文化 CULTURE

Buono!について 「初恋サイダー」を聴きながら

2012.02.18
 普段生活している中で、ハロー!プロジェクト関連のトピックを目にしたり耳にしたりすることは稀である。雑誌の表紙で見かけることもほとんどない。そのため、情報を得る時は、自分からあちこちのサイトに取りに行く必要が出てくる。私のような横着者は、できればオフィシャルHPを見て済ませたいのだが、「ここに来れば最新のトピックが揃っている」という感じがしない。結局、情報を探すにはそれなりに時間をかけなければならなくなる。
 私自身は邦楽ジャンルの仕事をしているわけではないが、いちおう音楽に関わる環境に身を置いている。にもかかわらず、周辺にある情報量が少ない。おそらくハロー!プロジェクトのことを知らない人は、本当に知らないまま終わってしまうのだろうと思う。

 こんなことを書いたのは、Buono!の「初恋サイダー」という楽曲を聴いて、久しぶりに胸が躍るような高揚感を覚えたからである。この曲は2011年12月から動画サイトの公式チャンネルで流れている。私はこれを見つけた時、ハロー!プロジェクトを知っていて良かったと思った。何年も前から活動しているグループの曲に対して「見つけた」も何もないが、鉱脈を探り当てたような気分になったのは私だけではあるまい。モーニング娘。はともかく、Berryz工房も℃-uteも世間的には知名度が高いとはいいがたい。Buono!を知っている人はもっと少ないだろう。ただ、「初恋サイダー」を聴いたファンは、Buono!を支えてきたことにーー多少大袈裟な言葉を使えばーー誇りに近い感情を抱いたのではないだろうか。

Buono!_1
 歌詞は、ずっと友達関係にある男子への「サイダーみたいに弾ける」恋心を歌ったもの。恥ずかしがり屋の男子にしびれを切らし、自分から告白する、という青春ストーリーである。「この恋だけは負けらんない」とあるので、ライバルがいる設定なのだろう。曲想は奇抜なものではなく、馴染みやすいメロディーで構成されているが、リズムの付け方が絶妙で、サビがもたらす解放感がこたえられない。アコースティックとキーボードの音色も、この楽曲に爽快感を付与する上で大きな役割を担っている。この歌詞にしてこのトラック、という理想的な組み合わせだ。何度聴いても飽きることがない。
 同じことはMUSIC VIDEOについてもいえる。ストーリー仕立てとか、豪華なセットが組まれているとか、ダンスがテクニカルとか、そういう見せ方ではなく、カメラワーク、ライティング、編集、衣装、そして3人の存在感だけで魅せる映像作品に仕上げている。アイドルのお仕事としてやっている感じが全くなく、3人が心から楽しみながら、今しか見せることのできない自分たちの表情や魅力を映像に焼きつけている姿には、感動すら覚える。

 私が初めてまともに聴いたBuono!の曲は「雑草のうた」である。正直にいうと、その時は魅力を感じなかった。興味を持つようになったのは、「ロッタラ ロッタラ」という曲を知ってからである。2008年11月に発表されたシングルで、1960年のオールディーズ風味のメロディーが印象的なナンバーだ。そこへさらにレッド・ツェッペリンを意識したキーワード(「胸いっぱいの愛を」)やサウンドを持ち込むという洒落を利かせ、センスのいいトラックに仕上げている。私はこれをCDリリースから3年近く経った頃に聴き、遅まきながら、唸らされた。

