「絵」と一致するもの

  • 優劣をつけない 白鳥の小説は虚無的だと言われる。虚無とは便利な言葉である。そのように言っておけば、なんとなく白鳥の本質を言い当てたような気になれる。しかし、何がどう虚無的なのかはっきりしないし、批評として簡単すぎる。ここではなるべく具体的かつ簡潔に、白鳥文学の特徴を明示したい。 まず、白鳥の小説には甘さや哀れさがほとんどない。たとえ救いのない話でも、そこまで...

    [続きを読む](2024.10.17)
  • 絶賛しない人 何かを絶賛するムードが高まると、否定的な意見を排除しようとする空気が生まれる。「皆が絶賛しているのだから水を差すな」と言う者まで出てくる。しかし、私に言わせれば、絶賛コメントしかない方が気持ち悪い。言論統制をされているわけでもないのだから、批判したい人は、己の信念に従い、批判すればいいのである。 明治から昭和にかけて多くの小説、批評を書いた正宗...

    [続きを読む](2024.09.15)
  • 古典派風のモダンシンフォニー プロコフィエフの交響曲第1番「古典」は、1916年から1917年にかけて作曲された。当時25歳だったプロコフィエフは、かつてニコライ・チェレプニン(ペテルブルク音楽院教授)のもとで研究したハイドンの技法を活かし、「ハイドンが現代に生きていたら書いたであろう作品」を書こうとしたという。初演日は1918年4月21日。レニングラードで...

    [続きを読む](2024.03.11)
  • はらせぬ恨みをはらす 世のため人のためにならない悪人どもを、金を貰って殺す。 池波正太郎原作の『仕掛人・藤枝梅安』は1972年に発表され、その年のうちにテレビドラマ化された。タイトルは『必殺仕掛人』、初回放送日は1972年9月2日。当時は『木枯し紋次郎』が人気を博していたが、数ヶ月後には視聴率で追い越し、放送が2ヶ月延長され、さらに劇場版も作られた。『必殺仕...

    [続きを読む](2023.09.16)
  • ロイル・カーナー『イエスタデイズ・ゴーン』2017年作品 先日5年ぶりの来日を果たしたロイル・カーナーのライヴを観に行ってから、彼のアルバムをずっと聴いている。デビューからの8年間にロイルは3枚のアルバムを発表していて、父親になったことを機に自身の血筋を深く掘り下げた2022年の最新作『Hugo』も好きなのだが、デビュー作『Yesterday's Gone』...

    [続きを読む](2023.08.26)
  • ハマー・プロの看板監督 テレンス・フィッシャーはハマー・フィルム・プロダクションの看板監督だった人である。代表作は、フランケンシュタインとドラキュラのシリーズ。両者とも1930年代に製作されたユニバーサル映画でおなじみの有名モンスターだが、フィッシャーはその物語に新解釈を加え、カラー映像で華々しく復活させた。フィッシャーの作品によってハマー・プロは怪奇映画の...

    [続きを読む](2023.01.16)
  • 音楽で描かれた14人 エルガーの「ニムロッド」は、英国の式典や葬儀で頻繁に流れている有名曲だ。2012年のロンドン・オリンピック、2021年のフィリップ殿下の葬儀でも演奏されていた。ただ、もともとは祝典のための音楽でも、告別のための音楽でもない。家族や友人のことをイメージしながら書いた『エニグマ変奏曲』の第9変奏にあたる曲である。 『エニグマ変奏曲』は189...

    [続きを読む](2022.09.04)
  •  礒田湖龍斎の絵には独特のおかしみがある。 周知の通り、湖龍斎は鈴木春信から多大な影響を受けた絵師で、本家と見分けがつかないくらい似た絵を大量に描いた。腕はたしかで、細かく技巧的な絵もこなした。「石橋図」や「雪中美人画」といった美しい肉筆画を見ても、その腕前が相当のものであったことは分かる。しかしながら、湖龍斎は型にはまるタイプの人ではなかった。おとなしく普...

    [続きを読む](2022.05.15)
  • 自由で多彩な管弦楽の響き ドビュッシーの『海』は1903年8月から1905年3月5日にかけて作曲された。正確な作品名は「海 管弦楽のための3つの交響的素描」。交響詩ではなく、交響的素描である。初演は1905年10月15日、カミーユ・シュヴィヤールの指揮によって行われた。楽譜は同年にデュラン社から出版され、表紙には葛飾北斎の「神奈川沖浪裏」が使われたが、音楽と...

    [続きを読む](2022.05.03)
  • 男は破滅へ一直線 ジョーン・ベネットといえば男の人生を狂わせる運命の女、ファム・ファタールである。その大きな瞳は清純で優しそうだが、どこか頼りなげだ。それを見た男は、女のために何かしてあげたいと思うだろう。すると、たちまち彼女の眼差しは妖艶さを帯びて男の心を掴み、手玉に取ってしまう。そうなったら男は破滅へ一直線だ。 危険なファム・ファタールが登場するのは、『...

    [続きを読む](2022.04.12)
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