音楽 POP/ROCK

ワム! 『メイク・イット・ビッグ』

2013.11.21
ワム!
『メイク・イット・ビッグ』
1984年作品


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 中学時代に出会ったジョージ・マイケル(ヴォーカル)とアンドリュー・リッジリー(ギター)が18歳の時に結成し、1980年代を代表するアイドル〜アーティストのひと組へと成長したワム!について、何よりも驚くべきことは、その若さでジョージが一貫して作詞作曲のみならずプロデュースまで手掛けていたという点だろう。3枚のアルバムの中でも最高傑作と位置付けられ、最大のヒット作でもあるのはセカンド『メイク・イット・ビッグ』(1984年)なのだが、久々に聴き直してみると、軽いショックを受けるほどに曲のクオリティは高い。実際本作のリリースに際したインタヴュー記事を読み返していたら、ジョージは「ワム!の成功は僕のソングライティング能力に全てを負っている」と明言していたものだ(当時10代だった筆者に言わせれば、ルックスもかなり大きく貢献していると思うけど......)。

 そもそもデビュー時のワム!は反抗心に溢れ、ファースト『ファンタスティック』では失業問題に言及したり、大不況時代を生きる自分たちの世代の声を代弁していた。しかしふたりは、英米両チャートで1位を獲得した本作からの先行シングル「ウキウキ・ウェイク・ミー・アップ」で、作風をカラフルかつ普遍的に塗り替える。ノリは能天気ながら、よくよく耳を傾けるとドゥーワップやソウルなどオーセンティックな1950〜1960年代の音楽を引用した「ウキウキ・ウェイク・ミー・アップ」は、実に良く出来たポップソングで、まさにアルバムの方向性を予告していた。つまり、一見キャッチーで他愛ないポップソングのようでいて、どの曲も古風な音楽スタイルに根差した細やかなクラフツマンシップに貫かれ、生楽器を贅沢に配して構築されていたのである。ファンクを独自解釈した「恋のかけひき」然り、モータウン・ソウルと60年代のガール・ポップが出会う「フリーダム」(こちらも全英1位に)や「クレジット・カード・ベイビー」然り。古風といえば、「イフ・ユー・ワー・ゼア」は1973年のアイズレー・ブラザーズの曲のカバーだった。

 そして最終的にジョージの評価を決定付けたのが、言うまでもなく、本作から3枚目のUKナンバーワン・シングルとなった「ケアレス・ウィスパー」だ。シャーデーにもひけをとらない、このジャジーなアダルト・コンテンポラリー・バラードを彼は18歳の時に綴っており、ソウルの聖地である米南部のマッスル・ショールズに出向いて伝説的プロデューサーのジェリー・ウェクスラーと録音したにもかかわらず、仕上がりに満足できず自らレコーディングし直したとの逸話がある。また詞のほうでも、恋人を裏切った罪悪感に苛まれる男の気持ちを切々と描いて一編の濃密なストーリーに仕立てたジョージ。他の曲でも彼が描く人間模様は実にドラマティックで、「恋のかけひき」や「クレジット・カード・ベイビー」では愛情とお金の関係を題材に選んで80年代の拝金主義に言及し、引き続き社会批評を含ませるなど、リリシストとしても全く年齢に限定されていなかった。それでもって、あの歌声である。天才と言ってしまえばそれまでなのだが、タイムレスで対象を限定しない曲を歌って自分のスタイルを確立していれば、年齢と共にズレが生じることもないってことを本作は物語っている。

 ちなみに彼らは1984年末にはご存知、「ラスト・クリスマス」をリリース。今年もそろそろあのメロディが街中で響き始めるのだろう。誰がいつ書いたのか知らないままに聴き親しんでいる若者たちも多いに違いないけど、それでこそ音楽の真価が証明されるというものだ。
(新谷洋子)


【関連サイト】
ワム!『メイク・イット・ビッグ』(CD)
GEORGE MICHAEL
「Careless Whisper」
『メイク・イット・ビッグ』収録曲
01. ウキウキ・ウェイク・ミー・アップ/02. 恋のかけひき/03. ハートビート/04. 消えゆく思い/05. フリーダム/06. イフ・ユー・ワー・ゼア/07. クレジット・カード・ベイビー/08. ケアレス・ウィスパー

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