モーニング娘。'16 結成20年を迎える前に
2016.12.24
2016年のモーニング娘。'16は、例年に比べてシングルのリリースが少なく、オリジナル・アルバムも出さなかったが、その一方で、コンサートの内容が驚くほど魅力的だったり、新メンバーが発表されたりと、結成20年を迎える前にポジティヴな変化を感じさせる出来事がいくつかあった。それらのことについて、まとめて書いておきたいと思う。
2016年11月23日に発売された62枚目のシングルは「セクシーキャットの演説/ムキダシで向き合って/そうじゃない」である。ここのところ続いているトリプルA面だ。私はいまだにこの形式に慣れないが、今回のシングルに関しては、3曲それぞれをメインとして聴いてほしいという気持ちをくみ取ることができた。
「セクシーキャットの演説」は久々にクセのあるつんく♂ならではの楽想が炸裂した作品である。サックスの音色を使って夜の雰囲気を出すアレンジも粋だし、奇抜な構成ながら、最後にクライマックスを持ってきて盛り上げるところもうまい。「ムキダシで向き合って」は星部ショウとJean Luc Ponponの作。イントロで提示されるモチーフを巧みに循環させて統制感のあるEDMに仕上げている。各メンバーの歌割のバランスも良い。間奏とタイトルセンスは微妙だが、それも計算のうちなのだろう。牧野真莉愛をフィーチャーした「そうじゃない」は歌メロが覚えやすく、さくっと聴ける正統派っぽい曲調だが、アレンジもリズムの音色も凝っていて、コンサートでは映える。
CDでこれらの楽曲を聴くと、譜久村聖と小田さくらの安定した歌唱力がグループの支柱になっていることが分かるし、それと共に、佐藤優樹と工藤遥の個性的な声が歌の色合いを決定づけていることを改めて認識させられる。クセが強いという人もいるかもしれないけど、いざ無くなったら物足りなくなる色である。何にしてもハロプロの歌の質感には全般的に生っぽさがあり、メンバー間の声のバランスを活かしながら、「誰が歌っているのか分かる」というラインをきちんと固守しているところが私には合っている。角を取っ払って平べったくした最早覆面状態に等しいユニゾンを聴かせるようなミックスは施されていない。
2016年9月からスタートした「コンサートツアー秋〜MY VISION〜」は、ソロとシャッフルのコーナーが充実していたのがポイントで、9期、10期、11期の各メンバーが過去の楽曲を歌い、実力や個性を存分に発揮していた。次代を担う12期メンバーも「青春コレクション」「I'm Lucky girl」「ゼロから始まる青春」といった曲で登場、歌とダンスで進歩したところを見せていた。結果的に「MY VISION」ツアーは、メンバーの個としての魅力、メンバー間の結束と連携、進化するグループのビジョンの打ち出し全てに成功したと言えるのではないか。
私が観たのはパシフィコ横浜(11月3日昼夜)と日本武道館(12月12日)のコンサートである。3公演とも見所が多かったが、とくに武道館公演はこの1年のまとめと呼ぶにふさわしい内容であった。ソロとシャッフルのコーナーから、全員が集まって総力全開のダンスを繰り広げ、「Only you」から「What is LOVE?」まで圧倒的な光彩と熱気を放ちまくり、本編ラストを「Be Alive」で締めるという流れも、極上のドラマのようだった。その進化は、確かなものである。彼女たちが持つ大きなエネルギーは満員の武道館をかつて感じたことがないほど狭い空間にしていた。それを踏まえて、MCで佐藤優樹が口にした「ドーム」という言葉を聞くと、決して言い過ぎではないとも思うのである。
2015年末の鞘師里保の卒業から1年も経たないうちに、メンバーたちはまた「新しいモーニング娘。」を作り上げた。葛藤、奮起、研鑽、克服、開花のプロセスが常に繰り返されている証である。ボーカル面も変わった。まだ課題はいくつもあるだろうが、つい半年前と比べても、良い方向に変わっていることは確言できる。例えばダンスやラップで目立っていた石田亜佑美は、この半年で歌に力を入れてきた成果を示していたし、スキル面でどうこう言われることの少ない飯窪春菜も着実に歌唱力をのばしていた。これはコンサートを観てきた上での実感だ。
主軸となるメンバーが複数いる中、しばしば話題になるのが佐藤優樹のパフォーマンスである。彼女の歌声はエモーショナルだが、「ムキダシで向き合って」の間奏あけのパートのように、アンニュイな雰囲気を帯びたトーンにも魅力がある。ダンスの方は攻めのモードになると動きが大きくなり、なおかつ切れ味も出てきて、華やかになる。あと、細かい指摘になるが、広い会場でやるとき目線を上方に向けることが結構多く、遠くの客席にまで意識を向けているのも美点だ。
