モーニング娘。'17 新しい愛の軍団 [続き]
2017.07.29
話は変わるが、2014年11月にグループを卒業し、芸能活動を休んでいた元リーダーの道重さゆみが「再生」を宣言したのは2016年11月のこと。それから4ヶ月後の今年3月、ラジオ番組に出演して本格的に再始動し、丸の内COTTON CLUBで「SAYUMINGLANDOLL〜再生〜」を開催した。SEでホルストの『惑星』が流れた後、「『コンサート』でも『ミュージカル』でも『ディナーショー』でもないパフォーマンス」がスタート。舞台と客席の距離は、こちらが戸惑うほど近い。にもかかわらず、彼女は内殿にいるかのようだった。全く違う方向性であっても楽しむつもりだったのだが、あそこまで自分磨きを徹底されると、ありがちなイメージチェンジは考えていないと宣言された気分になる。今思えば、あのステージはファンとの信頼関係を確認する場でもあったのだ。
4月には、10期メンバーの工藤遥がグループからの卒業を発表した。彼女は加入してからしばらくの間、体力がもたず、きつそうに見えたことが何度もあったが、それも今は昔。数年後にはそういうことがほとんどなくなり、2014年の舞台「LILIUM-リリウム 少女純潔歌劇-」でファルス役を熱演して以降、順調に自分のポジションを築き、女性ファンにも支持されていた。今後は女優を目指すという。
そんな工藤をメインキャストに据えた演劇女子部による舞台「ファラオの墓」の公演が6月に行われた。原作は竹宮惠子の漫画で、シリアスな内容である。舞台版は「砂漠の月編」と「太陽の神殿編」があり、スネフェル役は工藤(砂漠の月編)と石田亜佑美(太陽の神殿編)が演じた。両者の演技は期待に違わぬもので、工藤のスネフェルからは抑えようのない苛立ちと鬱屈感、石田のスネフェルからは狂気と悲しみがにじみ出ていた。
工藤が「太陽の神殿編」で演じたのはサリオキス役。スネフェルとサリオキスの演じ分けは、うまくやっていたと思う。パンフレットの対談を読むと、彼女がいかに王様を演じるか熟考していたことが分かるが、舞台上ではそんな跡を一切見せず、ごく当たり前のように漫画の主人公になっていた。その当たり前さは、一種の大胆不敵さと言い換えてもいいかもしれない。こういった演技スタイルは今後経験を積むほどに変わっていくのだろう。良い方向にステップアップして才能を開花させてほしい。
石田は「砂漠の月編」ではサライ役を務め、コミカルな演技も披露。殺気漂う高貴なスネフェルから舎弟感が板についたサライまで、柔軟に役作りができるところを見せてくれた。コミカルな役では、アリ役の牧野真莉愛、パビ役の横山玲奈も忘れがたい。適材適所の配役で、自身の魅力を活かしつつ、コメディのセンスを発揮していた。彼女たちとは対極にある、残酷で妖艶なマリタを演じた生田衣梨奈は、脇役ながらインパクトがあり、舞台後に行われた6月の武道館公演の「愛の軍団」の間奏では、照明の効果もあり、彼女の冷たい表情がマリタのそれにしか見えなかったものだ。
6月9日には、ハロー!プロジェクトのカントリー・ガールズについて、5人のメンバーのうち3人が「他のグループに移籍してメインの活動を行い、カントリー・ガールズの活動と兼任する事」が発表された。そして6月26日、各々の移籍先が公式動画で明らかにされた。モーニング娘。'17に移籍したのは、森戸知沙希である。
一部メンバーの「学業との両立」を理由にした公式ホームページ上の牽強付会な文言は、確たる指針もないままに、大きな決定がなされていることをうかがわせる。指針として何か綱領を打ち出せばよかったのに、と思う。永井荷風の小説『散柳窓夕栄』に、「世の中は三日見ぬ間の桜ではなくて、とんだ桜を散らす夜嵐だの」という台詞があるが、同じことを言いたい気分だ。夜嵐の後、私たちが通る道の様子は変わっている。とはいえ、その道を通るほかない。モーニング娘。'17のリーダー譜久村聖は、6月9日の時点でブログに「でも私達は決定を受け入れ、そのメンバーと共に前に進んでいくという道しかありません」と書いていたが、彼女は純粋にハロー!プロジェクトのファンでもあるので、これを読んだ時は、ファンの気持ちも汲んだ文章であるように感じたものだ。
