リー・ヴァン・クリーフ 〜その眼光は死の香り〜
2011.10.05
一目見たら決して忘れられない俳優、それがリー・ヴァン・クリーフだ。僕が初めて彼の存在を知ったのは、小学生の頃にTVで観た『続・夕陽のガンマン』(1966年)だった。これはセルジオ・レオーネ監督とクリント・イーストウッドによるマカロニウエスタン3部作、通称「ドル三部作」の最後を飾った作品だ。リー・ヴァン・クリーフ演じる冷酷な殺し屋・エンジェルは、とにかく強烈なインパクトを放っていた。帽子、外套、シャツ、ブーツ、ガンベルト......全身が黒づくめで、眼光が途轍もなく鋭く、絵に描いたような鋭角的な鷲鼻。その姿は、まさしく死神。不吉な何かが始まることを予感させずにはおかない人物だった。
アメリカ人であるリー・ヴァン・クリーフは、元々ハリウッドで俳優として活動していた。彼の本格的な映画デビューは『真昼の決闘』(1952年)での悪役だ。しかし、なかなか仕事に恵まれず、一時はかなり困窮していたという。そんな彼を救ったのがセルジオ・レオーネ監督とクリント・イーストウッドの「ドル3部作」第2弾『夕陽のガンマン』(1965年)であった。イタリアに招かれて出演したこの作品で彼はクリント・イーストウッドとコンビを組み、妹を凌辱して自殺させた犯人を追い詰める賞金稼ぎ・モーティマー大佐を演じた。何があっても動じず、冷静にターゲットを追い詰めてゆくモーティマー大佐を見ているとゾクゾクする。物語の冒頭、馬に乗って逃げ出すお尋ね者。モーティマー大佐は慌てず、むしろわざと遠くに行かせるかのように、ゆっくりとライフルを構え、一発を放つ。弾丸は馬に当たり、お尋ね者は道に投げ出される。続いて発射された弾丸は左肩を射抜く。怒り狂ったお尋ね者はピストルを乱射しながらモーティマー大佐へと向かって行くが、遠距離であるため全く当たらない。そんな中、モーティマー大佐は長銃身のピストルを取り出し、遠距離射撃用のストックを慎重に装着する。構えるや否や発射された弾丸は、お尋ね者の眉間を正確に打ち抜く。いかなる感情にも左右されないマシンのような殺しっぷりだ。
荒っぽいやり方で突き進むクリント・イーストウッド、冷静沈着なリー・ヴァン・クリーフ。対照的な個性が光る『夕陽のガンマン』は大ヒットし、リー・ヴァン・クリーフは一躍その名を全世界に轟かせた。以降、様々なマカロニウエスタンへの出演が続いた。中でもジュリアーノ・ジェンマと共演した『怒りの荒野』(1967年)は人気が高い。また、サバタという役名で主演した『西部悪人伝』(1970年)、『西部決闘史』(1972年)は、ファンの間で熱い支持を集めている。弾丸を撃ち尽くしたかと思いきや、グリップの底がパックリと開いて銃口が現れ、瞬く間に敵を射殺してしまう謎の小型ピストル、バンジョー型ライフルなど、荒唐無稽な兵器が活躍することから、マカロニウエスタン版007などとも呼ばれているユニークな作品だ。
マカロニウエスタンのブームが去った70年代後半からのリー・ヴァン・クリーフの活動は、とても地味だ。映画やTV番組などに時々出演していたものの、特筆すべき作品はジョン・カーペンター監督の『ニューヨーク1997』くらいしかない。僕は『忍者ジョン&マックス』というTV映画に出演しているのを日本での放映時に観ていたはずなのだが、内容は記憶にない。おそらくあまり面白くなかったのだろう。そして、リー・ヴァン・クリーフは、1989年に心臓発作で他界した。
僕がリー・ヴァン・クリーフの最後の輝きとして思い出すのは、彼が晩年に出演したサントリーオールドのCMだ。リー・ヴァン・クリーフが庭先でウィスキーをストレートで飲みながら静かに語る。すっかり老いてはいたが、眼光は昔と変わらず鋭く、刻まれた皺、何処か寂しげなシルエット、風に揺れる白髪が、彼の人生の深みを無言で伝えていた。このCMが放映された当時、僕はまだほんの子供だったが、何やら言葉にならない感銘を受けたのを覚えている。この原稿を書くにあたって動画サイトを検索したら、サントリーオールドのCMと再会することが出来た。「友達? たくさんいるよ。子供......おとな、はげしいの、やさしいの、新しいの......ふるいの......もっとふるいの。結局、みんな大好きだね」ーーおそらく作家が用意したセリフだが、このCMで語る彼の言葉には説得力がある。そして、胸が一杯になってしまう。
強烈な印象を観客の心に刻み続けたリー・ヴァン・クリーフの人生は、僕にはとても美しく思える。決して誰もが「名優」として挙げる人物ではないのだろう。しかし、スクリーンに現れるだけで独自の世界が生まれ、物語を鮮やかに躍動させてしまう彼は、紛れもなく天賦の俳優だ。
[関連サイト]
リー・ヴァン・クリーフ(DVD)
