音楽 POP/ROCK

トーク・トーク 『カラー・オブ・スプリング』

2012.06.20
トーク・トーク
『カラー・オブ・スプリング』
1986年作品

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 ポストパンク期の英国のアーティストの中には、アメリカでのブレイクを機にコマーシャルな路線に進んだシンプル・マインズ、或いは直球のハードロックに接近していったザ・カルトなどなど、初期のユニークさを少なからず失ってしまった例が少なくない。かと思えば逆に、年を追うごとに非商業的な表現を極めた例もあって、デヴィッド・シルヴィアンやジュリアン・コープがその代表格だろうか。ここにご紹介するトーク・トークは、後者の中でも極端なケースに当たる。1981年に結成され、翌年アルバム『パーティーズ・オーヴァー』でデビューしたこのロンドン出身の4人組は、当時はシンセポップ/ニュー・ロマンティック・バンドとしてデュラン・デュランらと並び称され、同作からの「トーク・トーク」やセカンド『イッツ・マイ・ライフ』の表題曲(あのノー・ダウトもカバーした)が欧州を中心に次々ヒットを記録。アメリカでもダンスチャートを荒らしたものだ。そんなバンドが次第に実験的志向を強めて、のちにいわゆるポストロックの先駆者と称賛されるようになるとは、誰も予想できなかったはずだ。

 彼らのキャリアを振り返ってみると、ちょうど過渡期にあたるのが、1986年に登場したサード『カラー・オブ・スプリング』だった。この時点でバンドはマーク・ホリス(ヴォーカル)、リー・ハリス(ドラムス)、ポール・ウェブ(ベース)のトリオ編成で、前作でコラボし始めたキーボード・プレイヤー兼プロデューサー=ティム・フリース・グリーンが大きな役割を果たしている。また、印象的な鍵盤の音はスティーヴ・ウィンウッドが提供する一方、プリテンダーズのロビー・マッキントッシュがギター、フォーク/ジャズ畑のダニー・トンプソンがベース、シャーデーとのコラボが有名なマーティン・ディチャムがパーカッションを担当したりと名プレイヤーたちを総動員。ジャズ、クラシック、フォーク、クラウトロックほか幅広い影響源からアイデアを引いて、シンセ+ビートのコンビネーションから自分たちを解放し、ピアノやホーン、アコースティック・ベースなどなどオーガニックな材料の数々を織り交ぜて、合唱団を随所に配し、空間とテクスチュアで音を描く実験に乗り出したのである。そして完成したのは、メロディックでグルーヴ感の強いポップソングの形を保ちながら、広大なサウンドスケープにマークの柔らかなテノール・ヴォイスが浮遊するアートポップ。〈プログレッシヴ・ポップ〉なんて言い方もできるのかもしれない。

 このような大胆な変化を経たにもかかわらず、シングルカットされた名曲「ライフ・イズ・ホワット・ユー・メイク・イット」(こちらはなんとウィーザーがカバーしている)がUKトップ20入りを果たし、アルバムもキャリア最高の全英チャート8位を記録。ゴールド・セールスを達成したおかげで、トーク・トークは4作目に着手するにあたってレーベルからたっぷり製作費を引き出し、今度はインプロ主体で1年以上を費やして、アンビエント色を強めたフリーフォームなアルバム『スピリット・オブ・エデン』(1988年)を録音。専ら最高傑作と目されている作品である。さらに5作目『ラフィング・ストック』(1991年)で一層アブストラクト&ミニマルに進化した彼ら、海外のメディアではしばしば10年後に同様の軌跡を辿ったレディオヘッドと比較されており、実際、『カラー・オブ・スプリング』が『OKコンピューター』、『スピリット・オブ・エデン』が『キッドA』、『ラフィング・ストック』が『アムニージアック』に相当する......と評することも可能だろう。ただレディオヘッドと異なるのは、残念なことにバンドが解散してしまったという点だ。しかもマークは『ラフィング・ストック』の延長上にあるソロ・アルバム『マーク・ホリス』を1998年に発表したのち、この年にデビューしたエルボーらにDNAを引き継ぐと、音楽界から引退。そのことが余計にトーク・トークに神話性を与えているのかもしれないが、『カラー・オブ・スプリング』以降の彼らの作品のカテゴライズ不能なストレンジさは、少しも薄れていない。それによくよく考えてみると、『パーティーズ・オーヴァー』のジャケットの、両目を唇で置き換えた顔のイラストもなんだかプログレっぽくて。実は最初からストレンジなバンドだったんだろう。
(新谷洋子)


【関連サイト】
トーク・トーク
『カラー・オブ・スプリング』収録曲
01. Happiness Is Easy/02. I Don't Believe in You/03. Life's What You Make It/04. April 5th/05. Living in Another World/06. Give It Up/07. Chameleon Day/08. Time It's Time

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