「カール・ベーム」と一致するもの

  •  アーリーン・オジェーの歌声は心を洗う光、雑念を消す光である。まさしく真の美声だ。普通の歌手なら中年にさしかかるあたりで声が重くなったり固くなったりして、高音の出し方にも力みが感じられるようになる。しかし、オジェーは表現の幅を広げることはあっても、気品と透明感のある美声を失うことはなかった。彼女はそのキャリアの中で、厳密な意味で「衰えない」という奇跡を積み重...

    [続きを読む](2015.10.23)
  • 衰えることを知らぬ人 演奏技術について語るとき、昔より今の方が格段に進歩しているとか、水準が上がっているという言い方をする人をよく見かける。しかし、全体の平均値が上がっても、突出した存在が現れるとは限らない。その証拠に、ナタン・ミルシテインやウラディミール・ホロヴィッツに匹敵するようなヴィルトゥオーゾは、ほとんど現代に存在しない。才能は平等なものではなく、分...

    [続きを読む](2015.03.20)
  • 愛のため、自由のために ベートーヴェンにとって初めてのオペラ作品『フィデリオ』は、1805年11月20日にアン・デア・ウィーン劇場で初演され、3日間で取りやめになった。「期待を完全に裏切る出来」(『デア・フライミューティゲ』1805年12月26日付)とまで書かれたが、当時ウィーンがフランス軍に占領され、裕福な音楽愛好家たちが疎開していたことや、聴衆の大半がド...

    [続きを読む](2014.12.30)
  • 彼女が踊るとき、エロスと暴力は解放される 1891年にフランス語で書かれたオスカー・ワイルドの『サロメ』は、翌年サラ・ベルナール主演で上演される予定だったが、検閲官から上演禁止令が出て封印された。初演されたのは1896年になってからのことである。当時ワイルドは男色の罪で獄中にあった。 原作者が亡くなった翌年の1901年、マックス・ラインハルト演出による舞台が...

    [続きを読む](2014.09.11)
  • 協奏曲の録音 ギレリスのピアニズムには確かな造形感があり、胸に響く重量感、輝かしいまでの明晰さがある。しかし、グリーグの『抒情小曲集』で聴くことが出来るしっとりとした味わいと甘美さ、プロコフィエフの「束の間の幻影」で聴くことが出来る胸のすくような跳躍感や諧謔的な表現の巧さもギレリスの特性である。 若い頃(1930年代から1940年代にかけて)の録音を聴くとテ...

    [続きを読む](2014.04.23)
  • 「人間は深い淵だ。底をのぞくと目が回るようだ」 アルバン・ベルクの歌劇『ヴォツェック』は1914年に着手され、幾度かの中断を経て1922年に完成した。台本のベースとなっているのは、23歳で夭折した天才劇作家ゲオルク・ビューヒナーの『ヴォイツェック』。この舞台を観たベルクが、オペラ化するために自ら筆をとったのである。 ビューヒナーの劇は、実際にあった出来事から...

    [続きを読む](2014.04.11)
  • 絵画的描写ではなく感情の表出 ベートーヴェンの交響曲の中で最も有名な作品のひとつである第6番は、1808年に書き上げられた。作曲時期は第5番とほぼ同じだが、第5番の大部分の作曲は1807年に行われ、第6番の方は1808年の初春〜夏にかけて集中的に書かれたとみられている。 構想自体はそれ以前から抱いていたようで、1803年から1804年にかけて使用していた「ラ...

    [続きを読む](2014.03.28)
  •  エーリッヒ・クンツの歌声はウィーンの香気である。そのバリトンに耳を傾けているだけで、おおらかになり、幸せな気持ちになれる。耳が悦び、胸躍るような感覚を覚える。変に取り繕ったところのない自由で粋な歌い回し、それでいて要所で聴く者の胸に迫ってくるフレージングの巧さも魅力である。 クンツのことを知ったきっかけは、中学3年生の時に祖父に買ってもらった『ウィーン・オ...

    [続きを読む](2014.01.30)
  • 歳月の重さと理念の重さ ヨハネス・ブラームスが交響曲第1番を完成させたのは1876年。「2台のピアノのためのソナタ」を交響曲に改作しようとして挫折したのが1855年頃なので、20年越しの念願成就ということになる。むろん、その間ずっと交響曲にかかりきりだったわけではないが、自らが世に出す最初の交響曲のことをブラームスはかなり重く考えていたようである。ベートーヴ...

    [続きを読む](2013.07.01)
  • イリアとオクタヴィアン 『イドメネオ』のユリナッチは文句なしに素晴らしい。その声の美質を遺憾なく発揮している。役と声の間にここまで親和性を感じさせる例も珍しい。このイリアがいれば、ほかのイリアはいらない、といいたくなるほどだ。音質は1956年に録音されたものの方が良いが、ジョン・プリッチャードの指揮が緩いのが難点である。 ユリナッチの美質は、『蝶々夫人』(1...

    [続きを読む](2013.02.25)
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