トーク・トーク 『カラー・オブ・スプリング』
2012.06.20
トーク・トーク
『カラー・オブ・スプリング』
1986年作品
彼らのキャリアを振り返ってみると、ちょうど過渡期にあたるのが、1986年に登場したサード『カラー・オブ・スプリング』だった。この時点でバンドはマーク・ホリス(ヴォーカル)、リー・ハリス(ドラムス)、ポール・ウェブ(ベース)のトリオ編成で、前作でコラボし始めたキーボード・プレイヤー兼プロデューサー=ティム・フリース・グリーンが大きな役割を果たしている。また、印象的な鍵盤の音はスティーヴ・ウィンウッドが提供する一方、プリテンダーズのロビー・マッキントッシュがギター、フォーク/ジャズ畑のダニー・トンプソンがベース、シャーデーとのコラボが有名なマーティン・ディチャムがパーカッションを担当したりと名プレイヤーたちを総動員。ジャズ、クラシック、フォーク、クラウトロックほか幅広い影響源からアイデアを引いて、シンセ+ビートのコンビネーションから自分たちを解放し、ピアノやホーン、アコースティック・ベースなどなどオーガニックな材料の数々を織り交ぜて、合唱団を随所に配し、空間とテクスチュアで音を描く実験に乗り出したのである。そして完成したのは、メロディックでグルーヴ感の強いポップソングの形を保ちながら、広大なサウンドスケープにマークの柔らかなテノール・ヴォイスが浮遊するアートポップ。〈プログレッシヴ・ポップ〉なんて言い方もできるのかもしれない。
このような大胆な変化を経たにもかかわらず、シングルカットされた名曲「ライフ・イズ・ホワット・ユー・メイク・イット」(こちらはなんとウィーザーがカバーしている)がUKトップ20入りを果たし、アルバムもキャリア最高の全英チャート8位を記録。ゴールド・セールスを達成したおかげで、トーク・トークは4作目に着手するにあたってレーベルからたっぷり製作費を引き出し、今度はインプロ主体で1年以上を費やして、アンビエント色を強めたフリーフォームなアルバム『スピリット・オブ・エデン』(1988年)を録音。専ら最高傑作と目されている作品である。さらに5作目『ラフィング・ストック』(1991年)で一層アブストラクト&ミニマルに進化した彼ら、海外のメディアではしばしば10年後に同様の軌跡を辿ったレディオヘッドと比較されており、実際、『カラー・オブ・スプリング』が『OKコンピューター』、『スピリット・オブ・エデン』が『キッドA』、『ラフィング・ストック』が『アムニージアック』に相当する......と評することも可能だろう。ただレディオヘッドと異なるのは、残念なことにバンドが解散してしまったという点だ。しかもマークは『ラフィング・ストック』の延長上にあるソロ・アルバム『マーク・ホリス』を1998年に発表したのち、この年にデビューしたエルボーらにDNAを引き継ぐと、音楽界から引退。そのことが余計にトーク・トークに神話性を与えているのかもしれないが、『カラー・オブ・スプリング』以降の彼らの作品のカテゴライズ不能なストレンジさは、少しも薄れていない。それによくよく考えてみると、『パーティーズ・オーヴァー』のジャケットの、両目を唇で置き換えた顔のイラストもなんだかプログレっぽくて。実は最初からストレンジなバンドだったんだろう。
【関連サイト】
トーク・トーク
『カラー・オブ・スプリング』
1986年作品
ポストパンク期の英国のアーティストの中には、アメリカでのブレイクを機にコマーシャルな路線に進んだシンプル・マインズ、或いは直球のハードロックに接近していったザ・カルトなどなど、初期のユニークさを少なからず失ってしまった例が少なくない。かと思えば逆に、年を追うごとに非商業的な表現を極めた例もあって、デヴィッド・シルヴィアンやジュリアン・コープがその代表格だろうか。ここにご紹介するトーク・トークは、後者の中でも極端なケースに当たる。1981年に結成され、翌年アルバム『パーティーズ・オーヴァー』でデビューしたこのロンドン出身の4人組は、当時はシンセポップ/ニュー・ロマンティック・バンドとしてデュラン・デュランらと並び称され、同作からの「トーク・トーク」やセカンド『イッツ・マイ・ライフ』の表題曲(あのノー・ダウトもカバーした)が欧州を中心に次々ヒットを記録。アメリカでもダンスチャートを荒らしたものだ。そんなバンドが次第に実験的志向を強めて、のちにいわゆるポストロックの先駆者と称賛されるようになるとは、誰も予想できなかったはずだ。
