シンプル・マインズ 『ライフ・イン・ア・デイ』
2013.04.13
シンプル・マインズ
『ライフ・イン・ア・デイ』
1979年作品
そんなわけでこの際思い切り遡って、1979年に登場したデビュー作『ライフ・イン・ア・デイ(邦題:駆け足の人生)』に注目してみたいと思う。なぜって、最近たまたま同作からの2曲のシングル「ライフ・イン・ア・デイ」と「チェルシー・ガール」をBBCラジオで相次いで耳にし、当時フューチャリスティックなポップソングとして鳴らされた、ヨーロピアンなロマンティシズム満々の曲が、ポストパンク・サウンドが完全に音楽的ヴォキャブラリーに吸収された2013年に、いたってコンテンポラリーに響くことにビックリさせられたのである。久々にアナログ盤を引っ張りだしてみると、ジャケット裏に写っている5人の結成メンバー:ジム・カー(vo)、チャーリー・バーチル(g)、デレク・フォーブス(b)、マイケル・マクニール(key)、ブライアン・マッギー(dr)が揃ってアイライナーをバッチリ引いているのは、さすが時代柄。プロデューサーは、のちにザ・ストーン・ローゼズのファーストやレディオヘッドの『ザ・ベンズ』を手掛けたUKロックのレジェンド=ジョン・レッキーである。
ジョンと言えば1960年代っぽいサイケな音で知られる人だが、まだ駆け出しの頃に関わった本作にも、確かにその手の匂いが感じられる。「プレゼントリー・ディスターブド」はヴェルヴェット・アンダーグラウンドの「毛皮のヴィーナス」に通ずる重々しいトーンに包まれ、「チェルシー・ガール」はずばりニコへのオマージュだったりもして、実は当初はジョン・ケールにプロデュースを依頼したかったのだとか。でも、彼らが本作の要としているのはサイケデリアだけじゃない。鋭角的なギターとシャイニーなシンセがせめぎ合う冒頭の「サムワン」が象徴するように、主要なインスピレーション源は1970年代全般で、バズコックス〜マガジン、エルヴィス・コステロ、XTCに辿れるパンク、ロキシー・ミュージックのグラムロック、クラフトワークほか一連のクラウトロック......と、曲ごとに屈託なく影響源を披歴。サックスをフィーチャーしたモロにロキシーな「ノー・キュア」が好例で、ジムのクセのある歌い方もブライアン・フェリー直系? 人生で初めてアルバムを作る若者たちらしい、「好きな音楽を全部詰め込んでしまおう!」という無邪気な姿勢が窺える。それゆえに少々まとまりに欠けていて、かつツルピカなプロダクションも少々災いし、ここではシグネチャー・サウンド確立には至っていないのだが、このあとバンドはまさに駆け足で進化。半年後には2nd『リアル・トゥ・リアル・カコフォニー』を発表し、実験を重ねて雑多な影響源を結合させ、プログレ界の鬼才スティーヴ・ヒレッジがプロデュースした4作目『サンズ・アンド・ファシネーション』で一旦実験性を極めると、5作目『黄金伝説』でポップ性と実験性のバランスを見出して商業的成功を収めた彼ら。その両方の側面が最初からバンドの本質として備わっていたことを、本作は物語っていると思う。
そんなシンプル・マインズが、スタジアム・バンドという新しい衣装を着こなせずに大味なロックバンドに変質してしまったのは、元からそういうアーティストじゃなかったからなんだろう。その後の彼らを複雑な気持ちで眺めてきたファンは少なくないはずだが、トーク・トークと異なる点がもうひとつ。今やジムとチャーリーしか残っていないもののバンドは現役で、間もなく16枚目のアルバムがお目見得するらしい。近作は決して悪くないし、2012年は初期5作品を収めたボックスセットが登場する一方、それらを1枚ずつ完全再現するツアーも敢行。原点確認モードを経ての新譜に、ちょっとばかり期待せずにいられない。
【関連サイト】
SIMPLE MINDS
SIMPLE MINDS(動画)
『ライフ・イン・ア・デイ』
1979年作品
キャリアの出発点とその後の着地点が大きく異なるーーという点では、以前ご紹介したトーク・トークに似ている。もっともシンプル・マインズの場合は逆のパターンで、初期を知らない人はあまりいい印象を抱いていないかもしれない。スコットランドのグラスゴーで1977年に結成されたこのバンドは、1985年にリリースした映画『ブレックファスト・クラブ』のテーマ曲「Don't You(Forget About Me)」(本人たちのオリジナル曲ではない)が全米ナンバーワンに輝くなどして、世界的に大ブレイク。ポストU2的なスタジアム・バンドと化した経緯はご承知の通りだ。が、そこに至るまでに彼らは6枚のアルバムを送り出し、しかも最初の5枚(4枚目は2枚組)はデビューから3年間に発表するという恐ろしく充実したアーリー・イヤーズを誇っており、遡れば遡るほどフリーキーでアヴァンギャルドな実験主義者たちだったことが分かる。同郷のプライマル・スクリームやマニック・ストリート・プリーチャーズを始め影響を公言する後続バンドは少なくないし、近年ではホラーズの最新作『スカイング』も、まるで初期シンプル・マインズとサイケデリック・ファーズのミクスチュアで、本人たちも影響を認めていたものだ。
