文化 CULTURE

革ジャン考 汝は何故それに袖を通す?

2014.01.18
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 いよいよ冬真っ盛り。都心でも霜柱が出来る季節となった。そんな中、革ジャンを着て現れたあなたの知り合いに「暖かそうですね」と無邪気に声をかけたらどうなるのか? 彼(あるいは彼女)は、きっと寂しげに微笑んで空を見上げるだろう。何も言わずに洟をすすりながら......。

 意外と知らない人が多いので言っておくが、革ジャンは全く防寒性の高い衣服ではない。先日、あるバンドマンとお互いの着ている革ジャンを「いかす!」「渋い!」「いい味が出てる!」などとベタベタ褒め合ったのだが、その直後に一瞬の沈黙が訪れた。そして、2人が同時にふと呟いたのが、「でも......革ジャンって寒いよね」という言葉であった。そうなのだ。革ジャンはちっとも暖かくない。見た目が重厚なのでなんとなく防御力が高そうに見えるが、革ジャンが効力を発揮するのはせいぜい「防風」についてのみだ。着用者の体温は面白いくらいに外へジャンジャン逃げていく。裏地がウールなどになっていても、そんなのは所詮無駄な抵抗なのだ。試しに真冬の野外で誰かの革ジャンの表面を触ってみて欲しい。まるで金属のようにヒンヤリとしていて、すぐに手を引っ込めたくなるだろう。そんなものを纏っていても身体が温まらないのは当然だ。しかし......それでも一定の人気を保ち続けている革ジャンとは何なのか? 先程から悪口を散々書いているものの、実は革ジャン愛好家である僕なりに検証してみた。

 こき下ろしてばかりいるのもフェアではないので、まずは革ジャンの良いところも挙げるとしよう。

■カッコいい:革ジャンは何だかんだ言って、やはりカッコいい。例えばロックファンにとって、革ジャンの魔力は圧倒的だ。彼らの頭の中にはお気に入りのナンバーと共に、革ジャンを着ていた様々なロックスター達の姿が鮮烈に刻まれている。革ジャンは究極のロックアイテムの1つだと言っても過言ではない。

■味が出る:革ジャンは長年愛用すればするほど、持ち主の身体の輪郭に馴染む。擦れや褪色も味となる。どんどん自分だけの一着となっていく喜びを味わうことが出来るのだ。

■.........もう何も浮かばない。

 なんと言うことだ! ちっともいいところが思い浮かばない。では、反対に弱点を挙げてみよう。

■防寒性が低い:この致命的な欠点に関しては、先程述べた通りだ。

■重い:革ジャンは重い。1日中着て歩くと全身がガチガチに凝ってしまう。脱いだ瞬間に訪れる身体が一気に軽くなったようなあの感覚は、剣道の防具を外した時のものに似ている。

■動きにくい:買ったばかりの革ジャンにこの傾向は特に顕著だ。手を挙げたり、屈んで何かを拾い上げたり、身体を捻ったりしようとすると、革ジャンは持ち主に対して抵抗を示す。新品の馬革性だったりすると、ある程度言うことを聞いてくれる衣服になるために3、4年はかかることを覚悟した方がいい。あれは一種の修行だ。新品の革ジャンは誇張でも何でもなく、脱いで床に置くと、まるでオードリーの春日俊彰のように堂々と胸を張って立ち続ける。

■手入れが面倒:革ジャンは手入れを怠るとカビたりヒビ割れたりする。だからこまめにブラシをかけて塵埃を落としたり、布で乾拭きをしたり、時折オイルを塗って保湿をすることが欠かせない。しかし、きちんと手入れをしたからといって油断は出来ない。クローゼットの奥にしまい込んだままでいるなんて危険過ぎる。梅雨や夏場は、頻繁に取り出して陰干しをした方がいい。ちょっとでも目を離すと見事なカビの温床となる。

■嵩張る:ナイロンや布製の衣服と異なり、革ジャンをコンパクトに折り畳むのは容易ではない。暑いからといって脱いで鞄の中などに入れるのは難しいし、小脇に抱えても重いので非常に厄介だ。折り畳んで箪笥の中に仕舞うのも絶対にやめた方が良い。奇妙な皺がついて、取り返しのつかない型崩れを起こす。

■高い:靴や鞄などもそうだが、革製品は概して他の素材のものより値段が高い。革ジャンも例外ではない。正直言って5、6万円の革ジャンなどは比較的リーズナブルなものに属する。10万円越えでまあまあ平均的。20万、30万円する革ジャンなども決して珍しくない。某ブランドの金具が純銀製のものは100万円くらい。恐ろしい!

■蒸れる:革は汗を外へ逃がしてくれない。したがって革ジャンには空気孔がさりげなく付いていることが多い。脇の下の部分に真鍮などの金具で縁取られた孔があったりする。革ジャンを着て気取ったポーズをキメたとしても、絶えずあの孔から汗の蒸気が黙々と外へ排出されていると思うと、非常に滑稽な気もする。

■くさい:革は天然素材なので、やはり独得な匂いがある。それを革製品ならではの味わいだとポジティブに捉えることも勿論出来るが、あの匂いが好きではないという人も結構いる。「あなた、くさい!」と傍にいた女性に言われた経験のある革ジャン愛好家は決して少なくないはずだ。「くさい」が容易に「モテない」というデメリットに転じる危険性は覚悟しておいた方がいい。そして、革ならではの匂いとは別に、単なる手入れ不足よって本当の意味での「くさい!」になることも大いにあり得るので注意が必要だ。

 ざっとデメリットを挙げるつもりだったのだが、どんどん思い浮かぶ。切ない......。まだまだ挙げられそうだが、さすがに酷過ぎるのでこれくらいにしておこう。我ながらどういうわけで革ジャンを愛用しているのか分からなくなってきた。

 つまり、まるっきりデメリットだらけ、非実用性まみれの衣服が革ジャンということなのか? そう言えば......革ジャンについて話し合った先述のバンドマンと、「革ジャンを着るのにベストなシーズンは?」ということに関しても意見を交わしたのだが、出た結論は「夏!」という流石に頭を抱える外ないものであった。真冬に着るには寒過ぎる。かといって秋や春は、夜ならばまあまあ良いが、日中に直射日光を浴びると暑くて蒸れる。これらの点を考慮すると、「夏場にバイクを運転する際に着用するのが一番快適なのでは?」という結論に我々は至った。革ジャンは転倒などをした際に身体を防御してくれるし、バイク乗りに限定するならばそこそこ優秀な衣服なのかもしれない。

 ふと我に返ったのだが......僕はバイクの免許を持っていない。今のところ真夏に革ジャンを着てバイクをかっ飛ばすなどというワイルドな瞬間が訪れる可能性は皆無だ。つまり、陸サーファーが使いもしないサーフボードを抱え、生っ白い肌をしながら街をウロチョロするようなことを僕はしているというわけなのか? 意味が全く分からない!
 しかし、それでもやっぱり着たくなる革ジャン。つくづく魔物としか言いようがない。そして、昨年の10月に注文した革ジャンが3月に届くのを大人しく指折り数えて待っている僕は、やはり何かが狂っているのだろう。
(田中大)

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