花の絵

　中北千枝子は成瀬巳喜男監督の映画に欠かせない名脇役である。演じるのは、大体家庭に問題を抱えている奥さんや出戻りの役で、本人も「なんかシケた役が多いんですよね。まともな役ってないんですよね」と語っている。　例えば、『山の音』（1954年）で演じている役は、子供を連れて家出し、実家にやってきた女。彼女はいろいろ辛い目にあってきたことで性格がささくれており、父親...

視点の正確さ　新しい一つの人生、すなわち、結婚後の生活を描く小津監督の視点は、正確さを志向している。そこには結婚や家族を美化する描写はない。むしろ、分かり合えない者たちが同居している雰囲気すら漂っている。それがいろいろなことを経て、時間をかけながら、「本当の夫婦」ないし「本当の家族」になっていく。『お茶漬の味』（1952年）や『早春』などは、そのプロセスを強...

　昭和20年5月24日、東京大空襲の夜に出会った男と女。2人は名を告げることなく、数寄屋橋の上で半年後に会うことを約束する。それが長く険しい悲恋の道の始まりとも知らずに......。　やがて戦争が終わり、約束の11月24日を迎えた。橋の上では男が女を待っている。同じ頃、女は佐渡で不本意な結婚を迫られていた。ようやく2人が会えたのは、さらに1年が経ってからのこ...