そんなわけでこの際思い切り遡って、1979年に登場したデビュー作『ライフ・イン・ア・デイ(邦題:駆け足の人生)』に注目してみたいと思う。なぜって、最近たまたま同作からの2曲のシングル「ライフ・イン・ア・デイ」と「チェルシー・ガール」をBBCラジオで相次いで耳にし、当時フューチャリスティックなポップソングとして鳴らされた、ヨーロピアンなロマンティシズム満々の曲が、ポストパンク・サウンドが完全に音楽的ヴォキャブラリーに吸収された2013年に、いたってコンテンポラリーに響くことにビックリさせられたのである。久々にアナログ盤を引っ張りだしてみると、ジャケット裏に写っている5人の結成メンバー:ジム・カー(vo)、チャーリー・バーチル(g)、デレク・フォーブス(b)、マイケル・マクニール(key)、ブライアン・マッギー(dr)が揃ってアイライナーをバッチリ引いているのは、さすが時代柄。プロデューサーは、のちにザ・ストーン・ローゼズのファーストやレディオヘッドの『ザ・ベンズ』を手掛けたUKロックのレジェンド=ジョン・レッキーである。
ジョンと言えば1960年代っぽいサイケな音で知られる人だが、まだ駆け出しの頃に関わった本作にも、確かにその手の匂いが感じられる。「プレゼントリー・ディスターブド」はヴェルヴェット・アンダーグラウンドの「毛皮のヴィーナス」に通ずる重々しいトーンに包まれ、「チェルシー・ガール」はずばりニコへのオマージュだったりもして、実は当初はジョン・ケールにプロデュースを依頼したかったのだとか。でも、彼らが本作の要としているのはサイケデリアだけじゃない。鋭角的なギターとシャイニーなシンセがせめぎ合う冒頭の「サムワン」が象徴するように、主要なインスピレーション源は1970年代全般で、バズコックス〜マガジン、エルヴィス・コステロ、XTCに辿れるパンク、ロキシー・ミュージックのグラムロック、クラフトワークほか一連のクラウトロック......と、曲ごとに屈託なく影響源を披歴。サックスをフィーチャーしたモロにロキシーな「ノー・キュア」が好例で、ジムのクセのある歌い方もブライアン・フェリー直系? 人生で初めてアルバムを作る若者たちらしい、「好きな音楽を全部詰め込んでしまおう!」という無邪気な姿勢が窺える。それゆえに少々まとまりに欠けていて、かつツルピカなプロダクションも少々災いし、ここではシグネチャー・サウンド確立には至っていないのだが、このあとバンドはまさに駆け足で進化。半年後には2nd『リアル・トゥ・リアル・カコフォニー』を発表し、実験を重ねて雑多な影響源を結合させ、プログレ界の鬼才スティーヴ・ヒレッジがプロデュースした4作目『サンズ・アンド・ファシネーション』で一旦実験性を極めると、5作目『黄金伝説』でポップ性と実験性のバランスを見出して商業的成功を収めた彼ら。その両方の側面が最初からバンドの本質として備わっていたことを、本作は物語っていると思う。
そんなシンプル・マインズが、スタジアム・バンドという新しい衣装を着こなせずに大味なロックバンドに変質してしまったのは、元からそういうアーティストじゃなかったからなんだろう。その後の彼らを複雑な気持ちで眺めてきたファンは少なくないはずだが、トーク・トークと異なる点がもうひとつ。今やジムとチャーリーしか残っていないもののバンドは現役で、間もなく16枚目のアルバムがお目見得するらしい。近作は決して悪くないし、2012年は初期5作品を収めたボックスセットが登場する一方、それらを1枚ずつ完全再現するツアーも敢行。原点確認モードを経ての新譜に、ちょっとばかり期待せずにいられない。
(新谷洋子)
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SIMPLE MINDS
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『ライフ・イン・ア・デイ』収録曲
01. サムワン/02.ライフ・イン・ア・デイ/03. サッド・アフェア/04. オール・フォー・ユー/05. プレゼントリー・ディスターブド/06. ノー・キュア/07. チェルシー・ガール/08. ウェイストランド/09. デスティニー/10. マーダー・ストーリー
01. サムワン/02.ライフ・イン・ア・デイ/03. サッド・アフェア/04. オール・フォー・ユー/05. プレゼントリー・ディスターブド/06. ノー・キュア/07. チェルシー・ガール/08. ウェイストランド/09. デスティニー/10. マーダー・ストーリー
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