スウェード 『スウェード』
2013.03.24
スウェード
『スウェード』
1993年作品
......というのは少々大袈裟な話で、サード辺りになると題材も変わってゆくのだが、今からちょうど20年前の1993年にデビュー作『スウェード』が登場した時、我々を夢中にさせたのは、そういう得も言われぬいかがわしさにほかならなかった。自らのイメージを扇情的に演出するかのようなメンバーのコメント(例:ブレット「僕はゲイ体験のないバイセクシュアル」)も相俟って、デンジャラスな色香を濃厚に放っていた当時のスウェードのラインナップは、ブレット、バーナード・バトラー(g)、マット・オスマン(b)、サイモン・ギルバート(ds)。この4人で完成させた唯一のアルバムが『スウェード』であり、まさに、曲作りも共同で行なっていたブレットとバーナードの閃光みたいなパートナーシップが、本作をスペシャルにしていたんだと思う。取材でふたりに会ってみると、上記のような発言を軽々と口にするブレットに対し、バーナードは生真面目で繊細な職人系ーーというキャラの差に驚かされたが、コインの表裏みたいな関係こそ偉大な音楽的パートナーシップの必須条件。ブレットが綴る断片的で暗示的な歌詞は、彼のシアトリカルなヴォーカルを介して、社会の底辺に沈殿しているアウトサイダーたちの破滅的生活を映画のように脳裏に投影し、ミック・ロンソンとジョニー・マーのスピリットが同居するバーナードのギターは、「メタル・ミッキー」ではディストーションで汚した華々しいノイズを鳴らし、「パントマイム・ホース」を歌詞以上に雄弁な音でサイケデリックなエレジーに仕上げ、退廃をグラマラスに、絶望感を優美に塗り上げる。そう、「歌とギターが挑発し合うデュエット」と評しても過言じゃない作品なのだ。
そんなふたりとサイモンとマットが音楽的インスピレーションを求めたのは、グラムからポストパンクに至る純ブリティッシュなロック。本作は、同じようにセクシュアリティの境を曖昧にして聴き手のイマジネーションを掻き立て、英国的な美意識を曲に反映させてきた、デヴィッド・ボウイやザ・スミスの後継者として自らを位置付けるアルバムでもあった。それに、アメリカのグランジ勢がシーンを席巻するグレーに淀んだ時代に突如出現しただけに、スウェードのアンドロジナスできらびやかな佇まいは殊更に強烈な異彩を放ち、地元のマスコミを熱狂させたことはご存知の通り(『メロディ・メイカー』紙はシングル・デビューを待たずに〈The Best New Band in Britain〉と謳って彼らを表紙にした)。彼らは大いに期待に応えて、アミル・ナイトレイト(ドラッグとしても使われる血管拡張剤の亜硝酸アミル)をもじったタイトルが物語るように、かなりキワどい内容の先行シングル「アニマル・ナイトレイト」を全英トップ10に送り込んで、本作はナンバーワンに輝き、マーキュリー音楽賞も獲得。その後、これまた名盤のセカンド『ドッグ・マン・スター』のレコーディング中にバーナードが脱退してしまったものの、サード『カミング・アップ』で新メンバーを迎えて見事に再生し、さらに解散・再結成を経て、2013年3月、11年ぶりの新作『ブラッドスポーツ』をリリースして3度目のスタートを切った。
本作と同じエド・ブラーをプロデューサーに迎えた『ブラッドスポーツ』はしかも、20代のアーティストとも競える若々しい情熱でスウェード節をアップデートした、掛け値なしの傑作。ブレットは筆者とのインタヴューの中で、旧譜のリイシュー作業でキャリアを振り返ってスウェードらしさを見極めたことが、こんなアルバムを可能にしたと話していたけど、『スウェード』のリイシュー盤に彼はちゃっかり、「歴史を書き換えられるなら」と前置きして「裏トラックリスト」を添えていたっけ。「ムーヴィング」を「マイ・インセイシャブル・ワン」、「アニマル・ラヴァー」を「トゥ・ザ・バーズ」で差し替えるというもので、どちらもデビュー・シングル「ザ・ドラウナーズ」のB面曲かつ、ライヴの定番でもある。アルバムに収録して当然の名曲を足蹴にしたのは若気の至りだったのか、なるほど、これは確かにパーフェクトなマッチ。時間が許せば、ぜひブレットのサジェスチョンも試されたし。
【関連サイト】
suede
suede(CD)
『スウェード』
1993年作品
2012年7月、再結成してから2回目の来日を果たしたスウェードを、妙齢女性4人で勇んで観に行った時のこと。年甲斐もなく最前ブロックに押しかけてもみくちゃになって、若い頃と変わらぬルックスを保つブレット・アンダーソン(vo)に見惚れた我々は、「散々歌っちゃったけど、ほんと、ドラッグとセックスの曲ばっかだよね」と、大笑いしながら帰ったのを覚えている。
