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スザンナ・ヨークについて [続き]

2017.08.12
不倫する女たち

 1970年代の出演作を観ると不倫の役が目立つ。『イメージズ』の主人公も、愛人との情事にふけっていた。ロジャー・ムーア主演作『ゴールド』(1974年)では、甘い恋愛を堪能しているが、不倫である。エリオット・グールド主演作『サイレント・パートナー』(1978年)で演じた役も、上司と不倫している女だ。そしてジョージ・C・スコットと共演した『ジェーン・エア』(1970年)。これは不倫ものと言わず、愛した男に妻がいたと言うべきかもしれない。何度も映画化されているが、私見では、スザンナがベストのはまり役で、陰があり、やや分別臭く、自分の意思、意見が明確なヒロインを完璧に演じきっている。これらの作品は、不倫自体がメインのドラマではなく、主要テーマはほかに存在するという点で共通している。

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 エリザベス・テイラー主演の『ある愛のすべて』(1972年)は、倦怠期にある夫婦の愛の崩壊を描いた作品。スザンナは例によって不倫の相手役だ。話の内容は、建築家のロバート(マイケル・ケイン)が気の強い妻ジー(エリザベス・テイラー)を突っぱねて、ブティック経営者のステラ(スザンナ・ヨーク)との不倫に耽った末、ジーと別居し、ステラと一緒に住むことを決意するが......というもの。ロバートはかなりのクズ男だが、ステラの方も清楚で、落ち着いていながら、図々しく、したたかなところがある。映画としては、不倫カップルがやたらラブシーンを繰り返していてやや退屈......かと思ったら、エンディングまでの約10分間で、ジーが思わぬ行動に出て、ロバートは立場を失う。エリザベス・テイラーが圧倒的な存在感を放っている映画だが、スザンナも全くひけを取ることなく好演している。スタンリー・マイヤーズのテーマ音楽も胸にしみるし、2人の女優を魅力的に撮った作品として忘れられない。

美しきヒロイン

 少しさかのぼると、『トム・ジョーンズの華麗な冒険』の後、マレー独立戦争を描いた『第七の暁』(1964年)で、スザンナはゴム農園主フェリス(ウィリアム・ホールデン)に恋する総督の娘キャンディス役を演じている。フェリスはすでに反英国を貫く活動家のダーナ(キャプシーヌ)と深い関係にあり、キャンディスが2人の間に割って入るのは容易ではない。これは一種の純愛。スザンナは恋する乙女の目をしていて素敵だが、キャプシーヌの役が良いために、やや割を食った感がある(ついでに言えば、丹波哲郎が演じたゲリラの方が、ホールデンの役よりも精彩を放っている)。

 『カレードマン大胆不敵』(1966年)は、いかさま師バーニー(ウォーレン・ベイティ)の活躍を描いたコミカルな佳品。スザンナは彼に恋するお茶目なエンジェル役で、いわばボンドガール風のヒロイン。添え物的な役だが、紅一点と言って差し支えない。カジノでドレスアップされた彼女の姿はいかにも男好きする感じで、上品さとコケットリーが観る者の心をくすぐる。『空軍大戦略』(1969年)はタイトル通りの戦争映画だが、戦闘機と同じくらいスザンナのセクシーな肢体(上半身はシャツにネクタイ、下半身は下着)が強い印象を残す。これまた紅一点と言っていいだろう。

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 フレッド・ジンネマン監督の『わが命つきるとも』(1966年)には、トマス・モアの娘マーガレット役で出演。ポール・スコフィールド、ウェンディ・ヒラー、レオ・マッカーンといった名優たちが肩を並べる中、スザンナは若芽のようなみずみずしさと絵画的な美しさをたたえている。膨大な熱量を持った重厚なコスチューム劇の乙女役にふさわしく、見るからに気品があり、清楚で、聡明そうだ。それが終盤、父親との別れの場面では感情豊かなところを見せ、観る者を泣かせる。ジンネマンの自伝によると、当初この役はヴァネッサ・レッドグレイヴが演じる予定だったが、契約の都合で出演できなくなったために(ヴァネッサはアン・ブーリン役でカメオ出演した)、スザンナが代役を務めたらしい。今となっては、この配役以外考えられない。

 後年の作品では、『スーパーマン』(1978)のスーパーマンの母親、TVシリーズ『We'll Meet Again』(1982年)のヘレン・デアハム、『サマーストーリー』(1988年)のナラコウム夫人の役がわりと知られているが、21世紀に入ってからも映画、ドラマ、舞台で活動を続けていた。骨髄がんにより亡くなったのは2011年1月15日。72歳だった。

多様なイメージ

 同世代のイギリスの演技派女優と言えば、ジュリー・クリスティ、サラ・マイルズ、グレンダ・ジャクソンあたりが思い浮かぶが、この3人と比べても、スザンナが演じた役柄はこれまで述べてきたように独特である。ある意味、それらの役は、その時代が求めた役であった。しかも、共感しにくい役でも共感させる力を彼女は持っていた。まさに時代のミューズと呼ぶにふさわしい女優だったのだ。

 とはいえ、彼女自身は「時代のアイコン」という立場に収まらず、1960年代、70年代の大波にさらわれることなく、一人の女優として多様なイメージを生み出すことに成功した。私たちは「スザンナ・ヨーク」の名前を見ると、明るくて愛らしいイメージも、セクシーなイメージも、コミカルなイメージも、清楚なイメージも、情愛に溢れたイメージも、意志の強いイメージも、知的なイメージも抱くことが出来る。ここまで多彩な〈イメージズ〉を残したことは稀有な例に属する。これは、どんな役を演じても一面的な表現をせず、真摯に役作りをしてきた女優人生の所産と言えるだろう。
(阿部十三)


【関連サイト】
Susannah York
スザンナ・ヨークについて

[スザンナ・ヨーク略歴]
1939年1月9日、イギリスのロンドン生まれ。王立演劇学校を卒業後、1960年に映画デビュー。『トム・ジョーンズの華麗な冒険』『わが命つきるとも』などのオスカー受賞作への出演を経て、『甘い抱擁』(1968年)や『ひとりぼっちの青春』などの問題作に出演して評価され、ロバート・アルトマン監督作『イメージズ』(1972年)でカンヌ国際映画祭女優賞を獲得。後年は舞台でも活躍したが、映画にも晩年まで出演し続けた。私生活では1960年にマイケル・ウェルズと結婚し、10年以上経ってから(『イメージズ』撮影後)2児に恵まれたが、1976年に離婚した。2011年1月15日、骨髄がんのため死去。