クラシック音楽のためのオーディオ [続き]
2020.05.24
第3部 曲とスピーカーとの相性
〜PMCのTB2+とtwenty5 22〜
次に、イギリスのメーカーPMCのTB2+である。特徴は、いわゆるモニター性能を最優先し、細密画のような描写力が画期的で素晴らしい。時間軸において恐ろしいほど正確で、音の立ち上がりが速く、「ザサッ ザサッ」と、音が切り込んでくるように感じられ、また、音源に色付けしないストレートな印象。悪く言うと平板な印象もあり、ず太さや肉感、湿り気が欲しい場面もある。先述のHelicon 400とは正反対で、クッキリ・ハッキリした鳴り方だ。
フリッツ・ライナーが指揮するバルトークの「弦チェレ」を聴くと、従来のシステムや他のスピーカーでは音が混濁していて聴こえなかったらしく、様々な音が浮き上がってくる。
ブランデンブルグ協奏曲第5番のカール・リヒター盤を聴くと、緊迫感が最高潮、明晰さの極致で、「この曲を聴くためだけにこのスピーカーを買ったとしても、充分良かった」と感じてしまうほど、満足させられた。そうかと思えば、パイヤール盤は高域のハーモニーは鮮明で良いが、全体的に響きが神経質になってしまい、優雅さが失われてしまう。
クララ・ハスキルが弾くモーツァルトのピアノ協奏曲第20番だと、悲痛な叫びのように、弦パートが「ザサッ ザサッ」と切り込んできて良い。ただしピアノは、Helicon 400が生み出す珠玉の音に比べると、金属性のボルトのように無骨に感じられてしまう。
マウリツィオ・ポリーニが弾くバルトークのピアノ協奏曲第1番を聴くと、アドレナリン全開のような荒々しい脈動と、弱音時の繊細な響きが美しくてよい。しかしながらピアノの音が軽く、場面によってはもっと重くドスのきいた感じが欲しくなる。アシュケナージが演奏したラフマニノフでも、低域の沈み込みが足りない。
ミュンシュの「オルガン付」を聴くと、音のうねりや動物的な生々しさが失われてしまう。そんな短所が気になりつつも、細密画のような描写力に魅了され、Helicon 400と双璧をなしてきた。
そこに登場したのが、PMCの上位機種、twenty5 22である。試聴会での印象は、モニター調でありつつも、クラシックやJazzに必要な響き・潤いや、低音の豊かさ・力強さも感じられ、理想のスピーカーではないかと期待した。Helicon 400とTB2+とを、聴くCDや気分に応じて使い分けてきたが、終止符を打つつもりで意気揚々とtwenty5 22を購入し、この2年いろいろ聴いてみた。
しかしながら、むしろ、他のスピーカーの短所を併せ持つような感じで、ひどく後悔させられた。明瞭さも音の厚みも低いレベルで、抜きん出た長所も見当たらず、「もう、売却しようかな」とさえ思い始めていた。
第4部 結び
しかし、この覚書を書き進めるうちに気付いたことがあり、スピーカーケーブルの使い方を試しに変えてみたところ、別物のように良く鳴った。他の2機種はバイワイヤ端子だったので、ケーブルを2本使用していたが、twenty5 22はシングル端子だったので1本しか使用できていなかった。この違いが気になったので、工夫して2本で接続したところ、明瞭になりつつ厚みも出るなど、他のスピーカーの良いトコ取りのような感じで、ほぼ理想どおりの鳴り方になったのだ。
TB2+も描写の正確さが素晴らしいが、比べてみると、TB2+が鉛筆デッサンでモノクロな印象であるのに対し、twenty5 22は多彩な細筆で緻密に描きこまれた油絵のように、色彩豊かな上に力強い。
