文化 CULTURE

モーニング娘。'17 新しい愛の軍団

2017.07.22
 モーニング娘。は1997年9月に結成され、1998年1月にメジャーデビューした。そして今は2017年7月。結成から丸20年が経とうとしている。そんな記念すべき年であることを踏まえてのことなのか、この半年余りの間にさまざまな出来事があった。コンサート、CDのリリース、演劇の舞台だけでも私には十分なのだが、そういうわけにもいかないらしい。今となっては、昨年末に解禁されたサシニング娘。の話題ですら昔のことのように思える。

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 1月にはマルコメのモーニングみそ汁のキャラクターに起用されるというニュースがあり、彼女たちのメジャーデビュー・シングル「モーニングコーヒー」が「モーニングみそ汁」にアレンジされた。それに伴い、MUSIC VIDEOも公開。キャンプ場を舞台に、メンバーの楽しげな表情をうまくとらえた映像は、カメラとライティングが絶妙で、企画物扱いするのがもったいないほどクオリティが高かった。終始、心地よい空気が流れているMVだ。

 3月8日には両A面シングルが発売。「BRAND NEW MORNING」は星部ショウとJean Luc Ponponによる作品で、新メンバーの加賀楓、横山玲奈をフィーチャーした内容。イントロはカッコいいが、どことなく「愛の軍団」から機微やユニークさを取り除き、借り物の鎧で武装したような曲である。「ジェラシー ジェラシー」の作詞作曲はつんく♂。曲調は現メンバーの声質や雰囲気に合っていて、歌詞の方も、言葉の扱いは独特だが妙に機微に通じている。大久保薫が手がけたアレンジに関しては、ギターのカッティングが効いていて、ブラスの音色を強く押し出しているわりに品良くまとまっている。

 3月18日からは「モーニング娘。'17 コンサートツアー春 〜THE INSPIRATION!〜」がスタート。現時点で振替公演(8月)を残しているため、まだ実質的には終了していないが、このままだと書くことが増え続けるので、記憶が確かなうちにツアーのことも記しておく。

 私が観たのは3公演(3月のパシフィコ横浜公演、5月と6月の武道館公演)である。初日には、昨年末からヘルニアで休んでいた佐藤優樹が復帰。2017年になり初めてメンバー全員が揃ったわけだが、彼女たちはそんな感慨に浸る時間をこちらに与えない。序盤のメドレーでは、2つの楽曲を同時進行でパフォーマンスし、奇襲を仕掛けてきた。この試みはリスクを伴う分、メンバーのスキルを向上させる効果があったようで、2ヶ月後の公演では余裕すら感じさせるレベルで披露していた。

 今回、特に感銘を受けた楽曲は、「愛の軍団」と「モーニングコーヒー」である。「愛の軍団」は繰り返し歌われ、歌い継がれるものとして、楽曲自体が成長している。リリース当時(2013年)と比較してしまう私でも、モーニング娘。'17の「愛の軍団」には特別な磁力があると思わされる。全くマンネリ化していない。6月12日にさいたまスーパーアリーナで行われた℃-ute解散コンサートのオープニングアクトでも、迫力のあるパフォーマンスを見せつけていた。今、この曲を歌う彼女たちは無敵だ。

 「モーニングコーヒー」は、「モーニングみそ汁」で練習を重ねたこともあってか、メンバーの歌声のバランスが整っていて、安定感も安心感もあり、何より大事に歌っていることが伝わってきて感動的だった。パンチのある曲調も良いが、こういう歌を聴くと、「モーニング娘。」のシンプルな原型にふれている気分になり、ホッとさせられる。

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 11期、12期、13期のメンバーによる「Please!自由の扉」(回替わり曲)にも言及すべきだろう。私が観たのは5月の武道館が初めてだったが、そのステージでは羽賀朱音が光っていた。羽賀は武道館公演に向けて、居残りのような特別レッスンを受けていたメンバーだ。しかし私見では、彼女は3月のツアー初日からすでに調子を上げていた。ダンスや表情からも、自分の魅力を外へ向けて強く出そうとしていることが伝わってきて、これまでとは随分違う印象を抱いたものである。彼女と共にレッスンを受けた尾形春水は、元々表現のセンスはあるので、あとは自発性や積極性がより表に出てくれば、大きく変わるだろう。それにしても、「女子かしまし物語」のソロパートで「いまいち魅力を出しきれない」と大観衆の前で歌わせるのは、あまりいただけない。

