レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン 『レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン』
2012.12.07
レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン
『レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン』
1992年作品
特に彼らの場合、メンバー構成が多くを物語っている。ザックはメキシコ系アメリカ人で、ヒスパニックのアイデンティティを掘り下げる作品で知られた画家を父に持ち、トムの父は、母国ケニアの独立闘争で主導的役割を果たした人物のひとり。どちらも白人の住民が多い地区で育ち、人種差別を身をもって体験して、国内外の弱者に共感を抱いていた。よって彼らのイデオロギーは、圧倒的に左寄り。抑圧され搾取される人々に不服従と抵抗を訴えて、白人主導の体制が作り上げた歴史や価値観を拒絶し、真実は自分で見極めようーーと唱えたのが、このたびリリース20周年を記念して再発されたデビュー作『レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン』である。80年代半ばに台頭したヒップホップのコミュニケーション力に惚れ込んで、そこにハードコア・パンク的解釈を加えたザックのラップは、さながら釘爆弾、でなければ火炎瓶に似たDIY的な破壊力を備えていたが、それを縁どるのがビートやサンプルじゃなかったところに、RATMの先駆性があった。それどころか、本作には〈サンプル、キーボード、シンセは一切使われていない〉との但し書きが添えられ、平均的ロックファンとして子供の頃から親しんだメタル/ハードロック、例えばレッド・ツェッペリンやブラック・サバスにインスパイアされたラウドでヘヴィな音で、ラップのアグレッションを引き立てようとしたのである。彼らに先立ってパブリック・エナミーとアンスラックス、ランDMCとエアロスミスのコラボが見せたヒップホップとロックの互換性を、徹底的に掘り下げるべく。
世界中で多くのファンを惹き付け、本作をセールス600万枚の大ヒットにしたのも、もしかしたら政治的なメッセージ性ではなくて、この斬新なサウンドの威力だったのかもしれない。だが究極的に4人は、ヒットがもたらした影響力を活用して、自分たちにとって思い入れの深い問題(音楽作品の検閲制度導入、ネイティヴ・アメリカンの人権侵害などなど)を俎上に載せることに成功したのだから、狙い通りの結果に到達したと言えるんだろう。そもそも、アンチ商業主義を掲げながらソニーと契約したのも、敬愛するザ・クラッシュに倣って、大手レーベルのシステムを利用して出来る限り多くの人にメッセージを伝えようという理由から。また、RATMのそういう活動姿勢はアメリカのシーンでは唯一無二だったものの、実は海の向こうに、全く同じ理由でソニーと契約し、世界を変えてやろうと目論んだ同志がいたことも、今思うと興味深い。そう、数か月差でやはり1stアルバム『ジェネレーション・テロリスト』を発表し、同様に当時のUKロック界で完全に孤立していたマニック・ストリート・プリーチャーズである。表現方法は異なるが、労働者階級に属す彼らもやはり英国の1980年に対するリアクションとしてバンドを始め、左翼思想の持ち主であること、ラヴソングは書かないこと、ザ・クラッシュやパブリック・エネミーを敬愛していること......。共通項はたくさんある。ストイック極まりない両者の〈生き方〉は誰も簡単に真似できなかったようで、後継者がいないという点も然りだ。RATM自身も、結局、3枚のアルバムを発表したのちに解散。2007年に再結成し、ライヴを時折行ないつつ声を上げるべき時は声を上げる、という少々中途半端な活動を続行している。闘い続けるのはハード過ぎるのかもしれないし、それだけで十分とするべきなのかもしれないが、今こそ彼らみたいなバンドが必要なのにーーと、4人が残した穴の大きさを思い知らされるリイシューである。
【関連サイト】
RAGE AGAINST THE MACHINE
RAGE AGAINST THE MACHINE 『RAGE AGAINST THE MACHINE』
『レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン』
1992年作品
アートというものが時代の産物なのだとしたら、1991年に結成されたレイジ・アゲインスト・ザ・マシーン(以下RATM)は、1980年代が産んだバンドということになるのだろう。アメリカの1980年代といえば、レーガン〜ブッシュの共和党政権が続き、一気に保守化。福祉を切り捨てて、富裕層や企業優遇の経済政策を推し進めて貧富の格差が拡大し、第三世界への軍事介入を繰り返して強権的な大国のイメージを強め、最後の年に湾岸戦争に突入ーーという10年だったわけだが、まさにそんな国の在り方へのダイレクトな反動としてロサンゼルスに誕生したのが、RATMーーザック・デ・ラ・ロッチャ(MC)、トム・モレロ(ギター)、ティム・コマーフォード(ベース)、ブラッド・ウィルク(ドラムス)ーーだったと思う。
