「絵」と一致するもの
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純粋小説 横光利一の小説ほど天才というものを感じさせる作品は少ない。文壇に登場した際の「日輪」と「蠅」、その後の「機械」や「時間」などを読むと、日本語の表現や日本文学の面白さといったものの可能性を押し広げる創意に圧倒される。常人には抱えきれないようなその創意を理性のもとに置き、それまで誰も読んだことのない文学を高い完成度で生み出した横光は、真の意味で天才作家...
[続きを読む](2018.02.17) -
小野小町の晩年については、幾つかの伝承がある。有名なのは、流浪の身となり、落魄して死んだというものだ。事実かどうか定かでないまま小町の物語として伝わってきた『玉造小町子壮衰書』や、それを基にした逸話を載せた『古今著聞集』『徒然草』などの影響だろう。『平家物語』の巻第九にも、小野小町について「心強き名をやとりたりけん、はてには人の思のつもりとて、風をふせぐた...
[続きを読む](2017.12.30) -
魔法のオーケストレーション モデスト・ペトローヴィチ・ムソルグスキーの組曲『展覧会の絵』は、極めて独創的なピアノ曲であり、ロシアの器楽曲の中で最も有名な旋律を持つ作品の一つである。作曲されたのは1874年。建築家であり画家でもあった亡友ヴィクトル・ハルトマンの遺作展に足を運び、そこに展示されていた絵、デザイン、スケッチなどを見たことが作曲の動機につながった。...
[続きを読む](2017.11.05) -
大正3年から書かれた永井荷風の『日和下駄』には、「一名 東京散策記」という副題が付いている。その副題の通り、これは作者が地図を片手に散歩し、東京の風物を記す内容で、日本語を知る読者をして風景描写の粋を味到せしむるものである。 しかし、無目的な散歩の書ではない。江戸趣味の荷風が手にしている地図は、「石版摺の東京地図」ではなく、「嘉永板の江戸切図」である。彼は...
[続きを読む](2017.08.26) -
不倫する女たち 1970年代の出演作を観ると不倫の役が目立つ。『イメージズ』の主人公も、愛人との情事にふけっていた。ロジャー・ムーア主演作『ゴールド』(1974年)では、甘い恋愛を堪能しているが、不倫である。エリオット・グールド主演作『サイレント・パートナー』(1978年)で演じた役も、上司と不倫している女だ。そしてジョージ・C・スコットと共演した『ジェーン...
[続きを読む](2017.08.12) -
誰にも書けない音楽 イーゴリ・ストラヴィンスキーの『結婚』は、1914年に着手され、幾度かの中断を経て、1923年4月6日に書き上げられた。自伝によると、当時ストラヴィンスキーは楽器編成の問題で悩み、結論を出すのを後回しにしていたらしい。そして、「初演の日が最終的に決められて切迫した状態になれば何か解決法を思いつくだろうと当てにしていた」。その後、セルゲイ・...
[続きを読む](2017.08.02) -
短調の眠り アントニオ・ヴィヴァルディの『四季』は、1725年に出版された『和声と創意への試み』の中に収録されている最初の4曲、「春」「夏」「秋」「冬」を指す。それぞれの曲は、作者不明のソネットをもとにした一種の「標題音楽」で、春の喜び、夏のけだるさと激しい嵐、秋の収穫の祝いと狩猟、冬の寒さと暖炉がある室内での安らぎなどが描写される。 バロック期の標題音楽の...
[続きを読む](2017.04.02) -
女優と詩人 女優の扱いは巧かったようで、フランソワーズ・ロゼーに始まり、ミシェル・モルガン、アナベラ、アルレッティ、マリー・デア、シュザンヌ・クルーティエ、シモーヌ・シニョレ、パスカル・プティ、アニー・ジラルドといった、そうそうたる名女優・人気女優の代表作がカルネによって撮られている。日本で言えば、女優を撮る達人だった吉村公三郎的なポジションに近いかもしれな...
[続きを読む](2016.07.30) -
オスカー・ワイルドの『ドリアン・グレイの肖像』の中に、テオフィル・ゴーティエの『七宝螺鈿集』の詩を引用している箇所がある。「もりあがる調べにのりて/胸より滴るは真珠の雫」ーーこれを読んだ私はゴーティエに興味を抱き、近所の市立図書館で岩波文庫の『死霊の恋・ポンペイ夜話 他三篇』を見つけると、時間を忘れて読みふけった。その間、立ち読みの状態で、時代をさかのぼり...
[続きを読む](2016.04.02) -
コラボラトゥールの死 1944年8月のパリ解放後、コラボラトゥール(対独協力者)に対する制裁が行われたことはよく知られている。私的制裁を含めると処刑されたのは約1万人とみられているが、10万人前後とする説もあり、正確な人数は分かっていない。逮捕され、裁判で死刑判決を受けた者は2071人(欠席裁判を除く)。そのうち768人が処刑され、残りは恩赦により減刑あるい...
[続きを読む](2015.09.05)