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  •  『新帰朝者の日記』では、西洋化の現状について、「日本の学者は西洋と違つて皆貧乏ですから、生活問題と云ふ事が微妙な力で其の辺の処を調和させて行くのです」と妥協的なことを言う者に対し、帰朝者は「いつの世も殉教者の気概がなけりやア駄目です」と突っぱねる。その際、作者は謙遜してこの言葉を「書生の慨嘆」と表現した。たしかに「殉教者の気概」は大げさな表現だが、その後の...

    [続きを読む](2017.09.02)
  •  アナトール・フランスの『神々は渇く』は、フランス革命期の恐怖政治とそれに巻き込まれる人々を描いた歴史小説で、1911年11月から1912年1月にかけて『パリ評論』誌に掲載され、1912年6月に単行本として刊行された。多くの資料に基づいて組まれたそのプロットは老練、緻密な風俗描写は圧巻というほかなく、読者を一人残らず18世紀末の騒乱の体験者にしてしまうような...

    [続きを読む](2017.05.06)
  • 『夏花』の死 1940年3月、詩集『夏花』が出版された。これは『わがひとに與ふる哀歌』から、さらに一歩成熟したことをうかがわせる内容だ。巻頭に置かれているのは、三島由紀夫が「もつとも音楽的な、新古今集以来もつともきらびやかな日本語で書かれた、あの、ほとんど意味のない、空しいほどに明るい」と評した「燕」である。 「夕の海」と「燈臺の光を見つつ」は、灯台に照らさ...

    [続きを読む](2014.06.21)
  •  新左翼に大きな影響を与えた哲学者、ヘルベルト・マルクーゼの代表的著作に『エロス的文明』がある。これは1955年に出版され、ベストセラーになり、3年後には邦訳も出た。三島由紀夫は1959年1月に季刊誌『声』でこれを取り上げて痛烈に批判し、その思想を「非歴史的な途方もない、天体望遠鏡のやうな客観性」と皮肉っている。抑圧からの解放、反体制を唱える人はいつの時代に...

    [続きを読む](2012.10.20)
  •  磯田光一の最初の評論集『殉教の美学』は、単に情熱的な作家論というにとどまらず、示唆に富んだ戦後論であり、日本人論である。初めてこれを読む人は、その鋭く殺気立った論調に当惑し、「ここまで断定的に書いていいのか」と思うかもしれない。しかし、底流には豊かな知性が広がっていて、戦後の日本人の思考を読み解く上で非常に興味深いキーワードが随所にちりばめられている。 磯...

    [続きを読む](2012.10.13)
  •  2012年5月22日、吉田秀和氏が急性心不全のため亡くなった。その5日後の日曜日、私は新しいパソコンを買うために行った家電屋で、このニュースを知った。ネットがちゃんとつながるかどうか店員さんに確認してもらっている時、アクセスした某ポータルサイトのトップページに載っていたのである。「音楽評論家の吉田秀和氏死去」 高校の図書室にあった吉田秀和全集を思い出す。 ...

    [続きを読む](2012.06.02)
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