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ピストル! イーストウッド! レオーネ! 前篇

2011.03.12
 映画を観た後に、あなたの胸を一杯にしているものは何でしょうか? 綿密に練られていたストーリー? 女優さんの眩いばかりの美貌? ド迫力のVFX? ロマンチックなラブシーン? 綺麗な音楽や風景? えっ、劇中に登場した銃器類ですって! ユニークなご趣味をお持ちのようで。でも、そういう方もいらっしゃるのでしょうね。銃の所持が厳しく規制されている日本ですけど、どういうわけか銃器専門誌が出版されていますし、普通に町の小さな本屋さんにも並んでいますから。好きな方は結構いるのでしょう。ちょっと試しにインターネットで検索してみましょうか。ええと〈ターミネーター ピストル〉で検索してみたらどうなのかな。おっ、すごい! 研究熱心な方が、たくさんいるんだなあ......

 他人事のように原稿を書こうと試みたのだが、我ながらわざとらしいことこの上ない。だから正直に告白しよう。僕は映画に鉄砲が登場すると、非常にワクワクしてしまう人間だ。いや、この言い方もまだ歯切れが悪い。世の中には映画に出てきた銃器に心奪われるだけでは済まず、同じものを手に入れるために情熱を注いでしまう人がいる。僕がまさしくそれだ。ふう、スッキリした。おっと、これを読んだお巡りさんが〈映画に出てきたのと同じものを入手→実銃所持→悪いやつ→逮捕〉と考えて、僕の家に踏み込んで来ると困るので、念のために最初に断っておくが、持っているのは全てプラスチック製のモデルガンだ。わざわざ捕まえるのはやめてね。まあとにかく、いろいろ持っている。いや、いろいろは持っていないのか。何故なら一つの明確なテーマの下で集めてきたのだから。そのテーマとは〈クリント・イーストウッド〉。

 クリント・イーストウッドの俳優としてのキャリアと鉄砲の縁は非常に深い。成功への第一歩となったTVシリーズ『ローハイド』、無数の西部劇、『ダーティハリー』などのアクション映画......鉄砲が出てくる出演作は挙げればキリがない。そんな中でも、僕の心を長年にわたって奪ってきたのが、セルジオ・レオーネ監督によるマカロニ・ウエスタン『荒野の用心棒』『夕陽のガンマン』『続・夕陽のガンマン』で使用している鉄砲だ。『荒野の用心棒』『夕陽のガンマン』で使用しているのはコルト・シングル・アクション・アーミーの銃身が5.5インチのモデル。コルト・シングル・アクション・アーミーはごくありふれた鉄砲であり、特筆すべき点は何もないのだが、イーストウッドのものに関して衝撃的なのはグリップ部分だ。木製のグリップになんと金属製のガラガラ蛇が埋め込まれている。このグリップは、イーストウッドのマカロニ・ウエスタン3作の全てで使用されている。『続・夕陽のガンマン』は、鉄砲自体もすごい。本来パーカッション式リヴォルバーであるコルト51NAVYをカートリッジ式に改造したコンヴァージョン・モデルなのだ。何を言っているのか分からない正常な人が大半だと思うが、〈大胆な改造が施された特別モデル〉として大雑把に捉えてもらえば、まあそれで間違いない。劇中でこの鉄砲をイーストウッドが分解掃除しているシーンが出てくるのだが、あのカッコ良さと言ったら! 殺し屋が近づいてくるのを察知したイーストウッドが素早く鉄砲を組み立てて弾を込め、連続発砲する様は何度観ても痺れる。

 これらの作品を僕が初めてTVの洋画劇場で観たのは小学生の時、30年近く前のことだ。「イーストウッドと同じものが欲しい!」と思ったわけだが、何でもホイホイ買える程お金持ちの家庭に育っているわけではないという事情を抜きにしても、このグリップの入手が容易ではなさそうであるという現実は、子供の僕もすぐに悟った。ガラガラ蛇が埋め込まれたグリップなんていうアブノーマルなデザイン且つ加工が面倒くさそうなものは、市販されているはずもなかったのだ。『続・夕陽のガンマン』に出てくる51NAVYはコンヴァージョン仕様のものどころか、無改造のモデルガンすらも売られていなかった。諦めた僕は、小学生がお小遣いを必死で貯めれば何とか手が届く1000円くらいのコルト・シングル・アクション・アーミーのプラモデルを購入し、映画の記憶を掘り起こし ながらガラガラ蛇風の物体をアルミホイルで不器用に製作してグリップに貼り付けてみた。それはそれで楽しかったのだが、「いつかリアルなのが欲しいなあ」という気持ちは、年齢を重ねる内に鉄砲以外の関心も人並みに増えていった僕の心の奥で、ずっと燻ぶり続けていた。
(田中大)


【関連サイト】
FISTFUL-OF-LEONE.COM
セルジオ・レオーネ生誕80周年記念 夕陽コレクターズBOX

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