 13期メンバーの加賀楓は手足が長くてダンスでは見栄えがする。テンポの速い楽曲では、その特長をまだ持て余しているように見えるが、これはフォーメーションによって動けるスペースが狭くなることも影響している。そういう条件に今後如何に対応し、己の利点をアピールしていくのか気になる。横山玲奈の方は、楽曲の世界観に合わせた表現力はまだまだという感じだけど、多様なリズムに柔軟に乗り、明るい曲で笑顔いっぱいに踊るところは初々しくて好感が持てる。ボーカルに関しては、2人とも発声の仕方に変な癖がない代わりに、歌い方が子供っぽい。もっとも、私が観たのはツアー初日や武道館公演なので、常より緊張していたのかもしれない。

 ボーカルでは、昨年同様、譜久村聖と小田さくらが大役を務めている。2人とも歌唱力のあるメンバーだ。が、春のツアーでは、これまで以上にコンサートならではの勢いを重んじているように感じられた。多少安定感を犠牲にしても、今ここでしか歌えない歌を歌う姿勢である。(歌唱も含めた上での)姿勢の変化に関して、今回顕著だったのは、12期メンバーの野中美希。彼女は控えめなオールラウンドプレイヤーというイメージだったが、テレビや舞台等への出演を経て積極性に目覚めた感がある。6月の武道館公演ではMCなどでも目立っていた。MCのスキルはさておき、そろそろ12期が爪痕を残さなければ、という思いで前に出てきたのだろう。

 ダンスでは、やはり石田亜佑美に目を奪われる。彼女はラップでも歌でも重責を担っているが、それでダンスの方が疎かになっているかというと、全くそういうことはなく、以前も十分うまかったのに、今やキレの良さの点でも、一つ一つの動きの丁寧さの点でも、気迫の伝播力の点でも、曖昧さがなく、隙もない。本人が「100%今の石田亜佑美を見せたぞ!という気持ちです」と胸を張るのも納得のパフォーマンスだった。といっても、現在開催中のハロー!プロジェクトのコンサート(正確に言うと、7月16日の「HELLO!MEETING」のダンス)を観る限り、その100%を超えるのも時間の問題であるように思われる。

 石田とは異なるタイプだが、佐藤優樹もダンスで魅せる術を心得ている。かつて「Rockの定義」で鞘師里保と共にバックダンサーを務めて以来、その実力はファンには周知のものだ。6月の武道館での「Give me 愛」のダンスも、しなやかで振付の見せ方がうまく、改めて華があると思わされた。しかしながら、まだ本調子とは言えないし、元々テンションに不思議な波があるタイプなので、曲単位で印象がころころと変わる。私はその波形について、「スイッチが入る時と入らない時がある」とみていたが、どうもそうではないらしいと最近は考えるようになった。おそらく彼女の中では、グループ・パフォーマンスで自分をどう見せるかという押し引きの計算が感覚的には出来ていて、その微妙な呼吸のようなものが余人には読み取りづらいのである。12期メンバーの牧野真莉愛のダンスは、ほかのメンバーと比べると分かりやすく弾けていて、彼女が踊っている所にだけ疾風が吹いているように見えることもある。ただ、ここ最近は、豪速球を投げるだけでなく、歌詞の意味をかみしめた表現力も身につけてきているので、秋のコンサートツアーでも注目していきたい。
続く
(阿部十三)


【関連サイト】
モーニング娘。'17 新しい愛の軍団 [続き]
OFFICIAL WEBSITE
モーニング娘。'17 「BRAND NEW MORNING」(Official)
モーニング娘。'17 「ジェラシー ジェラシー」(Official)
モーニング娘。'17 「モーニングみそ汁」(Official)
ハロ!ステ(Hello! Project Station)

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