「絵」と一致するもの

  •  フリッツ・ライナーの指揮は動きが小さく、後方にいる楽団員たちからは非常に見づらかったという。そのせいで彼らは常に緊張を強いられ、戦々恐々とし、周囲の音に注意を払っていなければならなかった。その結果として、集中力が極限まで高められ、アンサンブルの緊密さが増し、無駄な贅肉のない音楽が生み出された。指揮棒を1センチ動かすだけで稲妻のような強奏を炸裂させるそのスタ...

    [続きを読む](2011.08.05)
  • 2人の女優 『女は二度生まれる』は若尾文子主演作。無欲でお人よしの芸者、小えんが様々な男たちと関係を結ぶことで少しずつ女として変化してゆくプロセスを描く。諸行無常の人間模様をこまやかに映し出す川島雄三の演出がすばらしい。若尾の魅力も十二分に引き出されており、難役にぴったりとはまっている。 撮影現場での川島について、若尾は川本三郎との対談でこう語っている。「ダ...

    [続きを読む](2011.06.26)
  •  実用性の観点からすれば全く理に適っていない選択肢、道具に愛着を持ってしまうタイプの人間が世の中には存在する。全くもって非能率的で非生産的! ナンセンス! ダカラモテナイノサ! そう罵られたとしても寂しげな笑いを浮かべ、静かに頭を下げるしかないコダワリの持ち主達。それは例えば1000円くらいで売っているクォーツやデジタル時計の方が遥かに正確なのに、わざわざ数...

    [続きを読む](2011.06.25)
  •  春風の吹く日本のとある町。長い階段を数えながらのぼっている一人の少年の姿がある。「88、89、90......」 そこへ赤い麦わら帽子が風に飛ばされてくる。少年はジャンプして帽子をつかむ。すると、階段の上の方から声が聞こえてくる。「ナイスキャッチ」 少年が見上げるとそこには少女が立っている。 転校生・春日恭介と鮎川まどかの出会いのシーンだ。 恭介は階段をの...

    [続きを読む](2011.06.18)
  •  ルキーノ・ヴィスコンティの映画はしばしば「絢爛たる」とか「格調高い」と形容される。しかし、クラシカルな雰囲気を漂わせた外観の内側には、秩序のないエネルギーが散乱している。多くの古典がそうであるように、彼の映画もまた現代的な「おさまりの良さ」を知らない。そこが魅力である。 その作品は、全体のまとまり具合や演出の巧みさで語られるより、美学の観点から語られる方が...

    [続きを読む](2011.06.15)
  • 音楽で愉しむアラビアン・ナイト 昔々、ペルシアの王様シャハリアールは、妃の浮気がもとで女性不信に陥ってしまいました。王様は妃を殺してしまうと、それ以来、毎日のように城下から娘を連れてこさせました。一晩だけ過ごして、殺すためです。ある日、大臣の娘シェヘラザードが差し出されることになりました。しかし、彼女はほかの娘とは違いました。知性に富んだ彼女は、王様の寝室で...

    [続きを読む](2011.06.12)
  •  高橋愛率いるモーニング娘。が著しい成長を遂げたのは、それだけ場数を踏んできたからだろう。観客の反応がダイレクトに返ってくる空間で、メンバー同士なれ合うことなく何年も真剣勝負をしていれば、おのずから集中力もつき、見せ方も聴かせ方もグレードアップする。 とはいえ、やはり実際に観ないことには確信が持てないので、コンサートへ行ってみることにした。メンバーの卒業を控...

    [続きを読む](2011.06.11)
  •  シドニー・ルメットの代表作というと、大半の人は『十二人の怒れる男』を挙げるだろう。アル・パチーノが好きな人なら『狼たちの午後』や『セルピコ』を選ぶかもしれない。いずれも硬派な社会派作品として知られ、評価も高い。 ただ、身も蓋もないことを書くようだが、私自身はこの監督に何の思い入れもない。社会派と言われているわりにはシャープさが足りないし、そこまで社会の深層...

    [続きを読む](2011.04.30)
  •  声が聞こえないなんて、と不満を漏らす人もいるだろうが、顔の表情、体の動作、仕草、字幕で全てを表現するサイレント映画は、意外なほど雄弁である。声を媒介としない分、登場人物の心情がそのまま画面から迫り伝わってくる。そして絵画でも見ているかのように想像力が刺激される。1920年代を〈映画の黄金時代〉と呼ぶ人がいるのも、いまだに先鋭的な作品でサイレント的手法が好ん...

    [続きを読む](2011.04.10)
  •  ジャン・コクトーはレオナルド・ダ・ヴィンチの系譜に属する最後の万能人である。詩、小説、戯曲、評論、絵画、陶芸、彫刻、舞台演出、映画監督、バレエ制作などなど、多方面で大きな功績を残した。人呼んで〈20の顔を持つ男〉。そんな彼にあえてひとつだけ肩書きを与えるとすれば、やはり詩人ということになるだろう。その溢れかえる才能から生まれたオブジェは、言ってみれば全て〈...

    [続きを読む](2011.04.06)
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