アメリカ人であるリー・ヴァン・クリーフは、元々ハリウッドで俳優として活動していた。彼の本格的な映画デビューは『真昼の決闘』(1952年)での悪役だ。しかし、なかなか仕事に恵まれず、一時はかなり困窮していたという。そんな彼を救ったのがセルジオ・レオーネ監督とクリント・イーストウッドの「ドル3部作」第2弾『夕陽のガンマン』(1965年)であった。イタリアに招かれて出演したこの作品で彼はクリント・イーストウッドとコンビを組み、妹を凌辱して自殺させた犯人を追い詰める賞金稼ぎ・モーティマー大佐を演じた。何があっても動じず、冷静にターゲットを追い詰めてゆくモーティマー大佐を見ているとゾクゾクする。物語の冒頭、馬に乗って逃げ出すお尋ね者。モーティマー大佐は慌てず、むしろわざと遠くに行かせるかのように、ゆっくりとライフルを構え、一発を放つ。弾丸は馬に当たり、お尋ね者は道に投げ出される。続いて発射された弾丸は左肩を射抜く。怒り狂ったお尋ね者はピストルを乱射しながらモーティマー大佐へと向かって行くが、遠距離であるため全く当たらない。そんな中、モーティマー大佐は長銃身のピストルを取り出し、遠距離射撃用のストックを慎重に装着する。構えるや否や発射された弾丸は、お尋ね者の眉間を正確に打ち抜く。いかなる感情にも左右されないマシンのような殺しっぷりだ。
荒っぽいやり方で突き進むクリント・イーストウッド、冷静沈着なリー・ヴァン・クリーフ。対照的な個性が光る『夕陽のガンマン』は大ヒットし、リー・ヴァン・クリーフは一躍その名を全世界に轟かせた。以降、様々なマカロニウエスタンへの出演が続いた。中でもジュリアーノ・ジェンマと共演した『怒りの荒野』(1967年)は人気が高い。また、サバタという役名で主演した『西部悪人伝』(1970年)、『西部決闘史』(1972年)は、ファンの間で熱い支持を集めている。弾丸を撃ち尽くしたかと思いきや、グリップの底がパックリと開いて銃口が現れ、瞬く間に敵を射殺してしまう謎の小型ピストル、バンジョー型ライフルなど、荒唐無稽な兵器が活躍することから、マカロニウエスタン版007などとも呼ばれているユニークな作品だ。
マカロニウエスタンのブームが去った70年代後半からのリー・ヴァン・クリーフの活動は、とても地味だ。映画やTV番組などに時々出演していたものの、特筆すべき作品はジョン・カーペンター監督の『ニューヨーク1997』くらいしかない。僕は『忍者ジョン&マックス』というTV映画に出演しているのを日本での放映時に観ていたはずなのだが、内容は記憶にない。おそらくあまり面白くなかったのだろう。そして、リー・ヴァン・クリーフは、1989年に心臓発作で他界した。
僕がリー・ヴァン・クリーフの最後の輝きとして思い出すのは、彼が晩年に出演したサントリーオールドのCMだ。リー・ヴァン・クリーフが庭先でウィスキーをストレートで飲みながら静かに語る。すっかり老いてはいたが、眼光は昔と変わらず鋭く、刻まれた皺、何処か寂しげなシルエット、風に揺れる白髪が、彼の人生の深みを無言で伝えていた。このCMが放映された当時、僕はまだほんの子供だったが、何やら言葉にならない感銘を受けたのを覚えている。この原稿を書くにあたって動画サイトを検索したら、サントリーオールドのCMと再会することが出来た。「友達? たくさんいるよ。子供......おとな、はげしいの、やさしいの、新しいの......ふるいの......もっとふるいの。結局、みんな大好きだね」ーーおそらく作家が用意したセリフだが、このCMで語る彼の言葉には説得力がある。そして、胸が一杯になってしまう。
強烈な印象を観客の心に刻み続けたリー・ヴァン・クリーフの人生は、僕にはとても美しく思える。決して誰もが「名優」として挙げる人物ではないのだろう。しかし、スクリーンに現れるだけで独自の世界が生まれ、物語を鮮やかに躍動させてしまう彼は、紛れもなく天賦の俳優だ。
(田中大)
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[リー・ヴァン・クリーフ略歴]
1925年1月9日、アメリカのニュージャージー州サマーヴィル生まれ。父は会計士、母は歌手。海軍除隊後、俳優を志す。1952年『真昼の決闘』で本格デビュー。1965年『夕陽のガンマン』で脚光を浴び、マカロニウェスタンのスターとしてサバタ・シリーズなどに出演。後年はTVシリーズ「忍者ジョン&マックス」に出演。1989年12月16日、64歳で死去。
1925年1月9日、アメリカのニュージャージー州サマーヴィル生まれ。父は会計士、母は歌手。海軍除隊後、俳優を志す。1952年『真昼の決闘』で本格デビュー。1965年『夕陽のガンマン』で脚光を浴び、マカロニウェスタンのスターとしてサバタ・シリーズなどに出演。後年はTVシリーズ「忍者ジョン&マックス」に出演。1989年12月16日、64歳で死去。
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