「シューベルト」と一致するもの
-
2004年にグリゴリー・ソコロフのコンサート映像がDVD化された時、日本では知名度が高いとはいえないこの大ピアニストについて、私は次のように書いたことがある。「現在は西欧を中心にマイペースの活動を行ない、その名声はすでに不動の高みに達している。にもかかわらず、日本で目立つかたちで紹介される機会はなく、情報が増えない。はっきりいえばマイナー扱いされている節す...
[続きを読む](2013.04.16) -
憧れはいつまでも 私にとってシューベルトは、憧れと諦めの感情を最も刺激する作曲家である。とりわけ死の年に書かれた作品を聴くと、もう手の届かない憧れに想いを馳せ、甘くて痛い喪失感の中にこの身を浸したくなる。その音楽は絶美だが、無菌質ではない。親しみと孤独が手を取り合った世界から生まれる美しさである。 ヴァイオリンとピアノのための幻想曲は、シューベルトが晩年に書...
[続きを読む](2013.03.16) -
チェボターリの後継者 美貌と美声と才能に恵まれ、究極の才色兼備を体現した名歌手である。早世したマリア・チェボターリの正当な後継者といってもいい。その声は艶があって美しいだけでなく、清潔感があり、しかも聴き手の耳を威圧することなく、ホールの隅々にまで響くような浸透性を備えている。レガートのなめらかさも特筆もので、歌い口に気品がある。そして歌詞の世界を、理智的な...
[続きを読む](2012.11.28) -
60歳の出世作 ブルックナーがワーグナーを信奉していたことはよく知られている。交響曲を献呈し、バイロイト音楽祭にも足を運んだ。ワーグナー協会の名誉会員にもなった。当然、音楽的にも大きな影響を受けた。ただ、そのおかげで、ある評論家から執拗に攻撃されることになる。それが、アンチ・ワーグナーとして知られたエドゥアルト・ハンスリックだ。ブラームス派だったハンスリック...
[続きを読む](2012.06.11) -
数々の名盤 名指揮者と呼ばれる人で「ザ・グレイト」を録音(ライヴ録音も含む)していない人は、ほとんどいない。裏を返せば、それだけ指揮者にとって自分の個性、技術、工夫を投影しやすい作品なのだろう。私の手元にも50種近くのCDがあり、我ながらよくここまで集めたものだと呆れている。 中でも愛聴しているのは、以下の5種である。・ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮、...
[続きを読む](2012.02.23) -
奇蹟の楽想 シューベルトは31歳で亡くなったが、その短い生涯に人が何年生きても書けないような神韻縹渺たる傑作をいくつも完成させた。途方もない音楽的深度を獲得したそれらの作品は、私たちの心の暗部にまで届き、孤独感や苦悩や渇望と呼応し、調和的な余韻で満たす。作曲家に対して共感以上のもの、友情すら感じさせるような親密さと清廉さがその音楽には潜んでいる。 交響曲第9...
[続きを読む](2012.02.22) -
悪魔と祈りの音楽 最初の数秒で聴き手に一生忘れられないような衝撃を与える音楽がある。私にとってそういう作品を現代音楽の中から挙げるなら、まずジョージ・クラムの『ブラック・エンジェルズ』に指を屈する。あの出だしを初めて聴いた(というか、食らった)時、目の前できらめくナイフが飛び交っているような錯覚に襲われ、頭がくらくらした。今聴いても衝撃度はさほど変わらない。...
[続きを読む](2011.12.19) -
「ピアノのパガニーニ」による華麗なコンチェルト 交響詩の創始者であるハンガリー出身の作曲家フランツ・リストが、生前、超絶的な技術を誇るヴィルトゥオーゾ・ピアニストとして名声をほしいままにしていたことはよく知られている。「ピアノのパガニーニ」を目指していたという彼が書いたピアノ作品は難易度の高いものが多く、とりわけ「超絶技巧練習曲」など、これを音楽的に申し分な...
[続きを読む](2011.11.01) -
牢獄のような人生からの飛翔 今、カリンニコフの名前はどれくらい知られているのだろうか。同じ国のボロディン、ムソルグスキー、リムスキー=コルサコフ、チャイコフスキー、ラフマニノフといった人たちに比べると、圧倒的に知名度は劣るし、作品の数自体も少ない。かといってマイナーな作曲家かというと、そうとも言えない。彼の代表作である交響曲第1番は、1897年の初演時から好...
[続きを読む](2011.05.21) -
涸れることを知らぬ旋律の泉 アントニン・ドヴォルザークは、1841年9月8日、豊かな自然に囲まれたモルダウ河ほとりのネラホゼヴェス村で生まれた。家は肉屋兼居酒屋。彼は幼い頃から楽器に親しみ、音楽家として生きることを望むが、父親に言われるまま肉屋職人としての資格を取得した。しかし最終的に父親が折れ、18歳のドヴォルザークはプラハの小さな楽団のヴィオラ奏者となり...
[続きを読む](2011.04.11)