「ベートーヴェン」と一致するもの

  • 憧れはいつまでも 私にとってシューベルトは、憧れと諦めの感情を最も刺激する作曲家である。とりわけ死の年に書かれた作品を聴くと、もう手の届かない憧れに想いを馳せ、甘くて痛い喪失感の中にこの身を浸したくなる。その音楽は絶美だが、無菌質ではない。親しみと孤独が手を取り合った世界から生まれる美しさである。 ヴァイオリンとピアノのための幻想曲は、シューベルトが晩年に書...

    [続きを読む](2013.03.16)
  • 「悲劇的」を超えて 一番最初に聴いたマーラーの交響曲は第7番だった、という人はどれくらいいるのだろう。おそらくそこまで多くないのではないか。私の場合、誰にいわれたわけでもなく、何のガイドブックを読んだわけでもなく、結果的に第7番を最後に聴いた。そして、大袈裟にいえば、これまでほかの交響曲に親しんできたのは、第7番の世界に入るための準備であったかのような気持ち...

    [続きを読む](2013.02.12)
  •  オッテルローが遺した録音で最も有名なのは、ベルリオーズの「幻想交響曲」だろう。名盤といわれるレコードやCDがたくさんある作品だが、その中にあって1951年6月に録音されたオッテルロー盤は、ほかの指揮者と比べて遜色ないどころか、もう60年以上、ひときわ眩しく光っている。「幻想」を聴き込んでいる人ほど、オッテルローの聴かせ方のうまさに唸らされているようである。...

    [続きを読む](2013.01.17)
  •  どんな音楽作品でも、それを演奏する者によって、傑作に聞こえることもあれば、凡作に聞こえることもある。そこまで好きになれなかった作品が、特定の演奏家の手にかかるとえもいわれぬ魅力を帯び、また聴きたくなる、というケースもある。ひとつの作品との幸福な出会いとは、同時に演奏家との幸福な出会いを意味する。世に「傑作」とか「名盤」といわれているものが、必ずしも個人にと...

    [続きを読む](2012.10.01)
  • 聴いてすぐそれと分かる声 かつてEMIのプロデューサー、ウォルター・レッグはマリア・カラスについてこのように評した。「カラスは、偉大なキャリアを築くための必要条件、聴いてすぐそれと分かる声の持ち主だった」 偉大な歌手の定義はいろいろあるだろうが、「聴いてすぐそれと分かる声」(an instantly recognizable voice)を所有していることが...

    [続きを読む](2012.09.20)
  • 若き日に書いた〈最初の傑作〉 若きベートーヴェンが書いた傑作である。ベートーヴェンのピアノ協奏曲というと第4番、第5番「皇帝」がポピュラーだが、私が最も好んで聴くのは第1番である。文字通り〈爽快〉かつ〈壮快〉な作品で、全体を通して聴いた後、重さもアクも残らない。思索的な面では、後期の作品に比べて物足りないという人もいるかもしれない。ただ、何も考えたくない時、...

    [続きを読む](2012.09.04)
  • 自分を押しつぶそうとする運命に抗して 最初に第6番「悲愴」を聴き、次に第5番を聴いて、それからしばらくして第4番を聴く。チャイコフスキーの交響曲を知る際、私だけでなく、おそらく多くの人がこの順番を辿っているのではないかと思う。圧倒的にポピュラーな第5番や第6番に比べると、第4番は同列に並べられるほど人気があるとはいえない。ただ、チャイコフスキーの交響曲を知れ...

    [続きを読む](2012.08.20)
  • 「傑作の森」からきこえてくる妙なる楽想 ベートーヴェンの人生の中で最も創作意欲が高潮していたのは、交響曲第3番「英雄」を書き上げた1804年から数年間だといわれている。この時期をロマン・ロランが「傑作の森」と呼んだのは周知の通りである。とくに30代後半に入った1806年のベートーヴェンの作曲活動は注目に値すべきもので、交響曲第4番、ピアノ協奏曲第4番、ヴァイ...

    [続きを読む](2012.01.09)
  •  マリア・ユーディナはスターリンお気に入りのピアニストだった。彼女が録音したモーツァルトのピアノ協奏曲第23番は、スターリンの求めに応じて演奏されたものである。ただ、ユーディナは舌禍の多い人で、幾度となく当局とやり合っているような女傑だった。スターリンに対しても批判的な言動を繰り返していた。レコードの謝礼を受け取る時、彼女は礼状にこう書いたという。「ご助力を...

    [続きを読む](2011.12.27)
  • サラサーテのために サン=サーンスのヴァイオリン協奏曲第3番は、「ツィゴイネルワイゼン」の作曲者としても知られる名手パブロ・デ・サラサーテのために書かれた。ベートーヴェンがフランツ・クレメントのために、メンデルスゾーンがフェルディナンド・ダヴィッドのために、ブラームスがヨーゼフ・ヨアヒムのために、チャイコフスキーがレオポルト・アウアーのためにヴァイオリン協奏...

    [続きを読む](2011.11.21)
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