13期メンバーに選ばれたのは横山玲奈と加賀楓。どちらもハロプロ研修生出身である。この2人はキャラクターもキャリアも対照的で、面白い組み合わせだと思う。「研修生がデビューする」という物語性は内向きのものかもしれないが、これもハロプロが仕掛けてきたドラマの一つだ。ただ、彼女たちが選ばれた理由について、表向きのコメントもメッセージもないので(以前のつんく♂のような形で矢面に立つ人間がいない)、その辺のことはこちらで推測し、2人が加わった2017年のモーニング娘。'17のステージで答えを確認するほかない。
グループのリーダーは譜久村聖だ。彼女は後輩をびしびし叱るタイプでも、自分についてこいというタイプでもなさそうである。それでいてステージ上では一番頼もしいと言いたくなるような存在感を漂わせている。にもかかわらず、この9代目リーダーの特異性について、平たく言えば、「リーダーとしてはどうなのか」ということについて、語られる機会は稀だ。何しろ情報が限られている。モーニング娘。は初期から明確にリーダー像を外に向けて打ち出してきた珍しいグループだし、その存在にもっと焦点を当てる企画があってもいいと思う。
これまでモーニング娘。は数多のピンチを乗り越えてきた。何かが起こっても、メンバーは歴史の前例にヒントを求めながら自分なりのやり方で解決することができる。そして何度でも一から始めて、十までクリアしてみせるのだ。このグループの底力は本当に得体が知れない。2017年もそういう本質は変わらないだろう。コンサートの方は、新年(ハロコン)から熱気を帯びたものになるに違いない。個人的には、譜久村がリーダーになってからの「新生モーニング娘。」のアルバムも心待ちにしている。かつてグループ名を「モーニング娘。'14」に改名した際、楽曲やメンバーが属する年代を分かりやすくするため、という意図があったはずだし、もうそろそろと思うのは私だけではあるまい。モーニング娘。の「アルバム」は単にCDのフォーマットを示すものではなく、その時々に在籍していたメンバーたちの歌やグループの方向性を記録し、伝える役割も担っている。結成20年の山場に、一つの集大成と言えるオリジナル・アルバムが誕生することを期待したい。
【関連サイト】
OFFICIAL WEBSITE
モーニング娘。'16 「セクシーキャットの演説」(Official)
ハロ!ステ(Hello! Project Station)
2016年11月23日に発売された62枚目のシングルは「セクシーキャットの演説/ムキダシで向き合って/そうじゃない」である。ここのところ続いているトリプルA面だ。私はいまだにこの形式に慣れないが、今回のシングルに関しては、3曲それぞれをメインとして聴いてほしいという気持ちをくみ取ることができた。
「セクシーキャットの演説」は久々にクセのあるつんく♂ならではの楽想が炸裂した作品である。サックスの音色を使って夜の雰囲気を出すアレンジも粋だし、奇抜な構成ながら、最後にクライマックスを持ってきて盛り上げるところもうまい。「ムキダシで向き合って」は星部ショウとJean Luc Ponponの作。イントロで提示されるモチーフを巧みに循環させて統制感のあるEDMに仕上げている。各メンバーの歌割のバランスも良い。間奏とタイトルセンスは微妙だが、それも計算のうちなのだろう。牧野真莉愛をフィーチャーした「そうじゃない」は歌メロが覚えやすく、さくっと聴ける正統派っぽい曲調だが、アレンジもリズムの音色も凝っていて、コンサートでは映える。
CDでこれらの楽曲を聴くと、譜久村聖と小田さくらの安定した歌唱力がグループの支柱になっていることが分かるし、それと共に、佐藤優樹と工藤遥の個性的な声が歌の色合いを決定づけていることを改めて認識させられる。クセが強いという人もいるかもしれないけど、いざ無くなったら物足りなくなる色である。何にしてもハロプロの歌の質感には全般的に生っぽさがあり、メンバー間の声のバランスを活かしながら、「誰が歌っているのか分かる」というラインをきちんと固守しているところが私には合っている。角を取っ払って平べったくした最早覆面状態に等しいユニゾンを聴かせるようなミックスは施されていない。
