「マーラー」と一致するもの

  • 比類なき至芸の結晶 作品の美質を引き出す術は、オーケストラの美質を引き出す術と無関係ではあり得ない。シューリヒトはそのことを心得ていた。彼は固定スタイルを団員たちに押しつけるタイプの指揮者ではなかった。オーケストラが変われば演奏も変わる。ただ、いかなる方向からでも作品の核へと迫ろうとする、その姿勢は変わらない。 ウィーン・フィルとの組み合わせでは、1960年...

    [続きを読む](2013.07.19)
  • 「悲劇的」を超えて 一番最初に聴いたマーラーの交響曲は第7番だった、という人はどれくらいいるのだろう。おそらくそこまで多くないのではないか。私の場合、誰にいわれたわけでもなく、何のガイドブックを読んだわけでもなく、結果的に第7番を最後に聴いた。そして、大袈裟にいえば、これまでほかの交響曲に親しんできたのは、第7番の世界に入るための準備であったかのような気持ち...

    [続きを読む](2013.02.12)
  •  オッテルローが遺した録音で最も有名なのは、ベルリオーズの「幻想交響曲」だろう。名盤といわれるレコードやCDがたくさんある作品だが、その中にあって1951年6月に録音されたオッテルロー盤は、ほかの指揮者と比べて遜色ないどころか、もう60年以上、ひときわ眩しく光っている。「幻想」を聴き込んでいる人ほど、オッテルローの聴かせ方のうまさに唸らされているようである。...

    [続きを読む](2013.01.17)
  • チェボターリの後継者 美貌と美声と才能に恵まれ、究極の才色兼備を体現した名歌手である。早世したマリア・チェボターリの正当な後継者といってもいい。その声は艶があって美しいだけでなく、清潔感があり、しかも聴き手の耳を威圧することなく、ホールの隅々にまで響くような浸透性を備えている。レガートのなめらかさも特筆もので、歌い口に気品がある。そして歌詞の世界を、理智的な...

    [続きを読む](2012.11.28)
  • 聴いてすぐそれと分かる声 かつてEMIのプロデューサー、ウォルター・レッグはマリア・カラスについてこのように評した。「カラスは、偉大なキャリアを築くための必要条件、聴いてすぐそれと分かる声の持ち主だった」 偉大な歌手の定義はいろいろあるだろうが、「聴いてすぐそれと分かる声」(an instantly recognizable voice)を所有していることが...

    [続きを読む](2012.09.20)
  •  キリル・コンドラシンの名前は、ダヴィッド・オイストラフやエミール・ギレリスといったソ連の名演奏家たちの協奏曲録音で知った。彼らの伴奏指揮者として必ずといっていいほどコンドラシンの名前が記されていたのである。そのため、私はしばらくの間、コンドラシンに対して「すぐれた伴奏指揮者」というイメージしか抱いていなかった。それが変わったのは、だいぶ経ってからのことであ...

    [続きを読む](2012.08.05)
  • 奇蹟の楽想 シューベルトは31歳で亡くなったが、その短い生涯に人が何年生きても書けないような神韻縹渺たる傑作をいくつも完成させた。途方もない音楽的深度を獲得したそれらの作品は、私たちの心の暗部にまで届き、孤独感や苦悩や渇望と呼応し、調和的な余韻で満たす。作曲家に対して共感以上のもの、友情すら感じさせるような親密さと清廉さがその音楽には潜んでいる。 交響曲第9...

    [続きを読む](2012.02.22)
  •  眠くても、疲れていても、通勤と退勤の電車の中では読書をすることにしている。本を読まないと、会社と自宅を往復するだけの日常で終わってしまうので、少しでも読んで、ハードで荒んだ現実からは得られないものを吸収しておきたいのだ。2011年の初頭までは比較的時間にゆとりがあったので、帰宅してからもまだ読書をする余力はあったが、会社を移ってからは、家に帰った瞬間に思考...

    [続きを読む](2011.12.31)
  •  2011年11月22日、ベルリン・フィルの来日公演をサントリーホールで聴いた。今年、クラシックのコンサートに行くのはこれで5回目。去年の5分の1しか行けていない。前半は相次ぐ来日公演キャンセルで予定が消え、後半は仕事に追われて予定が立てられなかった。行きたいコンサートがどれも平日だったのだ。しかしながら、今回のプログラムはマーラーの交響曲第9番。指揮者はサ...

    [続きを読む](2011.11.25)
  • 恍惚と狂気の果てに バッハを聴いても、モーツァルトを聴いても、ベートーヴェンを聴いても、あるいはマーラーやバルトークを聴いても、全く心が満たされないことがある。音楽が、というより、音楽を聴くという行為自体が、自分の心理状態とあまりにかけ離れているためである。そんな時はたいていどんな種類の音楽を聴いても満足できない。かといって、無音でいるのも物足りない。 そこ...

    [続きを読む](2011.10.07)
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