彼らのキャリアを振り返ってみると、ちょうど過渡期にあたるのが、1986年に登場したサード『カラー・オブ・スプリング』だった。この時点でバンドはマーク・ホリス(ヴォーカル)、リー・ハリス(ドラムス)、ポール・ウェブ(ベース)のトリオ編成で、前作でコラボし始めたキーボード・プレイヤー兼プロデューサー=ティム・フリース・グリーンが大きな役割を果たしている。また、印象的な鍵盤の音はスティーヴ・ウィンウッドが提供する一方、プリテンダーズのロビー・マッキントッシュがギター、フォーク/ジャズ畑のダニー・トンプソンがベース、シャーデーとのコラボが有名なマーティン・ディチャムがパーカッションを担当したりと名プレイヤーたちを総動員。ジャズ、クラシック、フォーク、クラウトロックほか幅広い影響源からアイデアを引いて、シンセ+ビートのコンビネーションから自分たちを解放し、ピアノやホーン、アコースティック・ベースなどなどオーガニックな材料の数々を織り交ぜて、合唱団を随所に配し、空間とテクスチュアで音を描く実験に乗り出したのである。そして完成したのは、メロディックでグルーヴ感の強いポップソングの形を保ちながら、広大なサウンドスケープにマークの柔らかなテノール・ヴォイスが浮遊するアートポップ。〈プログレッシヴ・ポップ〉なんて言い方もできるのかもしれない。
このような大胆な変化を経たにもかかわらず、シングルカットされた名曲「ライフ・イズ・ホワット・ユー・メイク・イット」(こちらはなんとウィーザーがカバーしている)がUKトップ20入りを果たし、アルバムもキャリア最高の全英チャート8位を記録。ゴールド・セールスを達成したおかげで、トーク・トークは4作目に着手するにあたってレーベルからたっぷり製作費を引き出し、今度はインプロ主体で1年以上を費やして、アンビエント色を強めたフリーフォームなアルバム『スピリット・オブ・エデン』(1988年)を録音。専ら最高傑作と目されている作品である。さらに5作目『ラフィング・ストック』(1991年)で一層アブストラクト&ミニマルに進化した彼ら、海外のメディアではしばしば10年後に同様の軌跡を辿ったレディオヘッドと比較されており、実際、『カラー・オブ・スプリング』が『OKコンピューター』、『スピリット・オブ・エデン』が『キッドA』、『ラフィング・ストック』が『アムニージアック』に相当する......と評することも可能だろう。ただレディオヘッドと異なるのは、残念なことにバンドが解散してしまったという点だ。しかもマークは『ラフィング・ストック』の延長上にあるソロ・アルバム『マーク・ホリス』を1998年に発表したのち、この年にデビューしたエルボーらにDNAを引き継ぐと、音楽界から引退。そのことが余計にトーク・トークに神話性を与えているのかもしれないが、『カラー・オブ・スプリング』以降の彼らの作品のカテゴライズ不能なストレンジさは、少しも薄れていない。それによくよく考えてみると、『パーティーズ・オーヴァー』のジャケットの、両目を唇で置き換えた顔のイラストもなんだかプログレっぽくて。実は最初からストレンジなバンドだったんだろう。
(新谷洋子)
【関連サイト】
トーク・トーク
『カラー・オブ・スプリング』収録曲
01. Happiness Is Easy/02. I Don't Believe in You/03. Life's What You Make It/04. April 5th/05. Living in Another World/06. Give It Up/07. Chameleon Day/08. Time It's Time
01. Happiness Is Easy/02. I Don't Believe in You/03. Life's What You Make It/04. April 5th/05. Living in Another World/06. Give It Up/07. Chameleon Day/08. Time It's Time
月別インデックス
- October 2024 [1]
- September 2024 [1]
- August 2024 [1]
- July 2024 [1]
- June 2024 [1]
- May 2024 [1]
- April 2024 [1]
- March 2024 [1]
- February 2024 [1]
- January 2024 [1]
- December 2023 [1]
- November 2023 [1]
- October 2023 [1]
- September 2023 [1]
- August 2023 [1]
- July 2023 [1]
- June 2023 [1]
- May 2023 [1]
- April 2023 [1]
- March 2023 [1]
- February 2023 [1]
- January 2023 [1]
- December 2022 [1]
- November 2022 [1]
- October 2022 [1]
- September 2022 [1]
- August 2022 [1]
- July 2022 [1]
- June 2022 [1]
- May 2022 [1]
- April 2022 [1]
- March 2022 [1]
- February 2022 [1]
- January 2022 [1]
- December 2021 [1]
- November 2021 [1]
- October 2021 [1]
- September 2021 [1]
- August 2021 [1]
- July 2021 [1]
- June 2021 [1]
