シスターズ・オブ・マーシー 『フラッドランド』
2013.01.13
シスターズ・オブ・マーシー
『フラッドランド』
1987年作品
そんな中で、イングランド北部リーズで結成されたのは1979年ながら、1985年にようやく『マーシーの合言葉』でアルバム・デビューを果たしたシスターズ・オブ・マーシーは、(やはりゴスと呼ばれることを嫌ってはいるが)間違いなく後期オリジナル・ゴスの代表格。曲タイトルからバンド名を拝借したレナード・コーエン、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド、ザ・ストゥージズといった影響源を他のゴス・バンドと共有し、多数のゴス・アンセムを生んだシスターズの首謀者アンドリュー・エルドリッチは、究極のゴス・アイコンだった。声は地底を這い、長身で黒髪、頬はごっそりとこけ、黒ずくめのファッションとドロップ型サングラスで身を固め、オックスフォード大中退という学歴も相俟ってやたらカッコ良く思えたものだ。実際彼の魅力が人気に貢献したことは疑う余地なく、チャート上でも健闘。中でも最大のヒット作であり、かつ最高の完成度を誇るのが、UKチャート最高9位を記録し、3曲のトップ20ヒット(「ジス・コロージョン」「ドミニオン/マザー・ロシア」「マイ・リフレクション」)を輩出した2nd『フラッドランド』(1987年)である。
頻繁なメンバー・チェンジも有名だったシスターズ、同作ではアンドリューと元ザ・ガン・クラブのベース奏者パトリシア・モリソンのデュオ編成だったものの、ミートローフのコラボレーターとして有名なジム・スタインマンを一部のプロダクションで起用し、あとはアンドリューが単独で作り上げたアルバムだという。いや、厳密には「単独」ではなく、重要なコラボレーターがひとりいたことを忘れてはならない。というのもシスターズは当初からドラマー不在で、一貫して〈Doktor Avalanche〉と命名されたドラムマシーンを使用。アンドリューは元祖エレクトロ/インダストリアル・バンド=スーサイドの信奉者だから不思議な話ではないし、前述した通り単調なゴス系のビートは、マシーンとの互換性が高い。殊に『フラッドランド』の場合、前作までのギターに代わってキーボードを主役に据えて、ベースもシンセで演奏。シーケンサーを多用して非常にシンプルに構築され、ダンサブル&エレクトロニックな、少々異色のゴス・アルバムなのである。また構成がシンプルな分、空間をたっぷりと含んでおり、まるで広大な廃墟の中で響いているかのような、或いは、空高くそびえる塔の頂きから鳴らされているかのような音色を擁し、ひたすらに不穏さを醸すメロディ/コード進行との相性は絶妙。これまた問答無用のゴス・アンセム「ジス・コロージョン」に至っては、アンドリューのバリトン、数十人編成のクワイアの歌声、そしてパイプオルガンに似たシンセの音が醸す荘厳なシアトリカリティと、キャッチーでディスコっぽいビートがせめぎ合う、実に奇妙なミクスチュアを披露している。この滑稽スレスレの感覚、ファンでなければ思わず吹き出してしまいかねないし、滑稽と言えばジャケットも然りなのだが、「非日常」というのもゴスの極意で、『フラッドランド』にはお似合いなのだ。
そんなアルバムでアメリカのクラブ・チャートにも出没してファンを増やすと、続く3rd『ヴィジョン・シング』(1990年)では再びギター・ロックに回帰し、共和党政権下のアメリカ批評を繰り広げ、なんとパブリック・エナミーとの全米ツアーを企画。あまりにもファン層が異なるために問題が生じて、途中でキャンセルを余儀なくされたが、エレクトロニクス導入といい、今思うと異種交配に積極的な革新的バンドだったと言えるんだろう。以来20年以上新作がないまま、引き続きメンバーを始終入れ替えつつ、ツアーを行なっているシスターズ。〈Doktor Avalanche〉だけは、今ではラップトップでプログラム化されてはいるものの、相変わらず忠実なパートナーとしてアンドリューに寄り添っている。
【関連サイト】
THE SISTERS OF MERCY
THE SISTERS OF MERCY『FLOODLAND』
『フラッドランド』
1987年作品
ゴスっていったい何なのか? バウハウスにザ・キュアー、スージー&ザ・バンシーズなどなど一般的にそう呼ばれている音楽/バンドが大好きなのに、実は自分でも定義はよく分からないでいる。今ざっと挙げた例にしてもそれぞれ音楽性に開きがあるし、当事者が「ゴス」と括られることを嫌うケースも少なくないので、そもそも最初から曖昧なジャンルなのだろう。語源は言うまでもなく、中世ヨーロッパの建築・装飾様式である「ゴシック(gothic)」、この言葉が含む「野蛮」や「異端」というニュアンスにも関係していると思うのだが、特徴としては、重苦しいダークなモノトーンの音、単調でトライバルなビート、鋭角的なギター、地鳴りのように低く深い歌声、シアトリカリティ、宗教的シンボリズム、文学的ロマンティシズム......。ヴィジュアルも非常に重要な要素で、とにかくヘアもメイクも服も黒一色。30年前のポストパンク期に英国で形成された、そういうざっくりとしたイメージは以後そのまま定着し、現在に至るまで音楽やファッションのトレンドに形を変えて度々姿を見せている。
