2012年のモーニング娘。をたのしむ
2012.07.07
2012年5月18日、モーニング娘。の新垣里沙と光井愛佳の卒業コンサートが日本武道館で行われた。あのタイミングで2人が一緒に卒業するという展開には驚かされたが、セレモニー自体は感動的なものだった。歌唱面でも、それまで本調子とはいい難かった田中れいなのコンディションが良かったこともあり、満足できる内容になっていた。とはいえ、グループ内で後輩たちを指導する立場にあったメンバーが抜けるのである。コンサートが良かった分、これからモーニング娘。はどうなってしまうのだろう、と不安にもなった。あれから、ちょうど50日が経つ。
せっかく魅力を知ることができたグループが様変わりすることには、誰もが複雑な感情を抱くはずである。この2年間だけでも、モーニング娘。のメンバーは大きく変わった。さらに、しばらくすると11期のメンバーが入ってくる。グループの構成はまだまだ変わりそうだ。進化するためには何らかの変化が必要だが、変化したからといって進化するとは限らない。忌憚なくいって、その激動ぶりを見ていると、変化が多すぎるのではないか、と思うこともある。
しかし、そんな不安を忘れさせる素晴らしい新曲が届けられた。タイトルは、「One・Two・Three」。50枚目のシングルにふさわしい勝負曲である。内容は、好きな人に寄せる女子の真情を歌った恋愛ソングで、つんく♂の歌詞にありがちな「なんでそうなるの」という突っ込みどころは比較的少ない。メロディー自体はドラマティックな性格のものではないが、リズムの作り方が非常に巧みで、歌メロの抑揚感をめいっぱい引き立てている。
冒頭に現れるフレーズを、一種のオスティナートとみなすことも可能である。まずはじめに2回繰り返されるが、これを35回反復させると曲が終わる仕組みになっている。外面化されるリズムや歌メロを意識しないようにして、この音型のみを鍵盤やギターで繰り返し弾き続けるか、口ずさみ続けてみれば、いかに巧妙に作られているかがわかるだろう。全体を通して聴いた後にもたらされる圧倒的な統合感は、こういう緻密さから生まれてくるのである。
動画サイトの公式チャンネルにアップされている「Dance Shot Ver.」は、現在のモーニング娘。の魅力を知る上で恰好のMUSIC VIDEOだ。メンバーが変動して間もないのに、すでに「新しいモーニング娘。」としてサマになっていることにまず瞠目させられる。まだ「新しいモーニング娘。」を知らない人には、過剰なほど映像を作り込んだ通常のMUSIC VIDEOよりも、お薦めである。
センターを務めるのは鞘師里保。彼女のダンスからは、これまでとは比較にならないくらい、クールに燃える情熱が伝わってくる。リズムの取り方が難しいダンスであるにもかかわらず、フォームが美しく、無駄な動きがほとんどない。音楽を自分の血肉にするまで咀嚼しているのだろう。これで、まだ14歳なのである。そうやって彼女が求心力を持つことにより、ほかのメンバーの個性まちまちなダンスにも一体感が生まれる。いってみればコンサートマスターのような存在だ。
ダンス面でいえば、10期メンバーの石田亜佑美も目立っている。荒削りではあるが、いかにも踊ることが楽しくて仕方ないといった風である。大サビで前に飛び出して腕を振り上げるシーンは、「One・Two・Three」というタイトルにふさわしい勢いがあり、この「Dance Shot Ver.」のベストテイクのひとつになっている。
肝心の歌の方は、おそらくダンス以上に難易度が高いのではないだろうか。振りの細かさを考えても、本来は、そこまで踊りながら歌えるような曲ではないはずである。つんく♂は、「ライブバージョンでの完全再現はなかなか難しいかもしれませんが、今回はまず、作品を仕上げる事を一番に考えました」とことわっているが、別に完全再現する必要はないし、ライブバージョンなりの凄さや魅力を出せれば、それで良いと思う。少なくとも、「逃げ」を感じさせないようなライブを期待したいところだ。
ちなみに、50thシングルは両A面構成。もうひとつのA面曲は、「The 摩天楼ショー」というファンク色の強いナンバーである。つんく♂は、過去にも似たようなテイストの楽曲をいくつか手がけており、それだけに構成もサウンドプロダクションもこなれている。
「One・Two・Three」と同じセットで撮られた「Dance Shot Ver.」は、ステージ映えしそうな振り付けと、ユニークなフォーメーションで、観る者を飽きさせない。この映像では、道重さゆみの存在感に華があり、首や腕の動きなど、ちょっとした見せ方にも曲の世界観を汲んだ色気が感じられた。音楽的には、先の「One・Two・Three」ほどのインパクトはないものの、モーニング娘。の場合、こういう楽曲はコンサートで化けるので、ステージと客席でどんな化学反応を起こすのか楽しみである。
