「そんなヒロシに騙されて」発売30周年 高田みづえのこと
2013.06.29
それまで応援していたアイドルが、何かの出来事をきっかけにこちらの予想を超えるレベルで輝きだす時、人は驚きと感動を覚えると共に、ある種戸惑いにも似た感覚に陥り、自分だけがこのアイドルの真の魅力を一番分かっているのだ、というひそかな思い込みが終息するのを感じとる。「カックラキン大放送!!」で高田みづえが「そんなヒロシに騙されて」を歌った時、私は人生で初めてそういう感情を味わった。白っぽい衣装でリズムに合わせてステップを踏みながら水を得た魚の如く歌う彼女は、私にはあまりに眩しくて、メロディーラインの美しさにも刺激され、妙にハラハラさせられた。こんな高田みづえは見たことがない、と焦燥感の混じった不思議な興奮に身を浸しながらテレビに釘付けになっていた。
「そんなヒロシに騙されて」のEPにはちょっとした譜面が付いていたので、実際に父親にギターで弾いてもらいながら、コードのことを教わった。桑田佳祐の歌詞にある「エイト・ビート」、「メランコリー」、「ジュークボックス」などの意味をきいたり、歌詞について「どうしてこういう話の流れになるのか」と質問して家族を困らせたのも今は昔、30年前の話である。子供なりにそこまで楽曲のことを徹底して知りたい、と躍起になったのは、突然眩しく感じられた「カックラキンのお姉さん」に置き去りにされたくないという気持ちがどこかにあったからかもしれない。
高田みづえの代表曲は「硝子坂」、「私はピアノ」、「そんなヒロシに騙されて」。周知の通り、全てカバーである。リリースされたのは、「硝子坂」が1977年、「私はピアノ」が1980年、「そんなヒロシに騙されて」が1983年。つまり3年間隔でヒットを生んだ形になる。歌手としての実力を考えると、もっとヒット曲に恵まれてほしかったと思わずにいられない。
改めて彼女のディスコグラフィーを見直すと、卓越した歌唱力を活かした楽曲が目立つ。あのフランク・ミルズの「愛のオルゴール」に歌詞を付けた「潮騒のメロディー」や、しっとりしたメロディーと切ない歌詞が胸にしみる「秋冬」も、然りである。『高校聖夫婦』の主題歌にもなった「純愛さがし」は愛の真理に正面から切り込んだ名曲。高田みづえは細かく表現を変えることで深い歌詞のニュアンスを伝えようとしている。逆に、さだまさし作詞作曲の「カーテン・コール」なんかは余計な表現をきれいさっぱり削ぎ落とした歌唱で、そのシンプルさがかえって涙腺を刺激する。
そういったレコード群の中で「そんなヒロシに騙されて」は比較的リラックスした空気が漂い、ある程度余裕を保ちながら、楽しんで歌っているように聞こえる。演奏面ではいわゆる「テケテケ」がアクセントになっていて、夏のムードを醸している。間奏等での弦の撥ね方もどこか三味線っぽくて小粋で良い。コーラスも格別に美しい。声質的にも彼女にぴったり合っているように感じられる。
高田みづえのことは「アイドル」と呼ぶより純粋に「歌手」と呼ぶべきではないか、という意見もあると思う。どちらにしても、当時の私にはヒットチャートのTOPにいるアイドルたちよりホットな存在だった。好きなアイドルに対して幸せになってほしい、と願った最初の明確な対象も、高田みづえである。彼女が婚約した相手はこれまた私の「アイドル」だった若嶋津で、そのニュースを知った時は喜ぶべきなのか、悲しむべきなのか、なんともいえない気分に陥った。ありがちなドラマや漫画の設定でいえば、大好きな姉が、自分が尊敬している近所のお兄さんと結婚してしまう状況に直面したようなものだ。結局は祝福することに決めたわけだが、あれは小学生の私にとってなかなかの精神的試練だった、と今にして思う。
【関連サイト】
高田みづえ(CD)
「そんなヒロシに騙されて」のEPにはちょっとした譜面が付いていたので、実際に父親にギターで弾いてもらいながら、コードのことを教わった。桑田佳祐の歌詞にある「エイト・ビート」、「メランコリー」、「ジュークボックス」などの意味をきいたり、歌詞について「どうしてこういう話の流れになるのか」と質問して家族を困らせたのも今は昔、30年前の話である。子供なりにそこまで楽曲のことを徹底して知りたい、と躍起になったのは、突然眩しく感じられた「カックラキンのお姉さん」に置き去りにされたくないという気持ちがどこかにあったからかもしれない。
高田みづえの代表曲は「硝子坂」、「私はピアノ」、「そんなヒロシに騙されて」。周知の通り、全てカバーである。リリースされたのは、「硝子坂」が1977年、「私はピアノ」が1980年、「そんなヒロシに騙されて」が1983年。つまり3年間隔でヒットを生んだ形になる。歌手としての実力を考えると、もっとヒット曲に恵まれてほしかったと思わずにいられない。
改めて彼女のディスコグラフィーを見直すと、卓越した歌唱力を活かした楽曲が目立つ。あのフランク・ミルズの「愛のオルゴール」に歌詞を付けた「潮騒のメロディー」や、しっとりしたメロディーと切ない歌詞が胸にしみる「秋冬」も、然りである。『高校聖夫婦』の主題歌にもなった「純愛さがし」は愛の真理に正面から切り込んだ名曲。高田みづえは細かく表現を変えることで深い歌詞のニュアンスを伝えようとしている。逆に、さだまさし作詞作曲の「カーテン・コール」なんかは余計な表現をきれいさっぱり削ぎ落とした歌唱で、そのシンプルさがかえって涙腺を刺激する。
そういったレコード群の中で「そんなヒロシに騙されて」は比較的リラックスした空気が漂い、ある程度余裕を保ちながら、楽しんで歌っているように聞こえる。演奏面ではいわゆる「テケテケ」がアクセントになっていて、夏のムードを醸している。間奏等での弦の撥ね方もどこか三味線っぽくて小粋で良い。コーラスも格別に美しい。声質的にも彼女にぴったり合っているように感じられる。
高田みづえのことは「アイドル」と呼ぶより純粋に「歌手」と呼ぶべきではないか、という意見もあると思う。どちらにしても、当時の私にはヒットチャートのTOPにいるアイドルたちよりホットな存在だった。好きなアイドルに対して幸せになってほしい、と願った最初の明確な対象も、高田みづえである。彼女が婚約した相手はこれまた私の「アイドル」だった若嶋津で、そのニュースを知った時は喜ぶべきなのか、悲しむべきなのか、なんともいえない気分に陥った。ありがちなドラマや漫画の設定でいえば、大好きな姉が、自分が尊敬している近所のお兄さんと結婚してしまう状況に直面したようなものだ。結局は祝福することに決めたわけだが、あれは小学生の私にとってなかなかの精神的試練だった、と今にして思う。
(阿部十三)
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