文化 CULTURE

崎陽軒のシウマイ弁当について

2012.04.07
 理想のお弁当とは何か。人によってカロリーとか、マクロビオティックとか、新鮮さとか、判断基準はいろいろだろうが、おそらく多くの人が重視するのは、値段、味、量、安全性だろう。

 ある程度お金を払えば、味と量と安全性のハードルをクリアすることは難しくない。ただ、やはり限度額というものがある。私の場合、旅に出て解放的な気分になっていても、臨時収入があった直後でも、1000円を超えるお弁当を見ると頭の中で警鐘が鳴る。そういうものに手を出そうという気持ちはまず起こらない。できれば1000円以内におさえたいと考える。1000円と1100円の差なんて僅かではないか、といわれるかもしれない。しかし、こればかりは私の金銭感覚に深く根をおろしていて、どうにもならない。

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 あまり予算がかからないこと、おいしいこと、腹八分になること、そして変な食材を使っていないこと。私にとってこれらの条件を満たすお弁当のひとつが、崎陽軒のシウマイ弁当である。1954年に誕生して以来、超ロングセラー商品として愛されているこのお弁当は、1日平均約17000食を販売。値段は何度か変動し、今は750円で落ち着いている。

 さめてもおいしいシウマイが誕生したのは1928年。「シュウマイ」でなく「シウマイ」なのは初代社長のなまりのせいで、真偽のほどは分からないが、「うまい」ともかけているらしい。1950年にはシウマイの売り子「シウマイ娘」が横浜駅のホームに登場、1952年の映画『やっさもっさ』では桂木洋子扮する「シウマイ娘」が、佐田啓二扮する野球選手と恋を紡いでいる。これで知名度がアップしたことはいうまでもない。1955年にはひょうたん型の醤油入れ「ひょうちゃん」が開発され、シウマイの折箱に添えられた。この醤油入れに目と鼻をつけたのは「フクちゃん」の作者、横山隆一である。ほかにも原田治バージョン、柳原良平バージョンなどがあり、コレクターが存在するほど人気が高い。
 「シウマイ旅情」なる歌も存在する。作詞は伊藤アキラ、作曲は越部信義という豪華さ。歌詞の方も「♪旅に出るたびおもいだす〜仲良くつまんだシウマイの〜味と二人の約束を〜」となかなか乙である。

 シウマイ弁当のご飯は、シウマイ同様、さめてもおいしい。蒸気で炊き上げることで、お米の粒が立つよう工夫が施されている。おかずは9種。鮪の照り焼、かまぼこ、鶏の唐揚げ、玉子焼き、筍煮、杏、切り昆布、千切り生姜、そして横浜名物のシウマイが5つ。豚肉と干しホタテ貝柱が詰まったシウマイが美味なのはいうにおよばず、味がたっぷりしみ込んだ筍煮もまた絶品。この筍煮を1つ食べるだけでもごはんがふた口分すすむ。

 何よりもシウマイ弁当のすごいところは、何度食べても飽きがこないことである。同じメニューで、しかも味がしっかり付いているものを週に2、3回食べたら普通は食傷する。しかし、このお弁当にはそれでもなお食欲をかき立てる魅力がある。一度食べたら忘れられない鮮烈な味というのではない。むしろ逆で、けれん味のない味である。シウマイと筍の対照的な歯ごたえなど、おかずの食感のバランスも考えられている。だから口の中が飽きないし、また次も食べたくなる。どうせ老舗が惰性で作っているのだろうとか、知名度だけで売れているのだろうと思っている人もいるかもしれないが、惰性や知名度でこういうお弁当は作れない。

 幸いなことに、自宅からバスで10分くらいのところに崎陽軒の売場があるので、私が「禁断症状」に悩むことはほとんどない。いずれ工場見学にも行きたいと思っているが、応募が絶えず、常に予約で埋まっているようだ。

 ちなみに、崎陽軒にはほかにも様々なお弁当がある。中でも炒飯弁当は評判がいい。が、私はシウマイ弁当以外食べたことがない。店頭でしばし迷うことがあっても、結局シウマイ弁当を選んでしまう。この昔ながらのお弁当が、このままの質と値段で続いていく限り、私の選択が変わることもないだろう。
(阿部十三)


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