低音については、PMC独自技術の低域を増強する機構を備えており、見た目に似つかわしくない威圧感を出し、「オルガン付」のスケール感も充分だ。しかも、たいていの大型スピーカーは低音が遅れて浸透する感じだが、この機種は比較的小ぶりなおかげか、砲弾が飛び込んでくるようにキビキビとした低音が鳴り、演奏を正確に聴かせてくれる。ヘルベルト・フォン・カラヤンが指揮したバルトークの「オケコン」を聴くと、統率のとれた軍隊のような威圧感に圧倒される。
そして、何よりも大きな違いは、Helicon400よりも透明度が高いホールトーンを聴き分けられるようになったことである。いままでモヤモヤ聴こえがちだったのは、楽器の直接音とホールトーンが混濁していたせいなのだろう。また、たいていの大型スピーカーの場合、例えばジャズのヴォーカルものを聴くと口の輪郭が大きく膨らんだような描写になりがちだが、この機種は、口もソロ楽器も等身大に聴かせてくれるので嬉しい。
これらの正確さ・性能の高さが、オケとソロ楽器、そしてホールトーンを描き分け、驚くほどの臨場感を作り出す。ポリーニが弾くバルトークのピアノ協奏曲の場合、従来はオケがひずんでいるように聴こえていたが、ちゃんとハーモニーが聴こえるようになった。そして、もしやと思い、ピエール・ブーレーズ指揮、シカゴ響による「弦チェレ」を聴くと、臨場感が抜群に良好で驚かされ、印象が一変した。
こうなると、いままで聴いてきた音や、数々のCDへの印象・評価が、怪しく感じられてしまう。システムを一新したオーディオの同好家が、「CDを全部聴き直したくなった」と言っていたのを思い出した。皆さんも、使うオーディオを換えると、埋もれたCDの中からお気に入りを発見できるかもしれない。
なお、私の場合、リスニングルームが6畳程度なので、twenty5 22等によるシステムがベストだと考えているが、宝くじで数億円当たった暁には、オーケストラを壮大なスケールで聴けるように、部屋の広さや家の構造も含めてオーディオ一式を新調したいという夢も、おぼろげだが描いている。
〜PMCのTB2+とtwenty5 22〜
次に、イギリスのメーカーPMCのTB2+である。特徴は、いわゆるモニター性能を最優先し、細密画のような描写力が画期的で素晴らしい。時間軸において恐ろしいほど正確で、音の立ち上がりが速く、「ザサッ ザサッ」と、音が切り込んでくるように感じられ、また、音源に色付けしないストレートな印象。悪く言うと平板な印象もあり、ず太さや肉感、湿り気が欲しい場面もある。先述のHelicon 400とは正反対で、クッキリ・ハッキリした鳴り方だ。
フリッツ・ライナーが指揮するバルトークの「弦チェレ」を聴くと、従来のシステムや他のスピーカーでは音が混濁していて聴こえなかったらしく、様々な音が浮き上がってくる。
ブランデンブルグ協奏曲第5番のカール・リヒター盤を聴くと、緊迫感が最高潮、明晰さの極致で、「この曲を聴くためだけにこのスピーカーを買ったとしても、充分良かった」と感じてしまうほど、満足させられた。そうかと思えば、パイヤール盤は高域のハーモニーは鮮明で良いが、全体的に響きが神経質になってしまい、優雅さが失われてしまう。
クララ・ハスキルが弾くモーツァルトのピアノ協奏曲第20番だと、悲痛な叫びのように、弦パートが「ザサッ ザサッ」と切り込んできて良い。ただしピアノは、Helicon 400が生み出す珠玉の音に比べると、金属性のボルトのように無骨に感じられてしまう。
マウリツィオ・ポリーニが弾くバルトークのピアノ協奏曲第1番を聴くと、アドレナリン全開のような荒々しい脈動と、弱音時の繊細な響きが美しくてよい。しかしながらピアノの音が軽く、場面によってはもっと重くドスのきいた感じが欲しくなる。アシュケナージが演奏したラフマニノフでも、低域の沈み込みが足りない。
ミュンシュの「オルガン付」を聴くと、音のうねりや動物的な生々しさが失われてしまう。そんな短所が気になりつつも、細密画のような描写力に魅了され、Helicon 400と双璧をなしてきた。
