音楽 POP/ROCK

テイク・ザット 『エヴリシング・チェンジズ』

2013.12.16
テイク・ザット
『エヴリシング・チェンジズ』
1993年作品


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 まず最初に断らなくてはならないが、筆者はテイク・ザットの大ファンだ。なので贔屓目になるのは免れない。それにしても、数年ぶりにこうしてセカンド・アルバム『Everything Changes』(1993年)を聴いてみて、その完全無欠ぶりに仰天している。え、これってベストじゃないんだよね?と。そう感じたのも無理はなし、本作からカットされた6曲のシングルは全て全英トップ3圏内にチャートインし、うち4曲(「Pray」「Relight My Fire」「Babe」「Everything Changes」)が連続で初登場ナンバーワンを獲得。アルバム1枚から6曲がトップ10ヒットと化したことは、英国では後にも先にも例がない。

 そんなランドマーク的アルバムを改めてご紹介する前に、少しテイク・ザットについて説明しておこう。1990年の結成当初は誰にも相手にされず、自主制作シングルでデビューしたこのマンチェスター出身の5人組ボーイ・バンド(海外で男性アイドル・グループはそう総称されている)は、一夜に3〜4軒のクラブを周ってパフォーマンスするというハードワークの甲斐あって徐々にファン層を築き、7枚目のシングル「Could It Be Magic」で初のトップ3位入りを果たして、本作で爆発的ブレイクに至った。続くサード・アルバム『Nobody Else』も劣らぬ大ヒットを博し、1996年2月に人気の絶頂で解散。その後、一足先に脱退していたロビー・ウィリアムスは英国史上最大の男性ソロ・アーティストへと成長して、美声のフロントマン兼ソングライターのゲイリー・バーロウとマーク・オーウェンも地道にソロ活動を続けるのだが、2006年になって再結成しツアーを行なったところ、これが破格の成功を収めてアルバム制作も再開。大人になったメンバーのリアリティを映したアダルトなポップ表現を切り拓いて、さらに3枚の傑作をヒットさせている。うち最新作『Progress』(2010年)に伴うツアーは9万人収容のロンドン・ウェンブリー・スタジアム8公演を即完売にするなど、英国史上最大のスケールに膨れ上がり、彼らはボーイ・バンドから「マン・バンド」(英国のマスコミは愛情をこめてそう呼んでいる)へと見事に変身。目下、90年代の全盛期を上回る人気を誇っている。音楽界で再結成ブームが始まって久しいけど、2度目のキャリアでテイク・ザット以上の成功を収めたグループはいないはずだ。

 それはなぜなのか? もちろんメンバー全員がルックスを維持していたことも重要なんだろうが、究極的には、圧巻の曲のクオリティが勝因なんじゃないかと思う。そして、結成時から音楽的ブレーンとして曲作りをほぼ一手に手掛けていたゲイリーの才能が、21歳にして大きく花開いたのが本作だった。ヴォーカリストとしても非の打ちどころなく、かつ、他のメンバーの才能も積極的にショウケースし、ハーモニーに磨きをかけ、颯爽とオープニングを飾るファンク・ポップ「Everything Changes」はロビーが歌い、ラストはマークが歌う「Babe」でフィニッシュ。ある意味、全面的に5人のメンバーがコラボしている現在のテイク・ザットに向けた、最初の一歩だったとも言えるのだろう。計13曲のうち11曲はゲイリーが書き下ろし、「If This Is Love」はハワード・ドナルド(プロのダンサー出身でそれまでは主にコーラスとダンスが彼の見せ場だった)が初めて綴った作品で、残る「Relight My Fire」は1979年のダン・ハートマンによるディスコ・クラシックのカバー。プロデューサーにはビッグネームを起用せず、それも、ゲイリーの曲の魅力を強調することになった。

 ちなみにゲイリーはザ・ビートルズとモータウン・ソウルを音楽的ルーツとしており、いわば伝統主義者。当時のテイク・ザットのビデオクリップを見るとさすが、若い女性とゲイ男性をターゲットにしていただけに露出度が高く、ファン・サービスてんこもりなのだが、普遍的なラヴソングにこだわる彼の曲そのものは、得も言われぬ気品を湛えていたものだ。本作ではどちらかというとそんなゲイリーのソウル・サイドが強く打ち出され、そこに90年代初めの二大トレンドを消化。そう、ひとつは英国を数年前から席巻していたアシッド・ハウス、もうひとつは、アメリカ発のニュージャック・スイングである。BRIT賞で最優秀シングル賞に輝いた「Pray」、或いは先行シングル「Why Can't I Wake Up With You」が後者の代表格なら、キッチュな「Relight My Fire」に加えて、作者のハワードがファルセットで歌う「If This Is Love」や「Meaning of Love」といった4つ打ちダンスポップが、前者の好例だろう。
 また、いずれもファンキーな以上の曲群に対して、それぞれにアプローチを変えたバラード群(エレガントなストリングで彩ったドゥーワップ調の「Love Ain't Here Anymore」、80年代テイストの「Another Crack in My Heart」、王道ロック・バラードを自己流にヒネった「Babe」)も粒揃いで、全編ソウルフルな美メロ、聴き手のハートを高鳴らせるスリル、真摯なエモーション、ドラマティックなストーリー性に貫かれており、まさにタイムレスなポップソングのお手本。前作のリリースから僅か1年のインターバルで、よくもこれだけの曲を揃えられたものだ。実際、40代に突入した今も彼らは何の違和感もなくこれらの曲を歌っているのだから、身をもってタイムレスネスを証明したというわけか?

 結果的に本作は、ファースト・アルバム『Take That and Party』で叶えられなかったUKナンバーワンを5人にもたらし、英国だけで100万枚を売って、なんとブラーの『Parklife』などと並んでマーキュリー賞候補にも挙がった。ご存知、先鋭性やオリジナリティを競う、栄えあるオルタナティヴな音楽賞だ。テイク・ザットはただのアイドルじゃないかもしれないーーと人々に勘付かせたこのアルバムこそ、あれから20年を経てなお、彼らがトップに君臨している理由を物語っている。
(新谷洋子)


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TAKE THAT(動画)
『エヴリシング・チェンジズ』収録曲
01. Everything Changes/02. Pray/03. Wasting My Time/04. Relight My Fire/05. Love Ain't Here Anymore/06. If This Is Love/07. Whatever You Do to Me/08. Meaning of Love/09. Why Can't I Wake Up with You/10. You Are the One/11. Another Crack in My Heart/12. Broken Your Heart/13. Babe

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