そんな中で、イングランド北部リーズで結成されたのは1979年ながら、1985年にようやく『マーシーの合言葉』でアルバム・デビューを果たしたシスターズ・オブ・マーシーは、(やはりゴスと呼ばれることを嫌ってはいるが)間違いなく後期オリジナル・ゴスの代表格。曲タイトルからバンド名を拝借したレナード・コーエン、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド、ザ・ストゥージズといった影響源を他のゴス・バンドと共有し、多数のゴス・アンセムを生んだシスターズの首謀者アンドリュー・エルドリッチは、究極のゴス・アイコンだった。声は地底を這い、長身で黒髪、頬はごっそりとこけ、黒ずくめのファッションとドロップ型サングラスで身を固め、オックスフォード大中退という学歴も相俟ってやたらカッコ良く思えたものだ。実際彼の魅力が人気に貢献したことは疑う余地なく、チャート上でも健闘。中でも最大のヒット作であり、かつ最高の完成度を誇るのが、UKチャート最高9位を記録し、3曲のトップ20ヒット(「ジス・コロージョン」「ドミニオン/マザー・ロシア」「マイ・リフレクション」)を輩出した2nd『フラッドランド』(1987年)である。
頻繁なメンバー・チェンジも有名だったシスターズ、同作ではアンドリューと元ザ・ガン・クラブのベース奏者パトリシア・モリソンのデュオ編成だったものの、ミートローフのコラボレーターとして有名なジム・スタインマンを一部のプロダクションで起用し、あとはアンドリューが単独で作り上げたアルバムだという。いや、厳密には「単独」ではなく、重要なコラボレーターがひとりいたことを忘れてはならない。というのもシスターズは当初からドラマー不在で、一貫して〈Doktor Avalanche〉と命名されたドラムマシーンを使用。アンドリューは元祖エレクトロ/インダストリアル・バンド=スーサイドの信奉者だから不思議な話ではないし、前述した通り単調なゴス系のビートは、マシーンとの互換性が高い。殊に『フラッドランド』の場合、前作までのギターに代わってキーボードを主役に据えて、ベースもシンセで演奏。シーケンサーを多用して非常にシンプルに構築され、ダンサブル&エレクトロニックな、少々異色のゴス・アルバムなのである。また構成がシンプルな分、空間をたっぷりと含んでおり、まるで広大な廃墟の中で響いているかのような、或いは、空高くそびえる塔の頂きから鳴らされているかのような音色を擁し、ひたすらに不穏さを醸すメロディ/コード進行との相性は絶妙。これまた問答無用のゴス・アンセム「ジス・コロージョン」に至っては、アンドリューのバリトン、数十人編成のクワイアの歌声、そしてパイプオルガンに似たシンセの音が醸す荘厳なシアトリカリティと、キャッチーでディスコっぽいビートがせめぎ合う、実に奇妙なミクスチュアを披露している。この滑稽スレスレの感覚、ファンでなければ思わず吹き出してしまいかねないし、滑稽と言えばジャケットも然りなのだが、「非日常」というのもゴスの極意で、『フラッドランド』にはお似合いなのだ。
そんなアルバムでアメリカのクラブ・チャートにも出没してファンを増やすと、続く3rd『ヴィジョン・シング』(1990年)では再びギター・ロックに回帰し、共和党政権下のアメリカ批評を繰り広げ、なんとパブリック・エナミーとの全米ツアーを企画。あまりにもファン層が異なるために問題が生じて、途中でキャンセルを余儀なくされたが、エレクトロニクス導入といい、今思うと異種交配に積極的な革新的バンドだったと言えるんだろう。以来20年以上新作がないまま、引き続きメンバーを始終入れ替えつつ、ツアーを行なっているシスターズ。〈Doktor Avalanche〉だけは、今ではラップトップでプログラム化されてはいるものの、相変わらず忠実なパートナーとしてアンドリューに寄り添っている。
(新谷洋子)
【関連サイト】
THE SISTERS OF MERCY
THE SISTERS OF MERCY『FLOODLAND』
『フラッドランド』収録曲
01. ドミニオン/マザー・ロシア/02. フラッドI/03. マイ・リフレクション/04. 1959/05. ジス・コロージョン/06. フラッドII/07. ドリヴン・ライク・ザ・スノウ/08. ネヴァー・ランド/09. トーチ/10. カラーズ
01. ドミニオン/マザー・ロシア/02. フラッドI/03. マイ・リフレクション/04. 1959/05. ジス・コロージョン/06. フラッドII/07. ドリヴン・ライク・ザ・スノウ/08. ネヴァー・ランド/09. トーチ/10. カラーズ
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