映画『ロミオとジュリエット』 〜主に4作品について〜 [続き]
2012.05.18
フランコ・ゼフィレッリ版は、周知の通り大ヒットした人気作である。ロミオ役はレナード・ホワイティング、ジュリエット役はオリヴィア・ハッセー。カステラーニ版に心酔していた私は、黒髪のジュリエットには馴染めないと思い込んでいたが、あのニーノ・ロータの有名なメロディーが流れ始める頃には、無抵抗になり、オリヴィア・ハッセーのジュリエットを受け入れていた。シェントールに比べると行動的、積極的なジュリエットである。
『ロミオとジュリエット』は1968年までに少なくとも6、7回映画化されている。にもかかわらず、これほどの美と高揚感に満ちた映画を作ることができたゼフィレッリの自信と才能は驚嘆に値する。ゼフィレッリは原作を変にカットすることなく、適切なテンポを保ち、観る者に冗漫さを感じさせない。キャピュレット夫人とティボルトに意味深なアイ・コンタクトを交わさせたり、マーキュシオとティボルトの決闘シーンを一種の遊戯として描いたりしているところも、面白い。口上役はローレンス・オリヴィエ。カステラーニ版のギールグッドに対抗するにはこの人選しかないだろう。
美しいメロディーをバックにロミオとジュリエットが初めて言葉を交わすシーン、冗談のような空気の中でマーキュシオが息絶えてゆくシーン、それを看取ったロミオがティボルトへの殺意に我を忘れるシーン、ジュリエットが薬を飲む耽美的なシーン......見せ場を挙げはじめたら、きりがない。ついでに、「カットされているシーン」にも好感が持てる。例えば薬を飲むまでのジュリエットの長台詞。文学的には興味深いところだけど、これは劇のテンポを落とすので、必要に応じてカットして良いと思う。キャピュレット家のお墓のシーンで、パリスが登場しないのも共感できる。原作通りだと、ロレンスの計画通りに事が進んでもハッピーエンドにはならなかった、ということになる。もし生きているロミオの前でジュリエットがめでたく「死」から目覚めたとしても、パリスに見つかったら大騒ぎになるだろう。忌憚なくいって、ここでパリスが登場する必要性は感じないし、こういう変更はむしろ歓迎だ。
バズ・ラーマン版は『Romeo and Juliet』ならぬ『Romeo + Juliet』で、ロミオ役はレオナルド・ディカプリオ、ジュリエット役はクレア・デインズ。舞台は現代、ロックが鳴り響く「ロミジュリ」である。公開当時は賛否両論かまびすしかった。現代なのに、台詞は時代がかっているし、電話を使えば済むのに使わないし、突っ込みどころはたくさんある。登場人物の設定もギャングだったり、警察だったり、とアレンジを加えてデフォルメしている。それでも魅せる作品になっているのは、ディカプリオのおかげだろう。1996年なので、『タイタニック』の前、ディカプリオ人気が急上昇していた時期にあたる。いうまでもなく演技も良い。自然なエロキューションで、古典的な台詞が比較的すんなり耳に入ってくる。
この監督らしい派手な美意識が横溢しているので、好き嫌いははっきり分かれるだろうが、2人が水槽越しに出会うシーンなど、なかなか美しいし、ロミオが毒薬を飲んだ次の瞬間ジュリエットが目覚めてしまうところは、悲恋で終わるべき運命を強調していて、説得力がある。ただ、全体的には、「and」を「+」にまでして思いきったことをやろうとしたのに、中途半端で終わってしまった、という印象を拭うことができない。ここまでやるなら、設定も、台詞も、プロットも、もっと大胆に変えてほしかった。例えば、バーンスタインの音楽で有名な『ウエスト・サイド物語』のように。
以上4作品のほかにも、1908年のJ・スチュアート・ブラックトン監督作(ジュリエット役は「映画スター第1号」といわれるフローレンス・ローレンス)、1916年のJ・ゴードン・エドワーズ監督作(ジュリエット役は「ヴァンプ女優」のセダ・バラ)、1964年のリカルド・フレーダ監督作(ジュリエット役は『夕陽のガンマン』でモーティマーの妹を演じたローズマリー・デクスター)などがある。ソ連時代のロシアでは、プロコフィエフの音楽を使ったバレエ映画も作られている。
(阿部十三)
【関連サイト】
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William Shakespeare
ロミオとジュリエット
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