるほど、日本人はブッ飛んでいない。それなのに彼女たちがたくさんの人々を惹き付けている理由とは?
ももいろクローバーZの普通でなさは、例えばミュージックビデオを観れば誰もが感じずにはいられない。そして、最初は呆れるだろう。しかし、ふとした瞬間に気づくはずなのだ。一般的には「悪ふざけ」としか思われないはずのコンセプトを躊躇せず、むしろ積極的に楽しみながら歌い、踊り、表現しているももいろクローバーZの姿は、実に王道に愛らしいということを。奇妙奇天烈なものに取り組みつつ彼女たちが浮かべている活き活きした表情は、お菓子を食べながらはしゃいだり、動物と戯れて笑顔を浮かべたり、お姫様のような格好をして大喜びしたりといった正統派のアイドル像と、質においては何ら変わらない気がする。曲、ヴィジュアル、振付といった、周囲のスタッフ、クリエイターの手による領域ではなく、「仕事への取り組み姿勢」という、大人のプロデュースだけではどうにも出来ない本人たちの主体性によって、劇的なキャッチーさを実現している点が、ももいろクローバーZの新しさ、とんでもなさなのかもしれない。
(田中大)
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