そこに登場したのが、PMCの上位機種、twenty5 22である。試聴会での印象は、モニター調でありつつも、クラシックやJazzに必要な響き・潤いや、低音の豊かさ・力強さも感じられ、理想のスピーカーではないかと期待した。Helicon 400とTB2+とを、聴くCDや気分に応じて使い分けてきたが、終止符を打つつもりで意気揚々とtwenty5 22を購入し、この2年いろいろ聴いてみた。
しかしながら、むしろ、他のスピーカーの短所を併せ持つような感じで、ひどく後悔させられた。明瞭さも音の厚みも低いレベルで、抜きん出た長所も見当たらず、「もう、売却しようかな」とさえ思い始めていた。
第4部 結び
しかし、この覚書を書き進めるうちに気付いたことがあり、スピーカーケーブルの使い方を試しに変えてみたところ、別物のように良く鳴った。他の2機種はバイワイヤ端子だったので、ケーブルを2本使用していたが、twenty5 22はシングル端子だったので1本しか使用できていなかった。この違いが気になったので、工夫して2本で接続したところ、明瞭になりつつ厚みも出るなど、他のスピーカーの良いトコ取りのような感じで、ほぼ理想どおりの鳴り方になったのだ。
TB2+も描写の正確さが素晴らしいが、比べてみると、TB2+が鉛筆デッサンでモノクロな印象であるのに対し、twenty5 22は多彩な細筆で緻密に描きこまれた油絵のように、色彩豊かな上に力強い。
低音については、PMC独自技術の低域を増強する機構を備えており、見た目に似つかわしくない威圧感を出し、「オルガン付」のスケール感も充分だ。しかも、たいていの大型スピーカーは低音が遅れて浸透する感じだが、この機種は比較的小ぶりなおかげか、砲弾が飛び込んでくるようにキビキビとした低音が鳴り、演奏を正確に聴かせてくれる。ヘルベルト・フォン・カラヤンが指揮したバルトークの「オケコン」を聴くと、統率のとれた軍隊のような威圧感に圧倒される。
そして、何よりも大きな違いは、Helicon400よりも透明度が高いホールトーンを聴き分けられるようになったことである。いままでモヤモヤ聴こえがちだったのは、楽器の直接音とホールトーンが混濁していたせいなのだろう。また、たいていの大型スピーカーの場合、例えばジャズのヴォーカルものを聴くと口の輪郭が大きく膨らんだような描写になりがちだが、この機種は、口もソロ楽器も等身大に聴かせてくれるので嬉しい。
これらの正確さ・性能の高さが、オケとソロ楽器、そしてホールトーンを描き分け、驚くほどの臨場感を作り出す。ポリーニが弾くバルトークのピアノ協奏曲の場合、従来はオケがひずんでいるように聴こえていたが、ちゃんとハーモニーが聴こえるようになった。そして、もしやと思い、ピエール・ブーレーズ指揮、シカゴ響による「弦チェレ」を聴くと、臨場感が抜群に良好で驚かされ、印象が一変した。
こうなると、いままで聴いてきた音や、数々のCDへの印象・評価が、怪しく感じられてしまう。システムを一新したオーディオの同好家が、「CDを全部聴き直したくなった」と言っていたのを思い出した。皆さんも、使うオーディオを換えると、埋もれたCDの中からお気に入りを発見できるかもしれない。
なお、私の場合、リスニングルームが6畳程度なので、twenty5 22等によるシステムがベストだと考えているが、宝くじで数億円当たった暁には、オーケストラを壮大なスケールで聴けるように、部屋の広さや家の構造も含めてオーディオ一式を新調したいという夢も、おぼろげだが描いている。
(三ツ瀬歩)
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