......というのは少々大袈裟な話で、サード辺りになると題材も変わってゆくのだが、今からちょうど20年前の1993年にデビュー作『スウェード』が登場した時、我々を夢中にさせたのは、そういう得も言われぬいかがわしさにほかならなかった。自らのイメージを扇情的に演出するかのようなメンバーのコメント(例:ブレット「僕はゲイ体験のないバイセクシュアル」)も相俟って、デンジャラスな色香を濃厚に放っていた当時のスウェードのラインナップは、ブレット、バーナード・バトラー(g)、マット・オスマン(b)、サイモン・ギルバート(ds)。この4人で完成させた唯一のアルバムが『スウェード』であり、まさに、曲作りも共同で行なっていたブレットとバーナードの閃光みたいなパートナーシップが、本作をスペシャルにしていたんだと思う。取材でふたりに会ってみると、上記のような発言を軽々と口にするブレットに対し、バーナードは生真面目で繊細な職人系ーーというキャラの差に驚かされたが、コインの表裏みたいな関係こそ偉大な音楽的パートナーシップの必須条件。ブレットが綴る断片的で暗示的な歌詞は、彼のシアトリカルなヴォーカルを介して、社会の底辺に沈殿しているアウトサイダーたちの破滅的生活を映画のように脳裏に投影し、ミック・ロンソンとジョニー・マーのスピリットが同居するバーナードのギターは、「メタル・ミッキー」ではディストーションで汚した華々しいノイズを鳴らし、「パントマイム・ホース」を歌詞以上に雄弁な音でサイケデリックなエレジーに仕上げ、退廃をグラマラスに、絶望感を優美に塗り上げる。そう、「歌とギターが挑発し合うデュエット」と評しても過言じゃない作品なのだ。
そんなふたりとサイモンとマットが音楽的インスピレーションを求めたのは、グラムからポストパンクに至る純ブリティッシュなロック。本作は、同じようにセクシュアリティの境を曖昧にして聴き手のイマジネーションを掻き立て、英国的な美意識を曲に反映させてきた、デヴィッド・ボウイやザ・スミスの後継者として自らを位置付けるアルバムでもあった。それに、アメリカのグランジ勢がシーンを席巻するグレーに淀んだ時代に突如出現しただけに、スウェードのアンドロジナスできらびやかな佇まいは殊更に強烈な異彩を放ち、地元のマスコミを熱狂させたことはご存知の通り(『メロディ・メイカー』紙はシングル・デビューを待たずに〈The Best New Band in Britain〉と謳って彼らを表紙にした)。彼らは大いに期待に応えて、アミル・ナイトレイト(ドラッグとしても使われる血管拡張剤の亜硝酸アミル)をもじったタイトルが物語るように、かなりキワどい内容の先行シングル「アニマル・ナイトレイト」を全英トップ10に送り込んで、本作はナンバーワンに輝き、マーキュリー音楽賞も獲得。その後、これまた名盤のセカンド『ドッグ・マン・スター』のレコーディング中にバーナードが脱退してしまったものの、サード『カミング・アップ』で新メンバーを迎えて見事に再生し、さらに解散・再結成を経て、2013年3月、11年ぶりの新作『ブラッドスポーツ』をリリースして3度目のスタートを切った。
本作と同じエド・ブラーをプロデューサーに迎えた『ブラッドスポーツ』はしかも、20代のアーティストとも競える若々しい情熱でスウェード節をアップデートした、掛け値なしの傑作。ブレットは筆者とのインタヴューの中で、旧譜のリイシュー作業でキャリアを振り返ってスウェードらしさを見極めたことが、こんなアルバムを可能にしたと話していたけど、『スウェード』のリイシュー盤に彼はちゃっかり、「歴史を書き換えられるなら」と前置きして「裏トラックリスト」を添えていたっけ。「ムーヴィング」を「マイ・インセイシャブル・ワン」、「アニマル・ラヴァー」を「トゥ・ザ・バーズ」で差し替えるというもので、どちらもデビュー・シングル「ザ・ドラウナーズ」のB面曲かつ、ライヴの定番でもある。アルバムに収録して当然の名曲を足蹴にしたのは若気の至りだったのか、なるほど、これは確かにパーフェクトなマッチ。時間が許せば、ぜひブレットのサジェスチョンも試されたし。
(新谷洋子)
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suede
suede(CD)
『スウェード』収録曲
01. ソー・ヤング/02. アニマル・ナイトレイト/03. シーズ・ノット・デッド/04. ムーヴィング/05. パントマイム・ホース/06. ザ・ドラウナーズ/07. スリーピング・ピルズ/08. ブレイク・ダウン/09. メタル・ミッキー/10. アニマル・ラヴァー/11. ザ・ネクスト・ライフ
01. ソー・ヤング/02. アニマル・ナイトレイト/03. シーズ・ノット・デッド/04. ムーヴィング/05. パントマイム・ホース/06. ザ・ドラウナーズ/07. スリーピング・ピルズ/08. ブレイク・ダウン/09. メタル・ミッキー/10. アニマル・ラヴァー/11. ザ・ネクスト・ライフ
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