- May 2021 [1]
- April 2021 [1]
- March 2021 [1]
- February 2021 [1]
- January 2021 [1]
- December 2020 [1]
- November 2020 [1]
- October 2020 [1]
- September 2020 [1]
- August 2020 [1]
- July 2020 [1]
- June 2020 [1]
- May 2020 [1]
- April 2020 [1]
- March 2020 [1]
- February 2020 [1]
- January 2020 [1]
- December 2019 [1]
- November 2019 [1]
- October 2019 [1]
- September 2019 [1]
- August 2019 [1]
- July 2019 [1]
- June 2019 [1]
- May 2019 [1]
- April 2019 [2]
- February 2019 [1]
- January 2019 [1]
- December 2018 [1]
- November 2018 [1]
- October 2018 [1]
- September 2018 [1]
- August 2018 [1]
- July 2018 [1]
- June 2018 [1]
- May 2018 [1]
- April 2018 [1]
- March 2018 [1]
- February 2018 [1]
- January 2018 [2]
- November 2017 [1]
- October 2017 [1]
- September 2017 [1]
- August 2017 [1]
- July 2017 [1]
- June 2017 [1]
- May 2017 [1]
- April 2017 [1]
- March 2017 [1]
- February 2017 [1]
- January 2017 [1]
- December 2016 [1]
- November 2016 [1]
- October 2016 [1]
- September 2016 [1]
- August 2016 [1]
- July 2016 [1]
- June 2016 [1]
- May 2016 [1]
- April 2016 [1]
- March 2016 [1]
- February 2016 [1]
- January 2016 [1]
- December 2015 [2]
- October 2015 [1]
- September 2015 [1]
- August 2015 [1]
- July 2015 [1]
- June 2015 [1]
- May 2015 [1]
- April 2015 [1]
- March 2015 [1]
- February 2015 [1]
- January 2015 [1]
- December 2014 [1]
- November 2014 [1]
- October 2014 [1]
- September 2014 [1]
- August 2014 [1]
- July 2014 [2]
- June 2014 [1]
- May 2014 [1]
- April 2014 [1]
- March 2014 [1]
- February 2014 [1]
- January 2014 [1]
- December 2013 [2]
- November 2013 [1]
- October 2013 [1]
- September 2013 [2]
- August 2013 [2]
- July 2013 [1]
- June 2013 [1]
- May 2013 [2]
- April 2013 [1]
- March 2013 [2]
- February 2013 [1]
- January 2013 [1]
- December 2012 [1]
- November 2012 [2]
- October 2012 [1]
- September 2012 [1]
- August 2012 [2]
- July 2012 [1]
- June 2012 [2]
- May 2012 [1]
- April 2012 [2]
- March 2012 [1]
- February 2012 [2]
- January 2012 [2]
- December 2011 [1]
- November 2011 [2]
- October 2011 [1]
- September 2011 [1]
- August 2011 [1]
- July 2011 [2]
- June 2011 [2]
- May 2011 [2]
- April 2011 [2]
- March 2011 [2]
- February 2011 [3]