7月15日からはハロー!プロジェクトのグループや研修生が出演するコンサート、通称「ハロコン」がスタート。私は翌16日の「HELLO!MEETING」を観てきた。開催期間中なので詳述は控えるが、この日の「ハロコン」は驚くほど気合いが入っていて、「いろいろあったけど、大丈夫なのだろうか」という心配は杞憂に終わった。これは、先に述べたような変革が起こり、今後どうなっていくのか分からない状況の中、メンバー各々が奮起した結果とみるべきだろう。明日ではなく今だからこそ放つことができる熱量、というものもあるのだ。おかげで、各グループとシャッフルユニットの充実したパフォーマンスを満喫することができた。讃えるべきは、あくまでもメンバーである。
森戸が加わり14人体制になったモーニング娘。'17のパフォーマンスについては、特に違和感もなく楽しむことができた。これから彼女たちは9月23日に始まる秋のツアーを経て、工藤遥が卒業するまでに現体制での完成形を目指すことになる。工藤が卒業を控えていること、そして森戸が入ったことに刺激を受けて変化するメンバーもいるにちがいない。秋のツアーは、タイトルもふるっている。何しろ、「モーニング娘。誕生20周年記念コンサートツアー2017秋〜We are MORNING MUSUME。〜」なのだ。この字面を見ただけで胸が熱くなる。
6月の武道館公演で、飯窪春菜が「目を離したらもったいないと思ってもらえるような活動をしていきたい」と言っていたが、間違いなくそのような活動をモーニング娘。はずっとしてきた。ファンが「今はちょっと自分に合わない」という理由で目を離していると、その間に、メンバーの誰かが成長して頭角をあらわし、次々と面白いことが起こるのである。彼女たちがこのグループ特有の「使命感的な何か」に目覚めていくプロセスは、劇的としか言いようがない。そうして現在に至るまで、変化と進化を繰り返し、音楽的な冒険も辞さず、新しいファンを獲得し、コンサートでは日本武道館のような会場でもソールドアウトさせ続けている。年ごとに二度とは見られぬ花を咲かせるモーニング娘。の20周年は、めでたいものでなければならない。私としては、祝祭的な雰囲気が濁されることなく、その活動がより充実し、ささやかなことでも、良い話が増えることを願う。祝福する準備は出来ている。
【関連サイト】
モーニング娘。'17 新しい愛の軍団
OFFICIAL WEBSITE
モーニング娘。'17 「BRAND NEW MORNING」(Official)
モーニング娘。'17 「ジェラシー ジェラシー」(Official)
モーニング娘。'17 「モーニングみそ汁」(Official)
ハロ!ステ(Hello! Project Station)
4月には、10期メンバーの工藤遥がグループからの卒業を発表した。彼女は加入してからしばらくの間、体力がもたず、きつそうに見えたことが何度もあったが、それも今は昔。数年後にはそういうことがほとんどなくなり、2014年の舞台「LILIUM-リリウム 少女純潔歌劇-」でファルス役を熱演して以降、順調に自分のポジションを築き、女性ファンにも支持されていた。今後は女優を目指すという。
そんな工藤をメインキャストに据えた演劇女子部による舞台「ファラオの墓」の公演が6月に行われた。原作は竹宮惠子の漫画で、シリアスな内容である。舞台版は「砂漠の月編」と「太陽の神殿編」があり、スネフェル役は工藤(砂漠の月編)と石田亜佑美(太陽の神殿編)が演じた。両者の演技は期待に違わぬもので、工藤のスネフェルからは抑えようのない苛立ちと鬱屈感、石田のスネフェルからは狂気と悲しみがにじみ出ていた。
工藤が「太陽の神殿編」で演じたのはサリオキス役。スネフェルとサリオキスの演じ分けは、うまくやっていたと思う。パンフレットの対談を読むと、彼女がいかに王様を演じるか熟考していたことが分かるが、舞台上ではそんな跡を一切見せず、ごく当たり前のように漫画の主人公になっていた。その当たり前さは、一種の大胆不敵さと言い換えてもいいかもしれない。こういった演技スタイルは今後経験を積むほどに変わっていくのだろう。良い方向にステップアップして才能を開花させてほしい。
石田は「砂漠の月編」ではサライ役を務め、コミカルな演技も披露。殺気漂う高貴なスネフェルから舎弟感が板についたサライまで、柔軟に役作りができるところを見せてくれた。コミカルな役では、アリ役の牧野真莉愛、パビ役の横山玲奈も忘れがたい。適材適所の配役で、自身の魅力を活かしつつ、コメディのセンスを発揮していた。彼女たちとは対極にある、残酷で妖艶なマリタを演じた生田衣梨奈は、脇役ながらインパクトがあり、舞台後に行われた6月の武道館公演の「愛の軍団」の間奏では、照明の効果もあり、彼女の冷たい表情がマリタのそれにしか見えなかったものだ。
