「モーツァルト」と一致するもの

  •  「ディヌ・リパッティには聖者のような風格があった」ーーこれは有名なリパッティ論の冒頭を飾る一文である。執筆者はEMIの大プロデューサーであり、文筆家としても知られたウォルター・レッグ。その文章からは、リパッティの才能と人間性に対する敬愛の情が強い調子で伝わってくる。原稿は1951年に「追悼文」として発表されたが、今でもしばしばライナーノーツに使われており、...

    [続きを読む](2012.05.23)
  • 恋人たちの学校 『コジ・ファン・トゥッテ』の作曲者には元々サリエリが予定されていた。しかし、サリエリが降りたため、モーツァルトに依頼が回ってきた。モーツァルトの書簡や妻コンスタンツェの証言によると、サリエリがモーツァルトに対して敵意と嫉妬を抱きはじめたのは、このオペラの初演(1790年1月26日)が成功を収めた時からだという。 ひと言でいえば不道徳なオペラで...

    [続きを読む](2012.03.13)
  • 奇蹟の楽想 シューベルトは31歳で亡くなったが、その短い生涯に人が何年生きても書けないような神韻縹渺たる傑作をいくつも完成させた。途方もない音楽的深度を獲得したそれらの作品は、私たちの心の暗部にまで届き、孤独感や苦悩や渇望と呼応し、調和的な余韻で満たす。作曲家に対して共感以上のもの、友情すら感じさせるような親密さと清廉さがその音楽には潜んでいる。 交響曲第9...

    [続きを読む](2012.02.22)
  •  夭折した天才は何かにつけ悲劇の主人公のように語られがちである。ウィリアム・カペルも例外ではない。不気味なエピソードも彼の人生に深刻な悲劇性を付与している。それは、彼がユージン・リストと共に占い師に運勢をみてもらったという話。その時、彼はこういわれた。「彗星のような経歴だろうが、真に望むものは手に入らない。そして30歳前に衝撃的な死をとげるだろう」ーーこの占...

    [続きを読む](2012.01.30)
  •  マリア・ユーディナはスターリンお気に入りのピアニストだった。彼女が録音したモーツァルトのピアノ協奏曲第23番は、スターリンの求めに応じて演奏されたものである。ただ、ユーディナは舌禍の多い人で、幾度となく当局とやり合っているような女傑だった。スターリンに対しても批判的な言動を繰り返していた。レコードの謝礼を受け取る時、彼女は礼状にこう書いたという。「ご助力を...

    [続きを読む](2011.12.27)
  • この取り合わせはかなり美味 こんな曲を書く人間が、本当にこの世に生きていたのだろうか。モーツァルトの音楽を聴いて、そういう感慨にとらわれたことのある人はたくさんいると思う。そこまで感じさせる異常な美しさ、深さといったものが、たしかに彼が遺したいくつかの作品にはある。 さらに、モーツァルトの場合、遺された手紙や関係者の証言から推察できる人物像にとらえどころがな...

    [続きを読む](2011.12.06)
  • 恍惚と狂気の果てに バッハを聴いても、モーツァルトを聴いても、ベートーヴェンを聴いても、あるいはマーラーやバルトークを聴いても、全く心が満たされないことがある。音楽が、というより、音楽を聴くという行為自体が、自分の心理状態とあまりにかけ離れているためである。そんな時はたいていどんな種類の音楽を聴いても満足できない。かといって、無音でいるのも物足りない。 そこ...

    [続きを読む](2011.10.07)
  • モーツァルトの私小説 作曲家の人生に起こった出来事と結びつけて作品を論じようとするのは、必ずしも有効な方法とは言えない。「この人は当時こういう生活をしていたからこういう作品を書いた」という説明がしっくりくる作品もたしかにあるが、実人生とは連結し得ない純粋にイマジネイティヴな作品、天啓のようなインスピレーションから生まれた作品も無数にあるのだ。とくに、モーツァ...

    [続きを読む](2011.09.19)
  •  グラインドボーン音楽祭のメンバーを起用した1930年代のオペラ録音(『フィガロの結婚』『コジ・ファン・トゥッテ』『ドン・ジョヴァンニ』)の中では、『コジ・ファン・トゥッテ』が抜群に素晴らしい。これは『コジ』演奏史に残る屈指の名演である。カットの問題はあるが、『コジ』がここまで生き生きと演奏され、歌手たちのエネルギーが躍動している例はほとんどない。 このオペ...

    [続きを読む](2011.09.09)
  •  フリッツ・ブッシュのキャリアの全盛期は戦前である。残された音源は当然モノラルで、キズもある。極端に古い音源は、現代のテクノロジーを駆使しても大した改善は望めない。下手に加工しても音が不自然にツルツルしてしまい、興ざめするだけだ。だから結局古いままで聴くほかない。にもかかわらず、演奏があまりに魅力的なために、聴いているうちに音質のハンデを忘れてしまう。193...

    [続きを読む](2011.09.08)
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