特に彼らの場合、メンバー構成が多くを物語っている。ザックはメキシコ系アメリカ人で、ヒスパニックのアイデンティティを掘り下げる作品で知られた画家を父に持ち、トムの父は、母国ケニアの独立闘争で主導的役割を果たした人物のひとり。どちらも白人の住民が多い地区で育ち、人種差別を身をもって体験して、国内外の弱者に共感を抱いていた。よって彼らのイデオロギーは、圧倒的に左寄り。抑圧され搾取される人々に不服従と抵抗を訴えて、白人主導の体制が作り上げた歴史や価値観を拒絶し、真実は自分で見極めようーーと唱えたのが、このたびリリース20周年を記念して再発されたデビュー作『レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン』である。80年代半ばに台頭したヒップホップのコミュニケーション力に惚れ込んで、そこにハードコア・パンク的解釈を加えたザックのラップは、さながら釘爆弾、でなければ火炎瓶に似たDIY的な破壊力を備えていたが、それを縁どるのがビートやサンプルじゃなかったところに、RATMの先駆性があった。それどころか、本作には〈サンプル、キーボード、シンセは一切使われていない〉との但し書きが添えられ、平均的ロックファンとして子供の頃から親しんだメタル/ハードロック、例えばレッド・ツェッペリンやブラック・サバスにインスパイアされたラウドでヘヴィな音で、ラップのアグレッションを引き立てようとしたのである。彼らに先立ってパブリック・エナミーとアンスラックス、ランDMCとエアロスミスのコラボが見せたヒップホップとロックの互換性を、徹底的に掘り下げるべく。
世界中で多くのファンを惹き付け、本作をセールス600万枚の大ヒットにしたのも、もしかしたら政治的なメッセージ性ではなくて、この斬新なサウンドの威力だったのかもしれない。だが究極的に4人は、ヒットがもたらした影響力を活用して、自分たちにとって思い入れの深い問題(音楽作品の検閲制度導入、ネイティヴ・アメリカンの人権侵害などなど)を俎上に載せることに成功したのだから、狙い通りの結果に到達したと言えるんだろう。そもそも、アンチ商業主義を掲げながらソニーと契約したのも、敬愛するザ・クラッシュに倣って、大手レーベルのシステムを利用して出来る限り多くの人にメッセージを伝えようという理由から。また、RATMのそういう活動姿勢はアメリカのシーンでは唯一無二だったものの、実は海の向こうに、全く同じ理由でソニーと契約し、世界を変えてやろうと目論んだ同志がいたことも、今思うと興味深い。そう、数か月差でやはり1stアルバム『ジェネレーション・テロリスト』を発表し、同様に当時のUKロック界で完全に孤立していたマニック・ストリート・プリーチャーズである。表現方法は異なるが、労働者階級に属す彼らもやはり英国の1980年に対するリアクションとしてバンドを始め、左翼思想の持ち主であること、ラヴソングは書かないこと、ザ・クラッシュやパブリック・エネミーを敬愛していること......。共通項はたくさんある。ストイック極まりない両者の〈生き方〉は誰も簡単に真似できなかったようで、後継者がいないという点も然りだ。RATM自身も、結局、3枚のアルバムを発表したのちに解散。2007年に再結成し、ライヴを時折行ないつつ声を上げるべき時は声を上げる、という少々中途半端な活動を続行している。闘い続けるのはハード過ぎるのかもしれないし、それだけで十分とするべきなのかもしれないが、今こそ彼らみたいなバンドが必要なのにーーと、4人が残した穴の大きさを思い知らされるリイシューである。
(新谷洋子)
【関連サイト】
RAGE AGAINST THE MACHINE
RAGE AGAINST THE MACHINE 『RAGE AGAINST THE MACHINE』
『レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン』収録曲
01. ボムトラック/02. キリング・イン・ザ・ネーム/03. テイク・ザ・パワー・バック/04. セトル・フォー・ナッシング/05. ブレット・イン・ザ・ヘッド/06. ノウ・ユア・エネミー/07. ウェイク・アップ/08. フィストフル・オブ・スティール/09. タウンシップ・リベリオン/10. フリーダム
01. ボムトラック/02. キリング・イン・ザ・ネーム/03. テイク・ザ・パワー・バック/04. セトル・フォー・ナッシング/05. ブレット・イン・ザ・ヘッド/06. ノウ・ユア・エネミー/07. ウェイク・アップ/08. フィストフル・オブ・スティール/09. タウンシップ・リベリオン/10. フリーダム
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