6月9日には、ハロー!プロジェクトのカントリー・ガールズについて、5人のメンバーのうち3人が「他のグループに移籍してメインの活動を行い、カントリー・ガールズの活動と兼任する事」が発表された。そして6月26日、各々の移籍先が公式動画で明らかにされた。モーニング娘。'17に移籍したのは、森戸知沙希である。
一部メンバーの「学業との両立」を理由にした公式ホームページ上の牽強付会な文言は、確たる指針もないままに、大きな決定がなされていることをうかがわせる。指針として何か綱領を打ち出せばよかったのに、と思う。永井荷風の小説『散柳窓夕栄』に、「世の中は三日見ぬ間の桜ではなくて、とんだ桜を散らす夜嵐だの」という台詞があるが、同じことを言いたい気分だ。夜嵐の後、私たちが通る道の様子は変わっている。とはいえ、その道を通るほかない。モーニング娘。'17のリーダー譜久村聖は、6月9日の時点でブログに「でも私達は決定を受け入れ、そのメンバーと共に前に進んでいくという道しかありません」と書いていたが、彼女は純粋にハロー!プロジェクトのファンでもあるので、これを読んだ時は、ファンの気持ちも汲んだ文章であるように感じたものだ。
7月15日からはハロー!プロジェクトのグループや研修生が出演するコンサート、通称「ハロコン」がスタート。私は翌16日の「HELLO!MEETING」を観てきた。開催期間中なので詳述は控えるが、この日の「ハロコン」は驚くほど気合いが入っていて、「いろいろあったけど、大丈夫なのだろうか」という心配は杞憂に終わった。これは、先に述べたような変革が起こり、今後どうなっていくのか分からない状況の中、メンバー各々が奮起した結果とみるべきだろう。明日ではなく今だからこそ放つことができる熱量、というものもあるのだ。おかげで、各グループとシャッフルユニットの充実したパフォーマンスを満喫することができた。讃えるべきは、あくまでもメンバーである。
森戸が加わり14人体制になったモーニング娘。'17のパフォーマンスについては、特に違和感もなく楽しむことができた。これから彼女たちは9月23日に始まる秋のツアーを経て、工藤遥が卒業するまでに現体制での完成形を目指すことになる。工藤が卒業を控えていること、そして森戸が入ったことに刺激を受けて変化するメンバーもいるにちがいない。秋のツアーは、タイトルもふるっている。何しろ、「モーニング娘。誕生20周年記念コンサートツアー2017秋〜We are MORNING MUSUME。〜」なのだ。この字面を見ただけで胸が熱くなる。
6月の武道館公演で、飯窪春菜が「目を離したらもったいないと思ってもらえるような活動をしていきたい」と言っていたが、間違いなくそのような活動をモーニング娘。はずっとしてきた。ファンが「今はちょっと自分に合わない」という理由で目を離していると、その間に、メンバーの誰かが成長して頭角をあらわし、次々と面白いことが起こるのである。彼女たちがこのグループ特有の「使命感的な何か」に目覚めていくプロセスは、劇的としか言いようがない。そうして現在に至るまで、変化と進化を繰り返し、音楽的な冒険も辞さず、新しいファンを獲得し、コンサートでは日本武道館のような会場でもソールドアウトさせ続けている。年ごとに二度とは見られぬ花を咲かせるモーニング娘。の20周年は、めでたいものでなければならない。私としては、祝祭的な雰囲気が濁されることなく、その活動がより充実し、ささやかなことでも、良い話が増えることを願う。祝福する準備は出来ている。
(阿部十三)
【関連サイト】
モーニング娘。'17 新しい愛の軍団
OFFICIAL WEBSITE
モーニング娘。'17 「BRAND NEW MORNING」(Official)
モーニング娘。'17 「ジェラシー ジェラシー」(Official)
モーニング娘。'17 「モーニングみそ汁」(Official)
ハロ!ステ(Hello! Project Station)
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