ショック集団 〜神は滅亡を願う時、まず人を狂人にする〜
2011.05.10
「神は滅亡を願う時、まず人を狂人にする」(エウリピデス)
精神病院で起こった殺人事件の犯人を探すべく、精神異常者になりすまして潜入捜査をはじめた新聞記者ジョニー・バレット。これがうまくいけばピュリッツアー賞も間違いないと名誉欲に燃える彼だったが、患者たちと生活を共にするうちに、徐々に精神の均衡を失い、狂気の道へと足を踏み入れてゆく......。
モノクロームの映像の中、時折挿入される鎌倉の大仏や富士山のカラーのショットは、国辱映画とされる(が実際は失笑レベルで、そこまで言うほどでもない)『東京暗黒街・竹の家』の制作で来日した際、フラーが個人的に撮っていたものである。フラーによると、患者たちが正気を取り戻して過去を思い出す瞬間、そこに16ミリのカラーで撮った映像を使ったという。「16ミリのシネスコ・レンズで撮影したものをスタンダード・サイズに圧縮して使ったので、何もかもが縦に長く細くなって映る。狂気を通して正常が歪む。狂人の眼を通してイメージが形になって見えてくるのだ」ーーもともと深い意味のある映像ではなかったはずだが、結果として非常に効果的な演出になっている。これだけ密度の濃い映画なのに、終わった後、それらのカラー映像が妙に印象に残ってしまうのだから不思議であり不気味だ。
なお、エピグラフとして使われているエウリピデスの言葉は、英語では「Those whom God wishes to destroy, he first makes mad.」なので、文頭に掲げた「神は滅亡を願う時、まず人を狂人にする」は正しい訳とは言えない。私が初めて観た時はこの字幕だった。ただ、「滅亡=世界全体の滅亡」と読み取れるような言い回しに惹かれた人も多いと思うので、ここではそのまま引用した。正確な翻訳ではないかもしれないが、正確に真理をついている。元々のギリシャ語だとどういうニュアンスになるのだろう。
精神病院で起こった殺人事件の犯人を探すべく、精神異常者になりすまして潜入捜査をはじめた新聞記者ジョニー・バレット。これがうまくいけばピュリッツアー賞も間違いないと名誉欲に燃える彼だったが、患者たちと生活を共にするうちに、徐々に精神の均衡を失い、狂気の道へと足を踏み入れてゆく......。
ハリウッドの異端監督サミュエル・フラーが1963年に発表した『ショック集団』は、人間の理性の脆さを描いているだけでなく、アメリカの暗部をもさらけ出した衝撃作である。患者たちの精神崩壊の背景に見えるKKK、原爆研究、朝鮮戦争、赤狩り。これらはそのままアメリカの罪の歴史を物語っている。映画の見所は山ほどあるが、とくに圧巻なのはバレットがオペラ好きの巨漢の熱唱で夜中に起こされるシーンと、色情狂の女たちに襲われるシーンだ。患者たちもみんな「本物」に見えて怖い。これを「ハードボイルド・ホラー・ムービー」と呼ぶ人もいるが、実に的を射た表現だと思う。
モノクロームの映像の中、時折挿入される鎌倉の大仏や富士山のカラーのショットは、国辱映画とされる(が実際は失笑レベルで、そこまで言うほどでもない)『東京暗黒街・竹の家』の制作で来日した際、フラーが個人的に撮っていたものである。フラーによると、患者たちが正気を取り戻して過去を思い出す瞬間、そこに16ミリのカラーで撮った映像を使ったという。「16ミリのシネスコ・レンズで撮影したものをスタンダード・サイズに圧縮して使ったので、何もかもが縦に長く細くなって映る。狂気を通して正常が歪む。狂人の眼を通してイメージが形になって見えてくるのだ」ーーもともと深い意味のある映像ではなかったはずだが、結果として非常に効果的な演出になっている。これだけ密度の濃い映画なのに、終わった後、それらのカラー映像が妙に印象に残ってしまうのだから不思議であり不気味だ。
なお、エピグラフとして使われているエウリピデスの言葉は、英語では「Those whom God wishes to destroy, he first makes mad.」なので、文頭に掲げた「神は滅亡を願う時、まず人を狂人にする」は正しい訳とは言えない。私が初めて観た時はこの字幕だった。ただ、「滅亡=世界全体の滅亡」と読み取れるような言い回しに惹かれた人も多いと思うので、ここではそのまま引用した。正確な翻訳ではないかもしれないが、正確に真理をついている。元々のギリシャ語だとどういうニュアンスになるのだろう。
(阿部十三)
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