 それ以来、Buono!のアルバムやライヴDVDをチェックするようになった。ライヴ映像を観ると、楽曲の良さ、3人の声質の絶妙なバランス、歌唱力の成長具合が如実に伝わってくる。夏焼雅の歌は、調子が良い時と悪い時とで大きな差が出るが、きめの細かい声質の持ち主で、調子が良い時はなめらかな歌い口で魅了する。努力や才能ではカバーしきれない、持って生まれた声質というものを感じさせる人だ。鈴木愛理は歌もダンスも水準以上で、安心して見ていられる。音程の安定感、ダンスの見せ方の面では、ハロー!プロジェクト全体を見回しても上位にくるだろう。Buono!のリーダーである嗣永桃子は、キャラクターが立ちすぎているため、リーダーとして何もまとめていないように見えるが、個性の強い2人の間に入り、より個性の強そうな三枚目的役割を演じてツッコミを入れられながら、かすがいのような存在になっている。単に煩わしいだけでなく、2人のタレント性をもり立て、必要に応じて場を締める、ユニークなリーダーである。よくこの3人を組ませたものだと思う。

 「如実に伝わってくる」とは書いたものの、こういったソフトは、今の技術でどういう補正が加えられているのか、いまひとつ見えないところがある。実際にライヴを観てみないことには、なんともいえない。まもなく「初恋サイダー」の動画を見た私は、生で聴いてみなければという気持ちに背中を押されてコンサートチケットを購入した。

Buono!_2
 そして2012年1月29日。この目で見て、耳で聴いた限り、Buono!の実力は本物だった。ギミックは一切ない。3人のアイドルとロックバンドだけの、きわめてシンプルなステージ。シンプルだからこそ生身の実力が露呈される。3人は、バンドと対等もしくはそれ以上のエネルギーを発散して渡り合い、全力で「ロックアイドル」らしいパワフルなステージを繰り広げていた。音源で聴くと、バンドサウンドを前面に押し出しすぎ、せっかくのボーカルを圧迫しているような印象を受けたロックナンバーも、ライヴでは一向に気にならなかった。バンドの存在が彼女たちの成長に一役も二役も買っていることは間違いない。この新鮮な発見に満ちたライヴを観ている間、私はずっと毒気を抜かれたような顔をしていたのではないかと思う。

 「初恋サイダー」「ロッタラ ロッタラ」「DEEP MIND」も良かったが、こちらの期待値を最も上回ったのは、ソロコーナーで鈴木愛理が歌った「OVER THE RAINBOW」だ。私がこれまで観てきた範囲では、彼女の歌はうまいし、安定感があって、声量もあるけれど、声をストレートに出し切っている感じがして、表現が直線的すぎるという印象が拭えなかった。そのイメージはここで覆された。歌詞の世界を底から汲み取ったみずみずしい歌心に接し、私は困惑に近い感動を覚えた。その日、たまたますごく調子が良かったのか、それはわからない。とにかく楽器に合わせて歌うことが楽しくて仕方ないといわんばかりの充実感と表現意欲が、そこにみなぎっていたのだ。
 「アイドルとは思えない」「アイドルで片付けるのはもったいない」といいたいところだが、ハロー!プロジェクトのタレントには、こういう驚きを提供する人がほかにもいる。長年のファンにとっては、「アイドルとは思えない」ではなく、むしろ「これが本当のアイドル」なのかもしれない。

 去る2012年2月12日には、Buono!のコンサートがパリで行われ、現地のファンを熱狂させたという。3人のメンバーの魅力を伝えるために、ライヴレポートや写真や動画(非合法だけど)をアップしている熱いフランス人もいる。ただ、この日本で、彼女たちがパリでライヴをしていたことを知っている人は果たしてどれくらいいるのだろう。それ以前に、Buono!の楽曲を1曲でも聴いたことのある人がどれくらいいるのだろうか。
 これからどういう活動をしていくのか、どんなリリースがあるのかはわからないが、彼女たちの魅力と実力は、メジャーシーンの死角で、今を盛りと花開いている。2年前でも、1年前でもなく、今、Buono!を知ることに意味がある。「初恋サイダー」のMVで画面狭しと弾けている3人を見ていると、そう思わずにはいられない。
(阿部十三)


【関連サイト】
Buono!
初恋サイダー(動画)
Buono!(CD、DVD)

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