文化 CULTURE

クラシック音楽のためのオーディオ

2020.05.21
第1部 はじめに

AMP A3
 クラシック音楽の名盤を、しっかりとしたオーディオで鳴らし、名演奏にどっぷりと浸りたい。学生時代から30年近く、その想いで試行錯誤を繰り返してきた。
 機器遍歴を書き出すと長くなるが、リサイクルショップで揃えた古くて安いスピーカーやアンプから始まり、モニターオーディオのRS5とパナソニックのXR55との組み合わせや、JBLの4312Aと重量級真空管アンプとの組み合わせなども試していたことがある。そんな時期を経て、最近ようやく概ね満足できる音で聴けるようになった。そのオーディオ・システムについて、ちょっとまとめてみようと思う。

 クラシック音楽は、オーディオによって作品や演奏の印象が大きく変わる。オーディオはマニアックな分野だと思われそうだが、CDのレビューを読む上で、その人がどんな機器で聴いているのかは、やはり気になる。システムによっては、細かい音が聴き取れないことなど、鑑賞上の不都合が生じるからだ。この覚書が、オーディオに興味を持つ音楽愛好家の方の一助となれば幸いだ。

 私自身のオーディオの好みは、J.S.バッハのブランデンブルク協奏曲なら各楽器の音色や響きを明瞭に聴きたいし、サン=サーンスの「オルガン付」ならスケール感たっぷりに聴きたい、といったところだ。
 貧弱なオーディオだと、楽器の区別がつかず、ドロドロと混濁し、低音や音の厚みが不足してスケール感が出ないものである。かと思えば、イヤホンで聴くと緻密さに気づかされ、大型スピーカーで重低音を聴くと音のブ厚さ・野太さがもたらす充実感に気づかされる。
 なので、理想は、イヤホンのように緻密に音を鳴らし分けつつ、大型スピーカーのようにブ厚く野太い音を出せるオーディオ・システムとなる。また、モニター・スピーカーに求められるような、音源に色付けしない正確性の高さを求めつつも、クラシック向けに潤いもある程度求めている。そこを踏まえた上で、次のようにシステムを組んでいる。

◆一般的なCDプレーヤー部分◆
 方向性は、CDのデジタルデータをできる限り正確に読み取り、ハイレゾ的に拡張・補完し、豊かなアナログデータを作ろうとしている。
◇外付け光学ドライブ(パイオニアのPureRead活用)
◇ノートパソコン(192kHz、32Bitにアップサンプリング)
◇D/Aコンバーター:SoulNoteのD-1(BulkPet転送)

◆アンプ◆
 方向性は、入力されたアナログデータを色付けせず増幅し、スピーカーを正確・強力に駆動する電流を作ろうとしている。

◇プリメインアンプ:アキュフェーズのE470(AB両端子を使ってバイワイヤ接続)

◆スピーカー◆
 曲に応じて3種類を使い分けており、詳しくは後述していく。

 その他、電源面では壁コンセントをオーディオ向けのものに交換したり電源トランスを経由したり、ケーブル類はDH Labsを始め機器に応じて製品を使い分けたり、脚周りは1枚で50Kg程もある黒御影石や各種インシュレーターを使うなど、環境を整えている。
 なお、響き方の前提条件となるリスニングルームは、木造一戸建ての一室で、6畳程度。リスニングポイントとしては、左右スピーカー間、スピーカー・リスナー間ともに、1.8メートルほどである。

第2部 曲とスピーカーとの相性
〜DALIのHelicon 400〜

helicon a3
 先述のとおり、プレーヤー部からアンプ部までは定まっているものの、スピーカー3種類を使い分けており、絞りきれていないのが現状だ。鳴り方が三者三様・一長一短で、スピーカーを繋ぎ換えて聴き比べるのは、落ち着いて鑑賞するにはツライものもあるが、オーディオ趣味的に楽しくもある。
 そこで、お気に入りの名盤を3種類のスピーカーで聴き比べ、印象を整理することで相性を把握しようと思い立った。

 まずは、デンマークのメーカーであるDALIのHelicon 400である。特徴は、高域の伸びが美しく、弦楽器の響きが芳醇で、また、コントラバスやティンパニなど低域の沈み込みが深く、なんとも官能的な鳴り方だ。 

 アルテュール・グリュミオーが弾くサン=サーンスの「序奏とロンド・カプリチオーソ」を聴くと、艶やかさと流麗さ、可愛らしさ、ときにはドスのきいた太め・低めの音...そんな、コロコロと表情の変わる音色を、見事に再現してくれる。以前のオーディオシステムでは、オーケストラが歪んで聴こえ、録音が悪いのか演奏が下手クソなのかと眉をひそめていたが、システムを改善すると、オケの演奏の姿と穏やかなホールトーンが判別できるようになり、フィリップス録音の優秀さを感じ、いままでの冤罪を詫びたい気持ちにさせられた。

 J.S.バッハのブランデンブルク協奏曲第4番のジャン=フランソワ・パイヤール盤を聴くと、リコーダーや弦が天国的に明るい音色で響き渡り、のどかで多幸感が溢れてくる。

 ウラディーミル・アシュケナージが弾くラフマニノフのピアノ協奏曲第2番を聴くと、ベルナルト・ハイティンクとコンセルトヘボウがどっしりと支え、幻想的なホールトーンが満ち溢れる中、アシュケナージのピアノがきらめく。まるで、月夜の下の水辺で魚が跳ねて、水面が揺れて月光がちらちらと反射するかのような、静かでひんやり冷たい空気の中での美しさが感じられる。

 サン=サーンスの「オルガン付」を聴くと、パイプオルガンが設置されている広大なスケール感を再現するとともに、各パートの存在感もしっかり描いてくれる。特に、ミュンシュのXRCD盤の場合、低域から高域へ、小音から大音量へと音がうねり、テンポの微妙な変化もあいまって、抱きこまれて空を飛び回っているような心地よい驚きと、デュトワ盤とは違う動物的で脈動のような生々しさ、これがフランス人ならではの心性かと思わせるような機微を感じさせる。

 だが残念ながら、クララ・ハスキルが弾くモーツァルトのピアノ協奏曲第20番を聴くと低音ボワついたり、ブランデンブルク協奏曲第5番のカール・リヒター盤を聴くと、リヒターならではの峻厳さが弛緩してしまうなど、全般的に音が緩慢に感じられる。
(三ツ瀬歩)


【関連サイト】
 DALI
 PMC

月別インデックス