2016年9月からスタートした「コンサートツアー秋〜MY VISION〜」は、ソロとシャッフルのコーナーが充実していたのがポイントで、9期、10期、11期の各メンバーが過去の楽曲を歌い、実力や個性を存分に発揮していた。次代を担う12期メンバーも「青春コレクション」「I'm Lucky girl」「ゼロから始まる青春」といった曲で登場、歌とダンスで進歩したところを見せていた。結果的に「MY VISION」ツアーは、メンバーの個としての魅力、メンバー間の結束と連携、進化するグループのビジョンの打ち出し全てに成功したと言えるのではないか。
私が観たのはパシフィコ横浜(11月3日昼夜)と日本武道館(12月12日)のコンサートである。3公演とも見所が多かったが、とくに武道館公演はこの1年のまとめと呼ぶにふさわしい内容であった。ソロとシャッフルのコーナーから、全員が集まって総力全開のダンスを繰り広げ、「Only you」から「What is LOVE?」まで圧倒的な光彩と熱気を放ちまくり、本編ラストを「Be Alive」で締めるという流れも、極上のドラマのようだった。その進化は、確かなものである。彼女たちが持つ大きなエネルギーは満員の武道館をかつて感じたことがないほど狭い空間にしていた。それを踏まえて、MCで佐藤優樹が口にした「ドーム」という言葉を聞くと、決して言い過ぎではないとも思うのである。
2015年末の鞘師里保の卒業から1年も経たないうちに、メンバーたちはまた「新しいモーニング娘。」を作り上げた。葛藤、奮起、研鑽、克服、開花のプロセスが常に繰り返されている証である。ボーカル面も変わった。まだ課題はいくつもあるだろうが、つい半年前と比べても、良い方向に変わっていることは確言できる。例えばダンスやラップで目立っていた石田亜佑美は、この半年で歌に力を入れてきた成果を示していたし、スキル面でどうこう言われることの少ない飯窪春菜も着実に歌唱力をのばしていた。これはコンサートを観てきた上での実感だ。
主軸となるメンバーが複数いる中、しばしば話題になるのが佐藤優樹のパフォーマンスである。彼女の歌声はエモーショナルだが、「ムキダシで向き合って」の間奏あけのパートのように、アンニュイな雰囲気を帯びたトーンにも魅力がある。ダンスの方は攻めのモードになると動きが大きくなり、なおかつ切れ味も出てきて、華やかになる。あと、細かい指摘になるが、広い会場でやるとき目線を上方に向けることが結構多く、遠くの客席にまで意識を向けているのも美点だ。
13期メンバーに選ばれたのは横山玲奈と加賀楓。どちらもハロプロ研修生出身である。この2人はキャラクターもキャリアも対照的で、面白い組み合わせだと思う。「研修生がデビューする」という物語性は内向きのものかもしれないが、これもハロプロが仕掛けてきたドラマの一つだ。ただ、彼女たちが選ばれた理由について、表向きのコメントもメッセージもないので(以前のつんく♂のような形で矢面に立つ人間がいない)、その辺のことはこちらで推測し、2人が加わった2017年のモーニング娘。'17のステージで答えを確認するほかない。
グループのリーダーは譜久村聖だ。彼女は後輩をびしびし叱るタイプでも、自分についてこいというタイプでもなさそうである。それでいてステージ上では一番頼もしいと言いたくなるような存在感を漂わせている。にもかかわらず、この9代目リーダーの特異性について、平たく言えば、「リーダーとしてはどうなのか」ということについて、語られる機会は稀だ。何しろ情報が限られている。モーニング娘。は初期から明確にリーダー像を外に向けて打ち出してきた珍しいグループだし、その存在にもっと焦点を当てる企画があってもいいと思う。
これまでモーニング娘。は数多のピンチを乗り越えてきた。何かが起こっても、メンバーは歴史の前例にヒントを求めながら自分なりのやり方で解決することができる。そして何度でも一から始めて、十までクリアしてみせるのだ。このグループの底力は本当に得体が知れない。2017年もそういう本質は変わらないだろう。コンサートの方は、新年(ハロコン)から熱気を帯びたものになるに違いない。個人的には、譜久村がリーダーになってからの「新生モーニング娘。」のアルバムも心待ちにしている。かつてグループ名を「モーニング娘。'14」に改名した際、楽曲やメンバーが属する年代を分かりやすくするため、という意図があったはずだし、もうそろそろと思うのは私だけではあるまい。モーニング娘。の「アルバム」は単にCDのフォーマットを示すものではなく、その時々に在籍していたメンバーたちの歌やグループの方向性を記録し、伝える役割も担っている。結成20年の山場に、一つの集大成と言えるオリジナル・アルバムが誕生することを期待したい。
(阿部十三)
【関連サイト】
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