【関連サイト】
モーニング娘。OFFICIAL WEBSITE
モーニング娘。Official Channel
2012年のモーニング娘。をたのしむ [続き]
せっかく魅力を知ることができたグループが様変わりすることには、誰もが複雑な感情を抱くはずである。この2年間だけでも、モーニング娘。のメンバーは大きく変わった。さらに、しばらくすると11期のメンバーが入ってくる。グループの構成はまだまだ変わりそうだ。進化するためには何らかの変化が必要だが、変化したからといって進化するとは限らない。忌憚なくいって、その激動ぶりを見ていると、変化が多すぎるのではないか、と思うこともある。
しかし、そんな不安を忘れさせる素晴らしい新曲が届けられた。タイトルは、「One・Two・Three」。50枚目のシングルにふさわしい勝負曲である。内容は、好きな人に寄せる女子の真情を歌った恋愛ソングで、つんく♂の歌詞にありがちな「なんでそうなるの」という突っ込みどころは比較的少ない。メロディー自体はドラマティックな性格のものではないが、リズムの作り方が非常に巧みで、歌メロの抑揚感をめいっぱい引き立てている。
冒頭に現れるフレーズを、一種のオスティナートとみなすことも可能である。まずはじめに2回繰り返されるが、これを35回反復させると曲が終わる仕組みになっている。外面化されるリズムや歌メロを意識しないようにして、この音型のみを鍵盤やギターで繰り返し弾き続けるか、口ずさみ続けてみれば、いかに巧妙に作られているかがわかるだろう。全体を通して聴いた後にもたらされる圧倒的な統合感は、こういう緻密さから生まれてくるのである。
動画サイトの公式チャンネルにアップされている「Dance Shot Ver.」は、現在のモーニング娘。の魅力を知る上で恰好のMUSIC VIDEOだ。メンバーが変動して間もないのに、すでに「新しいモーニング娘。」としてサマになっていることにまず瞠目させられる。まだ「新しいモーニング娘。」を知らない人には、過剰なほど映像を作り込んだ通常のMUSIC VIDEOよりも、お薦めである。
センターを務めるのは鞘師里保。彼女のダンスからは、これまでとは比較にならないくらい、クールに燃える情熱が伝わってくる。リズムの取り方が難しいダンスであるにもかかわらず、フォームが美しく、無駄な動きがほとんどない。音楽を自分の血肉にするまで咀嚼しているのだろう。これで、まだ14歳なのである。そうやって彼女が求心力を持つことにより、ほかのメンバーの個性まちまちなダンスにも一体感が生まれる。いってみればコンサートマスターのような存在だ。
ダンス面でいえば、10期メンバーの石田亜佑美も目立っている。荒削りではあるが、いかにも踊ることが楽しくて仕方ないといった風である。大サビで前に飛び出して腕を振り上げるシーンは、「One・Two・Three」というタイトルにふさわしい勢いがあり、この「Dance Shot Ver.」のベストテイクのひとつになっている。
肝心の歌の方は、おそらくダンス以上に難易度が高いのではないだろうか。振りの細かさを考えても、本来は、そこまで踊りながら歌えるような曲ではないはずである。つんく♂は、「ライブバージョンでの完全再現はなかなか難しいかもしれませんが、今回はまず、作品を仕上げる事を一番に考えました」とことわっているが、別に完全再現する必要はないし、ライブバージョンなりの凄さや魅力を出せれば、それで良いと思う。少なくとも、「逃げ」を感じさせないようなライブを期待したいところだ。
ちなみに、50thシングルは両A面構成。もうひとつのA面曲は、「The 摩天楼ショー」というファンク色の強いナンバーである。つんく♂は、過去にも似たようなテイストの楽曲をいくつか手がけており、それだけに構成もサウンドプロダクションもこなれている。
「One・Two・Three」と同じセットで撮られた「Dance Shot Ver.」は、ステージ映えしそうな振り付けと、ユニークなフォーメーションで、観る者を飽きさせない。この映像では、道重さゆみの存在感に華があり、首や腕の動きなど、ちょっとした見せ方にも曲の世界観を汲んだ色気が感じられた。音楽的には、先の「One・Two・Three」ほどのインパクトはないものの、モーニング娘。の場合、こういう楽曲はコンサートで化けるので、ステージと客席でどんな化学反応を起こすのか楽しみである。
続く
(阿部十三)
【関連サイト】
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