文化 CULTURE

BBC Radio 6 Music クオリティにこだわり続ける音楽発信源

2012.02.25
 ラジオで耳にした曲に恋して、それをカセットに録音して何度も聴いて覚えて、お金を貯めてその曲が入ったアルバムを買いにゆくーー。そんなことを繰り返していたのは今から30年近く前のことだが、ここにきて再び、同じようなことをしている自分に気付いた。全てはBBC Radio 6 Musicのせいだ。2012年3月に誕生10周年を迎えるこの世界一素敵なラジオ局の存在を筆者が知り、かつ日本でもネット経由で聴けることを知ったのは5年ほど前だったろうか。以来ほとんど毎日欠かさず聴いて、音楽情報源かつエンターテイメント源として頼り切っている。何しろ24時間放送で、国営だからCMがないってことも素晴らしいし、どの番組も放映後1週間はいつでも聴き直せるから、時差なんかあってないようなもの。そして何がすごいって、BBCならではの情報網を駆使した最新ニュースはもちろん、そりゃやっぱり選曲である。

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 一例として、2月のある日の、現地時間朝7時から始まる番組のプレイリストに並んでいたのは、フローレンス・アンド・ザ・マシーン、アダム・アント、テンプテーションズ、アークティック・モンキーズ、テレヴィジョン、ザ・キンクス、LCDサウンドシステム......。つまり、なんとこれが朝ごはんのBGMなのである。ほぼ3時間刻みで組まれているプログラムの核を成すのは最新のオルタナティヴ・ロックなのだが、このように、ほかにも60年代以降のロック全般、ソウル、レゲエ、ヒップホップ、エレクトロニカなどなど、あらゆるタイプの〈おもしろい〉音楽をプレイ。トクマルシューゴやブンブンサテライツなど日本のアーティストの曲がいきなり聴こえてきてビックリさせられたこともある。でもって、BBCが誇る40年分のアーカイヴからの貴重な音源も時折織り交ぜてくれるし、ライヴ・セッションやインタヴューも聴き逃せないし、夜になるとさらにエクスペリメンタル&アンダーグラウンドな趣を強め、週末はちょっとレイドバックに脱力。当然DJ陣もフツウじゃない。音楽雑誌の元編集者やジャーナリストを兼ねている人たちに加えて、ミュージシャンも多数含まれており、例えばトム・ロビンソンやドン・レッツらパンク世代のベテランから、パルプのジャーヴィス・コッカーや元カタトニアのケリス・マシューズといったブリット・ポップ世代、エルボーのガイ・ガーヴェイ、ファン・ラヴィン・クリミナルズのヒューイ・モーガン......と、それぞれに個性的な面々がマニアックなテイストを全開。アイアン・メイデンのブルース・ディッキンソンがDJを務めるメタル専門番組なんてのも、かつては放映されていたっけ。また、あの伝説的DJ=故ジョン・ピールの息子であるトム・レイヴンズクロフトも番組を持っているのだが、若いアーティストたちを積極的に紹介して支援している6 Musicは、まさにジョンの遺志を継いでいると言えるんだろう。

 そんな出来過ぎたラジオ局だけに、さすがに他局に比べるとリスナーは決して多くはない。ゆえにBBCが大幅な経費削減を迫られた際、真っ先に槍玉に上がり、閉鎖案が浮上したのは2010年のことだ。それを知ったファンは一斉に抗議行動を起こし、Facebookなどを通じて署名を集めて、DJやミュージシャンたちと共にBBC本部前でデモを敢行するなど、大きな騒ぎに発展。レディオヘッドのメンバーやデヴィッド・ボウイもサポートの声を寄せ、逆に、音楽業界への6 Musicの貢献がクローズアップされて局の知名度を上げる結果となり、リスナーも急増。BBCは最終的に、閉鎖案撤回に追い込まれてしまうのである。そしてこうしてめでたく無事10周年を迎えて、PILからローラ・マーリングまでが出演する記念コンサートも、近々ロンドンで開催される予定だ。

 まあ実際の話、番組のクオリティから察するに制作費はバカにならないだろうし、BBCは英国民が収めるライセンス料で運営されているわけだから、タダ乗りのガイジン・リスナーとして罪悪感を覚えなくもない。それでも、今日もクリックせずにはいられない6 Music。「ハッピー・アニバーサリー!」と日本から感謝の気持ちを届けたい。
(新谷洋子)

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