「ブラームス」と一致するもの

  •  夭折した天才は何かにつけ悲劇の主人公のように語られがちである。ウィリアム・カペルも例外ではない。不気味なエピソードも彼の人生に深刻な悲劇性を付与している。それは、彼がユージン・リストと共に占い師に運勢をみてもらったという話。その時、彼はこういわれた。「彗星のような経歴だろうが、真に望むものは手に入らない。そして30歳前に衝撃的な死をとげるだろう」ーーこの占...

    [続きを読む](2012.01.30)
  • サラサーテのために サン=サーンスのヴァイオリン協奏曲第3番は、「ツィゴイネルワイゼン」の作曲者としても知られる名手パブロ・デ・サラサーテのために書かれた。ベートーヴェンがフランツ・クレメントのために、メンデルスゾーンがフェルディナンド・ダヴィッドのために、ブラームスがヨーゼフ・ヨアヒムのために、チャイコフスキーがレオポルト・アウアーのためにヴァイオリン協奏...

    [続きを読む](2011.11.21)
  •  ジネット・ヌヴーのヴァイオリンは胸を突き刺すような鋭い音で聴く者をとらえて離さない。フレーズのどこを切っても鮮血が飛び散りそうなほど熱い情熱が脈打っている。ただし、エモーショナルで尖った音だけがヌヴーの個性というわけではない。彼女の演奏家としての特性はむしろ、火を噴くような荒々しいパトスの奔出、集中力に支えられた逞しい造型感、油絵のような色彩感が統合された...

    [続きを読む](2011.10.10)
  •  グラインドボーン音楽祭のメンバーを起用した1930年代のオペラ録音(『フィガロの結婚』『コジ・ファン・トゥッテ』『ドン・ジョヴァンニ』)の中では、『コジ・ファン・トゥッテ』が抜群に素晴らしい。これは『コジ』演奏史に残る屈指の名演である。カットの問題はあるが、『コジ』がここまで生き生きと演奏され、歌手たちのエネルギーが躍動している例はほとんどない。 このオペ...

    [続きを読む](2011.09.09)
  •  シカゴ響との録音の中では、ベートーヴェンとR.シュトラウスの演奏が傑出している。この2人の作曲家のものなら何を聴いてもハズレはないが、ベートーヴェンの交響曲第5番「運命」、第9番「合唱」、序曲「コリオラン」、R.シュトラウスの『英雄の生涯』、『ドン・キホーテ』、『エレクトラ』(抜粋)、『ドン・ファン』(ステレオ盤)は、同曲屈指の名盤として傾聴に値する。奇を...

    [続きを読む](2011.08.06)
  • ベートーヴェンも愛した「短調のモーツァルト」 明るく、無邪気なモーツァルトしか知らない人は、悲しみ悶え苦しむ「短調のモーツァルト」の存在を知った時、少なからず驚くに違いない。生活の匂いを感じさせない、まるで天使が書いたような長調の作品は、モーツァルトが〈神の子〉であったことを伝えているが、暗い情熱が波打つ短調の作品は、モーツァルトがまぎれもなく苦悩する〈人間...

    [続きを読む](2011.06.29)
  •  クナッパーツブッシュが作り出す音楽は構えが大きい。テンポは概して遅め。しかし緊張感を失うことはない。響きは重厚でがっしりとしているが、時折えもいわれぬ透明感を帯び、聴き手に息を呑ませる。 スタジオ録音の代表盤は、ワーグナーの『ワルキューレ第一幕』『ヴェーゼンドンク歌曲集』、コムツァーク2世の「バーデン娘」などが入った名演集。全てオーケストラはウィーン・フィ...

    [続きを読む](2011.05.10)
  •  ハンス・クナッパーツブッシュは1888年3月12日、ドイツのエルバーフェルトに生まれた。幼い頃から音楽に親しみ、12歳の時に児童オーケストラを指揮、いつしかオペラ指揮者を夢見るようになる。親からは音楽の道に進むことを反対されるが、1908年、ボン大学で学業を修めることを条件に、ケルン音楽院に通う許しを得る。音楽院ではブラームスと親交のあったフリッツ・シュタ...

    [続きを読む](2011.05.10)
  •  カイルベルトについて語る時に決まって出てくる言葉は「質実剛健」「無骨」といったものばかり。渋いと評する人もいるが、それも褒め言葉ではなく単に「地味」「色気がない」の裏返しとして言っているだけ。これには本人のジャガイモみたいな風采も少しは影響しているのかもしれない。 そのイメージが変わってきたのはワーグナーの『指環』のバイロイト・ライヴ音源が発売されてからで...

    [続きを読む](2011.04.28)
  •  ワルター・ギーゼキングの「皇帝」といえば、ヘルベルト・フォン・カラヤン/フィルハーモニア管弦楽団と組んだ録音が有名である。昔から名演として知られているので、聴いたことがある人も多いだろう。アルチェオ・ガリエラ/フィルハーモニア管弦楽団との録音もあるが、こちらはカラヤン盤に比べると薄味すぎて物足りない。そこが自己主張の強いベートーヴェンらしくなくてかえって良...

    [続きを読む](2011.04.13)
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