文化 CULTURE

モーニング娘。という変奏曲 [続き]

2012.12.15
 楽曲のことに関しては、なんだかんだいっても、つんく♂の裁量がユニークな磁場を生んでいる。少なくともモーニング娘。に対する総合的な印象として、そのように見える。ただ、それ以外のことでは、彼のコメントやジャッジにハラハラさせられることが少なくない。プロデューサーの中には、ミスジャッジをしたりトラブルを招いたりしても、全て計算であるかのように思われるタイプがいる。一方、計算してやっているつもりでも、周囲から「大丈夫なのか」とか「何も考えてないんじゃないか」と思われるタイプもいる。つんく♂の場合は、後者に属するだろう。盲信を生みにくいタイプ、ともいえる。

 プロデューサーとしての彼の最大の強みは「人財」である。まだ全然表に出ていない才能、向上心、女性的魅力を持つメンバーを伯楽の目で選び、切磋琢磨させているという意味では、つんく♂は一つの上手いやり方をしている。モーニング娘。に限らずハロー!プロジェクトの新しいメンバーについては、まだ何ともいえないけど、比較的長く活動しているメンバーには、そのように感じさせる人が多い。その人たちを見ていると、選ばれたメンバーは、選ばせたメンバーでもあるのだ、とつくづく思う。

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 今後、モーニング娘。はどのように飛躍していくのか。そのキーパーソンとしてつんく♂が期待を寄せているのが、11期メンバーの小田さくらである。ツアー中にMCで時折アカペラを披露していた際は、声がとてもよく澄んでいて、音程の取り方も上手かった。少し気になったのは、ブレスの仕方くらいだ。この原稿をまとめている途中(2012年12月12日)、ラジオで初オンエアされた新曲「Help me!!」では、早速小田の歌声が部分的にフィーチャーされている。その箇所はアレンジもなかなか綺麗で、彼女の声が持つ柔軟さや広がりを活かしたものになっている(楽曲自体は、複合的なアイディアが密集した重箱のような作りで、メロディー構築型ではない。歌詞はいつにも増してビザールであり、コラージュ的である)。これが今つんく♂が欲しかった声なのだろう。目下、着実に成長している9期、10期のメンバーと、これからどのように「パート割」を分け合っていくのか、気になるところだ。

 メンバーが流動するグループである以上、「今の体制に末永く期待したい」とは書きづらい。ちょうど1年前、モーニング娘。に関する記事に「2012年は新生モーニング娘。がきちんと構築されてゆくプロセスを見たい」と書いたのも、今は昔である。振り返ると2010年には亀井絵里、ジュンジュン、リンリンが卒業し、2011年には9期と10期のメンバーが加入し、高橋愛が卒業した。2012年には新垣里沙と光井愛佳が卒業し、小田さくらが加入し、今度は田中れいなが卒業する。本音をいうと、卒業が一切絡まないコンサートを観てみたいのだが、なかなか難しそうである。
 田中れいなは元々歌唱力のあるメンバーだが、それでもこの1年半ほどで表現の引き出しが増えた。涼しい顔をして、何の構えもなく歌い出すところは以前から変わらない。ツアーで披露されたソロ曲「涙一滴」でも、歌う気配を全く感じさせずに、一瞬のブレスでクリアーに第一音を発声していた。おそらく2013年の3月から始まるコンサートツアーでも、彼女の見せ場は用意されているのだろう。そこで「モーニング娘。の田中れいな」としての最終形を見届けたい。

 モーニング娘。のコンサートを観る時、私は二階席をとることが多いが、今回のツアーでは一度だけ一階席で観た。上手の真ん中くらいの席であったが、いつも以上にステージが近くに感じられ、1曲目から光の瀑布を浴びたような状態に陥り、頭がクラクラした。一人一人の動きをチェックしようと思っていたことも忘れ、10人の女子が作り出す大きな力に掴まれて、凱歌の渦の中へひきさらわれていくような心地を味わった。これが、今のモーニング娘。なのだ。前の席で観ている人たちは、あのエネルギーの波を一体どういう風に受け止めているのだろう。私には、あの波涛を間近で受ける力はない。

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 メンバーが声を揃えて「モーニング娘。です」と自己紹介するのを聞くのが、私は好きである。その一言にメンバーのプライドを感じるからだ。卒業や加入で顔ぶれが変わっても、その一言が変わることはない。要となる「人財」がいることにより、「これがモーニング娘。なのだ」といえる説得力を保っている。まるで変奏曲のようなグループだと思う。メンバー構成が少しずつ変わっても、こうすればモーニング娘。になる、というものが事細かに明文化されていなくても、彼女たちはモーニング娘。であり続けている。斬新な〈変奏〉、大胆な〈変奏〉を聴かせながらも、その底流にはやはり〈主題〉が息づいている。

 モーニング娘。はその時その時の体制に魅力があり、突っ込みどころがある。それは今しか観ることのできないものであり、後でも観ることができる、という保証はどこにもない。今日を生きる。明日に繋ぐ。そういう美学のようなものを彼女たちは持続させている。長い活動期間の中で、このグループが得たものは多いが、失ったものも多いと思う。しかし彼女たちは一貫してステージを重んじ、存在意義を示してきた。そして今、16年目にして素晴らしいコンサートができている。メディアに出る機会も増えつつある。その生命力は、本当に驚嘆に値する。私にはモーニング娘。の未来について、「何年後にはこうなるべき」というヴィジョンを示すことは全くできないし、そんなことをしても意味がないとも思っているが、ただ、この生命の変奏曲がいつまでも続くことを願っている。
(阿部十三)


【関連サイト】
モーニング娘。OFFICIAL WEBSITE
モーニング娘。Official Channel
モーニング娘。という変奏曲

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