「モーツァルト」と一致するもの

  •  ジノ・フランチェスカッティのヴァイオリンは聴く者を幸福な気分にさせる。その音は豊潤で、艶やかで、屈託がない。深刻ぶったところもない。心地よさを伴いながら耳の中にすべりこみ、鼓膜に浸透し、全身に行き渡る。深みが足りないとか、精神性に欠けるという人もいるが、根が明るく解放感に満ちたヴァイオリンにそんなものを求めるのは野暮というものである。 1902年8月9日、...

    [続きを読む](2013.05.14)
  • シューベルトやムソルグスキーにもつながる宇宙 『ディアベリの主題による33の変奏曲』、略して『ディアベリ変奏曲』は、1823年に出版されたピアノ作品で、J.S.バッハの『ゴールドベルク変奏曲』と共に、変奏曲史上の最高傑作といわれている。原題は〈33 Veränderungen über einen Walzer von A.Diabelli〉。意図的に〈Ve...

    [続きを読む](2013.05.01)
  • イリアとオクタヴィアン 『イドメネオ』のユリナッチは文句なしに素晴らしい。その声の美質を遺憾なく発揮している。役と声の間にここまで親和性を感じさせる例も珍しい。このイリアがいれば、ほかのイリアはいらない、といいたくなるほどだ。音質は1956年に録音されたものの方が良いが、ジョン・プリッチャードの指揮が緩いのが難点である。 ユリナッチの美質は、『蝶々夫人』(1...

    [続きを読む](2013.02.25)
  • モーツァルトの小さな宝石 ザルツブルクの宮廷音楽家として窮屈な思いをしながら働いていた1776年、モーツァルトは多くの機会音楽を作曲した。セレナード「セレナータ・ノットゥルナ」もその中のひとつである。作曲の動機は何なのか、誰のために書かれたのかは明らかにされていない。「セレナータ・ノットゥルナ」というのも、父レオポルトによってモーツァルトの自筆譜に書かれた名...

    [続きを読む](2013.01.28)
  • 高度な簡潔さ ハイドンの交響曲の中で、個人的に最も愛聴しているのは第88番ト長調「V字」である。有名な第94番ト長調「驚愕」、第100番ト長調「軍隊」、第101番ニ長調「時計」、第104番ニ長調「ロンドン」などもよく聴くが、「V字」にはハイドンの美質がきれいに無駄なく詰まっていて、聴きやすい。簡潔さの中に音楽的内容の充実度と自由度がある。非常に中毒性の高い作...

    [続きを読む](2012.12.20)
  • チェボターリの後継者 美貌と美声と才能に恵まれ、究極の才色兼備を体現した名歌手である。早世したマリア・チェボターリの正当な後継者といってもいい。その声は艶があって美しいだけでなく、清潔感があり、しかも聴き手の耳を威圧することなく、ホールの隅々にまで響くような浸透性を備えている。レガートのなめらかさも特筆もので、歌い口に気品がある。そして歌詞の世界を、理智的な...

    [続きを読む](2012.11.28)
  • シンプルで、愛おしい歌 先日、部屋の片付けをしていたら、2001年から2010年までに行ったコンサートのパンフレットが大量に出てきた。今は仕事の関係もあり、平日にコンサートに行くことはほとんど不可能な状態にあるが、かつては月に何度もホールへ足を運んだものである。パンフレットを整理していると、思い出に包まれ、懐かしい気持ちになる。 その中でひときわ皺くちゃにな...

    [続きを読む](2012.11.11)
  • 聴いてすぐそれと分かる声 かつてEMIのプロデューサー、ウォルター・レッグはマリア・カラスについてこのように評した。「カラスは、偉大なキャリアを築くための必要条件、聴いてすぐそれと分かる声の持ち主だった」 偉大な歌手の定義はいろいろあるだろうが、「聴いてすぐそれと分かる声」(an instantly recognizable voice)を所有していることが...

    [続きを読む](2012.09.20)
  • 若き日に書いた〈最初の傑作〉 若きベートーヴェンが書いた傑作である。ベートーヴェンのピアノ協奏曲というと第4番、第5番「皇帝」がポピュラーだが、私が最も好んで聴くのは第1番である。文字通り〈爽快〉かつ〈壮快〉な作品で、全体を通して聴いた後、重さもアクも残らない。思索的な面では、後期の作品に比べて物足りないという人もいるかもしれない。ただ、何も考えたくない時、...

    [続きを読む](2012.09.04)
  • バロックの「疾走する悲しみ」 ストラヴィンスキーはヴィヴァルディのことを「同じ協奏曲を400曲も書いた」と評した。どれもこれも同じにしか聞こえないという皮肉である。たしかに、作品3『調和の霊感』、作品4『ラ・ストラヴァガンツァ』、『四季』を含む作品8『和声と創意への試み』、作品9『ラ・チェトラ』を目隠しで聴いて、どの曲がどの協奏曲集の何番目の作品の何楽章かい...

    [続きを読む](2012.07.01)
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